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土千転生シリーズです。
再会編5話目。前話はこちら (1) (2) (3) (4)
2014/3/13 設定を残して書き直し
桜色の鍵 (5)
「父はつい数日前から海外出張中で、兄は国内ですが少し遠くに住んでいます。……母は、幼い頃に他界しました」
「そうか……だから一人暮らしなんだな」
「はい。父は賛成してくれたのですが、兄が反対して説得するのがたいへんだったんです。一緒に暮らすなんてことも言い出して……兄には兄の生活があるのに」
「なるほどシスコンか……手強そうだな」
「え?」
ソファに二人並んで日本茶を飲む。
とりとめもなく、お互いのことを教え合っていた。
「……おまえは今学生なのか?」
「はい。この四月から大学一年生ですが……あの、歳三さん?」
「――いや、今度はどれくらい歳が離れてるのかと思ってよ。でもまあ、それなら前と同じくらいの差だな」
お茶を啜りながら、歳三さんが目を細めてこちらを見る。
『前と同じくらい』ということは、およそ一回りと少し離れているということだろうか。
「……そうだとしたら、歳三さんは……あの……」
「聞きたいことがあるなら遠慮すんな」
そんなに年の離れたおじさんは嫌だとか言うなよと苦笑いをする歳三さんに、そんなことあり得ませんと諌める。
改めて、いま自分が居る部屋をぐるりと見た。
ここはリビング兼ダイニングで一人暮らしにしては広いし、カウンターキッチンまでついている。南側いっぱいにとられた窓からは、昼間となればあたたかい日差しが入ってくるだろう。
ベッドが見当たらないということは寝室は別にあるだろうし、玄関へ続く廊下には複数の扉が見えた。
お隣さんから事前に得た『敷居の高い部屋』という情報は、どうやら間違いなさそうだ。
それを直接聞くのはいやらしい気がするけれど、歳三さんに一緒に暮らしたいと返事をしたのだから、確かめておきたい気持ちもあった。
「このお部屋、とても広くて綺麗ですが……何か特別なお仕事をされているのですか?」
「それは、ここの賃料払えるほどの仕事をしてるのかって意味か?」
「えっと……こんなこと聞いて、卑しいと思われたらすいません」
思わず聞いたことを後悔する。
ひどく恐縮した千鶴の頭に、歳三の手がぽすんと乗った。
「遠慮するなって言ったろ? そう思うのも当たり前だから、気にすんな」
頭をぽんぽんと撫でられて、腕がそのまま千鶴の肩に回る。
ほとんど離れずに寄り添っていたから、少し引き寄せられると歳三さんの肩に寄り掛かる体勢になった。
手に持っていた湯飲みはローテーブルに移されて、食べかけのパウンドケーキと仲良く並んでいた。
「建設会社で働いてる。俺は営業でな、社長は近藤さんだ」
「……!」
突然の『近藤』という名前に息を飲む。
とっさに口を開きかけたが、言葉を続ける歳三さんに耳を傾けた。
「このマンションは近藤さんの持ち物なんだよ。幹部がいつまでも安いアパートに住んでちゃ駄目だってんで、勝手に宛がわれたのがここだ。賃料は払っちゃいるが格安だな……というか、近藤さんが安くでしか受け取ってくれねえ」
相変わらずだよなあ。と歳三さんがため息をつく。
私はといえば、懐かしい名前にまた心が高揚していた。
「近藤さんが、歳三さんの会社にいらっしゃるんですか……?」
「ああ、他の奴らも一緒だよ。ご丁寧に記憶付きでな」
「――…皆さん、も……」
「会いたいか?」
「もちろん、もちろん会いたいです!」
「じゃあ今度の休日にでも集めてみるか。……まあ、一部は呼ぶ前に勝手に来ちまいそうだけどなあ」
嬉しい。
昔の思い出が沸きあがってきて、すこし涙腺が緩む。
つらい別れをたくさん交わしてきた。
でも、思い出す彼らはいつも真っ直ぐで、自分の求めるものに正直で、そして必死だった。
もう一度、追いかけても良いだろうか。
「……あんまり、あいつらにばっかり構うなよ?」
「えっ?」
「千鶴はいやに気に入られてたからな。例えばおまえがじっと黙ってても絡まれるだろうよ」
「そんなことないと思いますけど……」
「あるんだよ」
真横にある顔は不機嫌そうだ。
