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最終話です。
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2人と2匹になるまで (7)






「あ、土方先生。おはようございます」
「――…千鶴?……ああ、そうか。おはよう」

カチャカチャと鳴る食器の音に、カーテンの隙間から入る朝日。妙な違和感を覚えて、ゆっくりと意識が浮上した。
一瞬、キッチンに立っている千鶴と、ソファで寝ている自分をよく理解できなかったが、数秒おいて頭が回り始める。

「私、昨日うっかり寝ちゃって……しかもベットに運んでもらったみたいで、すみません」
「みっ」

ぱたぱたとこちらに来て、水の入ったコップを差し出してくる千鶴。
その後ろをちづがちょこちょこと付いて来た。どうやら、千鶴の後ろをついて回っているようだ。俺の知らぬ間にすっかり仲良しらしい。
コップを受け取って口をつける。千鶴はといえば、申し訳なさそうな顔をしてカーペットに正座していた。

「一晩中、としぞーに付いていてくれて……ありがとうございました」

俺の傍らには猫用ベットで丸くなっている黒猫。
寝たふりなのは丸分かりだが、すぐ千鶴の元へ行かないのは、俺に世話になったと思ってのことだろうか。やはり、変に頭の良い子猫である。

「気にするな。俺もいつの間にか寝ちまったしな」
「すみません。私だけベットで寝ちゃって……」
「疲れてたんだろ?」
「う……それは、そうなんですけど……」
「――でもな」

私がとしぞーを見てるつもりだったんです、と眉を寄せながらつぶやく千鶴の腕を掴んで引き寄せる。ソファに座る俺の膝に、千鶴が横向きに乗る形になった。
空いていたもう片方の手を腰に置けば、ちづに似た、丸くて大きい目がさらに大きくなる。

「ひ、ひじかた、せんせい?」
「疲れてたにしても、無防備過ぎるのは感心しねえな」
「え?」
「誰のところでもそんなんじゃ、俺がこま……」
「み゛ーっ!!」

千鶴の首の後ろに俺の手が回りかけたとき、勢い良く黒い塊が飛び掛かってきた。

「と、としぞー?」
「……いい度胸じゃねえか」

俺の手を小さい爪で思い切り引っ掻くと、ちょこまかと逃げて千鶴の腕の中に収まる。

「やだ……!血が……ごめんなさい!」
「別にこれ位いい。動物に威嚇されるのなんて慣れっこだしな」
「でも……」
「みゃーっ!」
「え?きゃっ!」
「……ちづ、今は遊んでるんじゃねえから……じゃれつくな」

傷を見て真っ青になる千鶴を余所に、俺達が楽しげに遊んでいると思ったらしいちづが突進してきた。俺の胸元に張り付いたのをはがして、千鶴の膝の上に乗せる。

「……ちづ、間違えちゃったの?びっくりしちゃった……」
「にゃ……」

心なしかしょんぼりとするちづを、千鶴が可愛いと言って撫でている。

「……この状況で和むなよ……」
「……そ、そうでした」

はっとして、たちまち顔を赤らめた千鶴の体は、土方の上に座ったままだ。しかし、スカートに隠れた太ももの上は二匹の子猫で占領されている。

「はあ……格好つかねえが、まあいいか」
「え?」

千鶴と近づいたのだって、よく考えればこの二匹のおかげかもしれない。
だから、今回ばかりは二匹とも見逃してやろう。もっとも、愛想の悪い黒猫の方は、俺の説教なんて聞くはずもないが。

「お前、俺が誰でも他人を家に入れるなんて、思ってないよな?」
「……違うん、ですか?」

琥珀色の瞳が動揺で揺れる。

「当たり前だろ」
「!」

たちまちに固まってしまった千鶴。
攻撃して来ないよう、押さえ込まれた黒猫の状態には全く気付いていないようだ。
しかし、押さえ込むと言っても軽く手を置いているだけなのだが、黒猫は不思議と抵抗してこない。
それが隣にいるちづを驚かせないためなのか、千鶴に気を使っているだけなのかは、その子猫らしからぬ不機嫌そうな顔からは読み取れない。

「そろそろ、通院も終わるのは分かってるよな?」
「……あ……そうですね」
「そんな顔するな」
「……み……」
「みゃー…」

千鶴の寂しそうな顔を表現したかのように、二匹が小さい声をあげる。

「じゃあ、一緒に暮らせばいいだろ」
「――…え?」
「不本意だが、ちづがこいつに会いたいって顔するからな」

黒猫から手を移して、ちづの頭を撫でる。ごろごろと喉を鳴らして、ふわふわな毛を擦り寄せてきた。
成り行きでこいつを飼うことになってしまったが、総司や斎藤曰く、既に俺はあきれるほどの親馬鹿らしい。
普段はあいつらに散々からかわれても認めていないが、今くらいは言い訳にしたって許されるだろう。

「……としぞーだって、大好きなちづに会えないのは、とっても寂しいはずです」
「言ってくれるじゃねえか」
「――わ、わたしが、土方先生に会えないのと……一緒で」

少々むくれた顔をしながら、反抗するような言葉の後に続いたのは、予想外の嬉しい告白だった。
本当は、俺から言うつもりだったのだが。

「その言葉、さっきの誘いを受けるってことで良いんだな?」
「は、はい……!」
「決まりだな。訂正は認めねえぞ」
「み゛っ!?」
「にゃ!?」

沸きあがった衝動のまま千鶴を抱きしめれば、いつの間にか俺達の間に入り込んだらしいちづが悲鳴をあげた。
あわてた黒猫が目を丸くしながら助けに入ろうとする。

「はあ……最後まで、格好つかねえ」
「ちづ?大丈夫?」

二匹をいっぺんに抱き上げた千鶴を、仕方なく手加減して抱きしめ直した。

「あったけえな」
「に、二匹も一緒ですから」
「にゃっ♪」
「……み……」

これからは、2人と2匹の生活。


<終>
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