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としぞーとちづがご対面♪

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2人と2匹になるまで (4)






「あのっ、私と同じ名前の猫を飼ってるって……本当ですか?」

黒猫が入ったキャリーバッグを抱えて、転がるように入室してきた千鶴。狼狽した様子の彼女に、ほんの軽い気持ちで内容を問えば、飛び出したまさかの言葉に思わず頭を抱えた。

「……どこで聞いた?」

無意識に詰問する口調になっていたようだ。千鶴の顔がたちまち後悔の色に染まる。

「い、いまそこで、沖田さんという方に聞きました」
「はあ……そうか」

やはり、総司にちづの存在を知られたのは失敗だった。いつか知られていたにしても、まだ早過ぎる。
千鶴が同じ空間にいなければ、もっと盛大なため息をはいていただろう。

「……失礼なことを聞いたようで、すみません……」
「み゛―……!」

入口で立ちっぱなしのまま、黒猫が入ったバックを抱きしめる千鶴。
威嚇の声をあげている黒猫の方は、バックを強く抱きしめすぎている飼い主への抗議ではなく、明らかに俺への敵対心が表れている。
千鶴を困らせるのも近づくのも許さない、といったところか。まだ子猫だというのに、頭が良いというか、何とも生意気な猫である。

「いいから、座れ」
「……はい」

いかにもしょんぼりとした顔で、体を小さくして座る千鶴。

「その沖田っていう奴が言った通りだ」
「――…えっ」
「猫を拾った。お前が膝に乗せてるそいつより、ほんの少し小さい」

千鶴がぽかんとこちらを見ている。黒猫はバックから顔を出して、いぶかしげな、可愛くない顔をこちらに向けている。

「……お前に似てたから、つい名前に使っちまった。勝手に悪いな」

一息で話し終える。
突然の展開に、千鶴は頭が追いついていないのか、大きな瞳をさらに見開いて固まったままだ。

「それと、俺の名前だが……『土方歳三』っていう」

もはや、これを機会に話した方が楽そうだ。その一心で、あたかもおまけのように打ち明けられた内容に、千鶴がさらに表情を硬くした。

「……としぞー……?えっ?歳三?」

まさに混乱といった様子。
忙しなく立ったり座ったりを一通り繰り返したあと、小さな声で「すみません」と謝った。

「何であやまるんだ」
「でも」
「もうそいつの名前を変えるなんてできねえだろ。俺のことは今まで通り土方って呼べばいい……気にするな」

まだ不安気に揺れる大きな瞳を見て、頭をぽんぽんと撫でた。
ほんのり赤くなった目尻には、少し涙が溜まっている。

「はい……ありがとうございます」
「にゃっ!」

そう言って、見上げてきた潤んだ瞳に軽く心臓がはねたのも、負けじと千鶴に引っ付いた黒猫が気に障ったのも、今はあえて気付かないふりをする。

「――ついでだ。うちの猫見てくか?」
「え……居るんですか?」
「まだ家に一匹じゃ置いておけないのは、お前も一緒だろ。おい、斎藤」
「土方先生、どうぞ」

診察室と繋がっている受付から、話を聞いていたらしい斎藤が、淡い茶色の毛玉を手渡してきた。
その塊が、寝息に合わせて緩やかに上下している。

「……ちづ、起きろ」

たくさんの動物が出入りする病院で、しかも近くに他の猫がいるという状況で、ぐっすりと眠り続けるちづにあきれかえる。
いつもの事とはいえ、飼い主の威厳もあったもんじゃないと千鶴の反応を伺えば、興味津々という顔で俺の手の内を覗きこんでいた。

「――くくっ……」
「えっ……?わたし、何かしてしまいましたか?」
「いや、何でもない」

あまりにちづの表情に似ていたから笑ってしまった、という言葉は飲み込んだ。
言えば、子供っぽさを気にしているらしい彼女は、真っ赤になった顔で抗議するだろう。

「……にゃ……?」
「はあ、やっと起きたか」

丸くて小さな毛玉から、ひょこりと頭が上がった。

「――か……かわいい」
「だとよ。良かったな…っ、て、おい……!?」
「にゃっ!」

頭を撫でようとした俺の手が触れる寸前、ちづが千鶴に飛びついた。
小さな体のどこにそんな力があるのか、千鶴の胸元まで一瞬で届く。

「きゃっ!」

あわてた千鶴が、胸元に張りついた小さな身体を落下しないように支える。

「だ、大丈夫だった……?」
「みっ」
「よかった……――って、あれ?」

千鶴が安心して体の緊張を解いたのも束の間、ちづが膝のキャリーの上にすとんと降りた。
その中では、黒猫が珍しく目を丸くして固まっている。

「にゃあっ!」

ちづは動かない相手に痺れをきらしたのか、遠慮なくキャリーの中に入ると、勝手に黒猫の毛づくろいを始めてしまった。
最初はされるがままだった黒猫も、ぎこちなく舌を出してちづを毛づくろいする。

「――ふふ、仲良しですね。よかった」
「……ああ」

千鶴は嬉しそうに微笑んでいるが、俺は何かが無性に気に入らない。

「……ちづ、もう良いだろ」
「にゃっ?」

首根っこを持って、少々無理やり黒猫から引き剥がす。
短い手足をばたつかせるちづには悪いと思ったが、今にも噛み付いて来るかのような黒猫の視線は、綺麗に無視を決め込んだ。

「ふふっ」
「……何だよ」
「土方先生、としぞーにヤキモチですか?」
「うるせえ、笑うな」

――お前の黒猫だって、俺に妬いてるだろう。

そんな言葉はまだ告げられなくて、楽しそうに笑う千鶴から視線をそらした。



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