もうこの話題は終わりとばかりにお茶を啜られてしまう。
「……そういえば私、転居のときは書類もたくさん見たはずなのに、近藤さんが大家さんだって気付けませんでした……会ったらちゃんとご挨拶しないと!」
「本人が管理人をしてる訳じゃねえし、気付かねえことなんてあるだろ。笑って普通に挨拶したほうがあの人も喜ぶぞ」
「そうでしょうか」
「ああ、昔とまったく変わってないから大丈夫だ。――そういや、マンションの入り口にある桜は見たか? あの桜の大木を気に入って、すぐにこの土地を買ったらしい……まったく、あの人らしいよなあ」
呟く声は困ったようなのに、横顔は穏やかで嬉しそうだった。
変わらない二人の関係に、思わず自分も嬉しくなる。
「その桜に魅かれて、この部屋を断りきれなかった俺も俺なんだけどな」
「あ……!」
「どうした」
目を見開いた千鶴の顔を歳三が覗き込む。
「わたしも、あの桜がどうしても忘れられなくて……父に無理を言ってこのマンションに決めたんです」
「――…そうか」
「ぜったい、一緒に見に行きましょうね」
「ああ、『約束』したしな?」
「……約束がなかったら、行ってくれないんですか」
「行くに決まってんだろ。怒るなよ」
「ふふ」
戯れで腕から逃れようとすれば、逃がさないとばかりに正面から抱き留められる。
額にそっと口付けを受けた。
「俺をそうやって困らすのはおまえだけだよ」
目を細めて笑うと、歳三さんがソファから立ち上がる。
「歳三さん?」
ぽかんと見上げると、あと一口だけ残していたケーキを口に放り込まれた。
しっとりした甘さ控えめの生地の中で、チェリーの甘酸っぱさが口の中に広がる。
彼自身の分は手早く自分で食べてしまうと、ぱっと千鶴の手を取って立ち上がらせた。
「ご馳走さん。甘すぎないし美味かった」
「んむ……いえ、お粗末様です。あの、これからどこに」
懸命に口をもぐもぐとして問う。
それを見た歳三さんが少し笑ったのに気付いたけれど、今は気にしないことにした。
「千鶴の部屋に行くぞ。とりあえず……そうだな、今夜だけなら着替えと化粧品くらいで良いのか?」
足りないものがあったときはまた取りに行けば良いと告げる歳三さんは飄々としている。
「えっと、今夜が、どうしたのですか……?」
「一緒に暮らすんだから準備がいるだろ。今日はもう遅いし、せめて今夜泊まれるだけの物を取りに行くぞ」
「………」
「千鶴」
ほら、と手を引かれる。でも足は動かなくて、顔はすっかり熱かった。
泊まるということが何を意味するかなんて、千鶴だって分かっている。
でも、すぐに受け入れるというのも、緊張と恥ずかしさで難しい話だ。
「取りに行かないってなら、このままするぞ」
「――…このままっ、て……!」
恥ずかしくてはっきり言葉にできない。
それでも歳三さんの眼は真剣だった。
こうなったら逃げられないことなんて、とっくの昔から知っているはずなのに抵抗せずにはいられなかった。
――だって、今世での千鶴は初めてなのに。
それに、これほど早急にことを進める必要があるのだろうか。
もっと今世の彼を知りたいし、もっと話を聞きたい。よく考えたら、夜ごはんも食べていない。
すがる気持ちで紫紺の瞳を見つめた。
「おまえの考えてることなんて、もう大体分かるんだよ」
「……え」
「それを汲んでやりたい気持ちもあるんだけどな……俺がもう無理なんだよ。だから全部俺のせいにしとけ」
よく分からない。
恥ずかしさと混乱で頭がいっぱいな千鶴の腰に、歳三の腕が回った。
「そんな薄布のワンピース一枚で、しばらく膝に乗られてた俺の気持ちを考えろ」
千鶴が自分から乗った覚えはない。
しかし、よく意味も分からず非難の目を向けられていた。
思わず見下ろした先にあるのは薄いブルーのワンピース。
シャツの形で襟がついているので、挨拶に伺うには調度良いと思って選んだ服だ。悲しいことに裏目に出たらしい。
そういえば、外に出る訳でもなかったので上着は着ていないし、タイツではなく薄いストッキングをはいている。
「俺が耐えられるうちに、はやく行くぞ」
「と、歳三さん……」
余計に足が動かなくなった千鶴に歳三が迫る。
ほとんど運ばれるかのような抱っこの体勢で部屋を後にした。
<続>
