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転生シリーズの転生前子供視点です。
オリジナルキャラ視点ですので、苦手な方はご注意ください。

転生シリーズ過去作はこちらからどうぞ→<作品リスト>

拍手[38回]






かたどる景色




父がいつ居なくなったのか、はっきりとは覚えていない。
――いや、訂正しよう。居なくなったのではなくて、正確には亡くなった。でも、父が弱っている姿を見た覚えはないし、幼い私は居なくなったと考えたほうがしっくりきた。
顔もぼんやしとしか覚えていない。母が「あなたは父様そっくりね」と嬉しそうに笑うので、おそらくこんな顔であったのだろうと思っている。
逆に、はっきりと覚えているのは、父が母にべた惚れであったということ。
いつでも母にかまいたがる父も大概であったが、まあ、母も似たようなものであった。

遊び疲れて居間でうとうとしていると、いつの間にか縁側に父が座る。そして、父の隣に母が座る。
二人は会話を交わしているときもあれば、仲良くうたたねしていることもあったし、ちいさな喧嘩を始めることもあった。
ふたつの背中を取り囲むのは、紅葉であったり、新緑であったりしたが、庭に一本だけあった桜が咲いているときは必ず仲睦まじかったように思う。
私がそうやってぼんやりと眺めていたことなんて、二人は気付いていなかったかもしれない。
それもそのはずだ。私は、二人に起こされるのが好きであった。寝たふりを決め込む私に、父が「仕方ねえなあ」と苦笑し、母がやさしく抱き上げてくれた。
そのまま寝かせてくれることもあったけれど、春は必ず花見へ連れて行かれた。ひどくやさしい時間であったように記憶している。
おそらく、あれが幸せというものだろう。

ひと月前、母が亡くなった。流行り病であった。
身重である自分は、母の看病から遠ざけられてしまった。それがひたすたに悔しい。
腹の子に何かあったらどうするのだという、夫や村の人々の言い分は分かる。
人望のあった母は、村の人々によって手厚く看病された。自分が何をせずとも、結果は同じであっただろう。それも分かっている。
しかし、私は父と約束したのだ。

『千鶴を支えてやってくれ』

内緒話のように、こっそりと伝えられた言葉。今なら分かる。父の本心は「守ってくれ」と言いたかったに違いない。
おそらく、私が女であるから遠慮したのだ。母が言う様に、ぶっきらぼうだけど、本当はやさしい人だから。
幼い私は、父との約束を果たそうと躍起になったらしい。
ずいぶんとお転婆な娘になってしまった。母は穏やかな人であるし、父も落ち着きのある人であったと聞いている。皆が、私が成長を重ねる度に首をかしげていた。
でも、母を支えるだけではなくて、守れる存在になりたかったのだ。
父が居なくなってから、女手ひとつで育ててくれた母が、ずっと笑ってくれるように。

母の遺品はひとつもない。
彼女の身体と一緒に、すべて燃やしてしまった。そこには、生前の母が大事にしていた父の遺品も含まれている。
――父が姿を消してから、どのくらい経っていただろうか。まだ幼かった私は「父様はどこにいったの」と母に聞いたことがあった。
今思うと、無知ゆえに残酷な問いであったが、母は微笑みながら答えた。

『大切な、仲間たちのところへ行ったのよ』

まったく納得ができなかった。
父は、母と一緒に居るのが一番良い。私が知りもしない人たちのところへ行くなんて嫌だ。
まさに子供の駄々といった調子で伝えると、なぜか母は嬉しそうに笑った。それからだろうか、かつて父が居て、母が捕われることになった新選組の話を、寝物語にされるようになったのは。
母があまりにも慈しむように語るので、文句を言うことができなくなった。
代わりに、よく話に出てくる人たちのことを覚え始める。一番偉い近藤さん、意地悪な沖田さん、酒飲みの原田さんと永倉さん。他にもたくさんの屈強な隊士たち。
最初は人斬りと聞いて背筋を凍らせたけれど、どうやら彼らは、武士の志とやらを胸に抱いているらしい。
そういうのは、嫌いじゃない。
もうお転婆に磨きがかかっていた私は、いつの間にか、新選組に憧れを抱いていた。仕方ないから、父と一緒に居ることくらいは許してあげよう。
結果としては、くやしいことに母の作戦勝ちであった。

実は、母との会話には続きがある。

『……父様が仲間たちのところへ行ってしまって、母様は寂しくないの?』
『あら、大丈夫よ。また一緒に桜を見るって約束をしたから』
『本当?』
『本当。これでもね、諦めの悪さには自信があるの。歳三さんが遠くに居ても、必ず追いつくわ。……心配してくれてありがとう、千尋』

そう言って頭を撫でてくれた母の言葉は自信にあふれていた。
曰く、約束は絶対守るし、こちらが意地でも見つけ出すとのことだった。いつも穏やかな母にしては、めずらしく熱を帯びたもの言いであった。
だから、母が、少しでも早く追いつけますように。炎とともに舞い上がる灰を眺めて、ただ祈った。
遺品をひとつも残さないという行為に、ためらいがない訳ではない。でも、私には、三人で見た桜の景色さえあれば十分だ。

「会えると良いね、母様」

そして、できるなら、私もそこに入れて欲しい。今度は男の身体で。
両親がくれた、この女である身体が嫌いな訳ではないけれど。今度こそ、母を守れるようになりたい。
(……そんなこと、もう必要ないって、父様に言われてしまうかな)
ほとんど知らないはずの、父の苦笑いを想像する。眉間に皺を寄せた、ひどくやさしい笑顔であった。
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