再会編5話目。前話はこちら (1) (2) (3) (4)
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桜色の鍵 (5)
「父はつい数日前から海外出張中で、兄は国内ですが少し遠くに住んでいます。……母は、幼い頃に他界しました」
「そうか……だから一人暮らしなんだな」
「はい。父は賛成してくれたのですが、兄が反対して説得するのがたいへんだったんです。一緒に暮らすなんてことも言い出して……兄には兄の生活があるのに」
「なるほどシスコンか……手強そうだな」
「え?」
ソファに二人並んで日本茶を飲む。
とりとめもなく、お互いのことを教え合っていた。
「……おまえは今学生なのか?」
「はい。この四月から大学一年生ですが……あの、歳三さん?」
「――いや、今度はどれくらい歳が離れてるのかと思ってよ。でもまあ、それなら前と同じくらいの差だな」
お茶を啜りながら、歳三さんが目を細めてこちらを見る。
『前と同じくらい』ということは、およそ一回りと少し離れているということだろうか。
「……そうだとしたら、歳三さんは……あの……」
「聞きたいことがあるなら遠慮すんな」
そんなに年の離れたおじさんは嫌だとか言うなよと苦笑いをする歳三さんに、そんなことあり得ませんと諌める。
改めて、いま自分が居る部屋をぐるりと見た。
ここはリビング兼ダイニングで一人暮らしにしては広いし、カウンターキッチンまでついている。南側いっぱいにとられた窓からは、昼間となればあたたかい日差しが入ってくるだろう。
ベッドが見当たらないということは寝室は別にあるだろうし、玄関へ続く廊下には複数の扉が見えた。
お隣さんから事前に得た『敷居の高い部屋』という情報は、どうやら間違いなさそうだ。
それを直接聞くのはいやらしい気がするけれど、歳三さんに一緒に暮らしたいと返事をしたのだから、確かめておきたい気持ちもあった。
「このお部屋、とても広くて綺麗ですが……何か特別なお仕事をされているのですか?」
「それは、ここの賃料払えるほどの仕事をしてるのかって意味か?」
「えっと……こんなこと聞いて、卑しいと思われたらすいません」
思わず聞いたことを後悔する。
ひどく恐縮した千鶴の頭に、歳三の手がぽすんと乗った。
「遠慮するなって言ったろ? そう思うのも当たり前だから、気にすんな」
頭をぽんぽんと撫でられて、腕がそのまま千鶴の肩に回る。
ほとんど離れずに寄り添っていたから、少し引き寄せられると歳三さんの肩に寄り掛かる体勢になった。
手に持っていた湯飲みはローテーブルに移されて、食べかけのパウンドケーキと仲良く並んでいた。
「建設会社で働いてる。俺は営業でな、社長は近藤さんだ」
「……!」
突然の『近藤』という名前に息を飲む。
とっさに口を開きかけたが、言葉を続ける歳三さんに耳を傾けた。
「このマンションは近藤さんの持ち物なんだよ。幹部がいつまでも安いアパートに住んでちゃ駄目だってんで、勝手に宛がわれたのがここだ。賃料は払っちゃいるが格安だな……というか、近藤さんが安くでしか受け取ってくれねえ」
相変わらずだよなあ。と歳三さんがため息をつく。
私はといえば、懐かしい名前にまた心が高揚していた。
「近藤さんが、歳三さんの会社にいらっしゃるんですか……?」
「ああ、他の奴らも一緒だよ。ご丁寧に記憶付きでな」
「――…皆さん、も……」
「会いたいか?」
「もちろん、もちろん会いたいです!」
「じゃあ今度の休日にでも集めてみるか。……まあ、一部は呼ぶ前に勝手に来ちまいそうだけどなあ」
嬉しい。
昔の思い出が沸きあがってきて、すこし涙腺が緩む。
つらい別れをたくさん交わしてきた。
でも、思い出す彼らはいつも真っ直ぐで、自分の求めるものに正直で、そして必死だった。
もう一度、追いかけても良いだろうか。
「……あんまり、あいつらにばっかり構うなよ?」
「えっ?」
「千鶴はいやに気に入られてたからな。例えばおまえがじっと黙ってても絡まれるだろうよ」
「そんなことないと思いますけど……」
「あるんだよ」
真横にある顔は不機嫌そうだ。
もうこの話題は終わりとばかりにお茶を啜られてしまう。
「……そういえば私、転居のときは書類もたくさん見たはずなのに、近藤さんが大家さんだって気付けませんでした……会ったらちゃんとご挨拶しないと!」
「本人が管理人をしてる訳じゃねえし、気付かねえことなんてあるだろ。笑って普通に挨拶したほうがあの人も喜ぶぞ」
「そうでしょうか」
「ああ、昔とまったく変わってないから大丈夫だ。――そういや、マンションの入り口にある桜は見たか? あの桜の大木を気に入って、すぐにこの土地を買ったらしい……まったく、あの人らしいよなあ」
呟く声は困ったようなのに、横顔は穏やかで嬉しそうだった。
変わらない二人の関係に、思わず自分も嬉しくなる。
「その桜に魅かれて、この部屋を断りきれなかった俺も俺なんだけどな」
「あ……!」
「どうした」
目を見開いた千鶴の顔を歳三が覗き込む。
「わたしも、あの桜がどうしても忘れられなくて……父に無理を言ってこのマンションに決めたんです」
「――…そうか」
「ぜったい、一緒に見に行きましょうね」
「ああ、『約束』したしな?」
「……約束がなかったら、行ってくれないんですか」
「行くに決まってんだろ。怒るなよ」
「ふふ」
戯れで腕から逃れようとすれば、逃がさないとばかりに正面から抱き留められる。
額にそっと口付けを受けた。
「俺をそうやって困らすのはおまえだけだよ」
目を細めて笑うと、歳三さんがソファから立ち上がる。
「歳三さん?」
ぽかんと見上げると、あと一口だけ残していたケーキを口に放り込まれた。
しっとりした甘さ控えめの生地の中で、チェリーの甘酸っぱさが口の中に広がる。
彼自身の分は手早く自分で食べてしまうと、ぱっと千鶴の手を取って立ち上がらせた。
「ご馳走さん。甘すぎないし美味かった」
「んむ……いえ、お粗末様です。あの、これからどこに」
懸命に口をもぐもぐとして問う。
それを見た歳三さんが少し笑ったのに気付いたけれど、今は気にしないことにした。
「千鶴の部屋に行くぞ。とりあえず……そうだな、今夜だけなら着替えと化粧品くらいで良いのか?」
足りないものがあったときはまた取りに行けば良いと告げる歳三さんは飄々としている。
「えっと、今夜が、どうしたのですか……?」
「一緒に暮らすんだから準備がいるだろ。今日はもう遅いし、せめて今夜泊まれるだけの物を取りに行くぞ」
「………」
「千鶴」
ほら、と手を引かれる。でも足は動かなくて、顔はすっかり熱かった。
泊まるということが何を意味するかなんて、千鶴だって分かっている。
でも、すぐに受け入れるというのも、緊張と恥ずかしさで難しい話だ。
「取りに行かないってなら、このままするぞ」
「――…このままっ、て……!」
恥ずかしくてはっきり言葉にできない。
それでも歳三さんの眼は真剣だった。
こうなったら逃げられないことなんて、とっくの昔から知っているはずなのに抵抗せずにはいられなかった。
――だって、今世での千鶴は初めてなのに。
それに、これほど早急にことを進める必要があるのだろうか。
もっと今世の彼を知りたいし、もっと話を聞きたい。よく考えたら、夜ごはんも食べていない。
すがる気持ちで紫紺の瞳を見つめた。
「おまえの考えてることなんて、もう大体分かるんだよ」
「……え」
「それを汲んでやりたい気持ちもあるんだけどな……俺がもう無理なんだよ。だから全部俺のせいにしとけ」
よく分からない。
恥ずかしさと混乱で頭がいっぱいな千鶴の腰に、歳三の腕が回った。
「そんな薄布のワンピース一枚で、しばらく膝に乗られてた俺の気持ちを考えろ」
千鶴が自分から乗った覚えはない。
しかし、よく意味も分からず非難の目を向けられていた。
思わず見下ろした先にあるのは薄いブルーのワンピース。
シャツの形で襟がついているので、挨拶に伺うには調度良いと思って選んだ服だ。悲しいことに裏目に出たらしい。
そういえば、外に出る訳でもなかったので上着は着ていないし、タイツではなく薄いストッキングをはいている。
「俺が耐えられるうちに、はやく行くぞ」
「と、歳三さん……」
余計に足が動かなくなった千鶴に歳三が迫る。
ほとんど運ばれるかのような抱っこの体勢で部屋を後にした。
<続>
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