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土千転生シリーズです。
再会編4話目です。前話はこちら (1) (2) (3)
2014/3/2 設定を残して書き直し

拍手[17回]






桜色の鍵 (4)



離れ難い。
口に出さずとも、お互いにそう思っているのは分かっていた。でも延々とこうしている訳にもいかない。
意を決して歳三さんの胸から離れようとすると、すぐに戻されてしまう。
抗議をしようと見上げた彼の顔は、照れ隠しなのかすこし不機嫌そうで、そして赤らんでいる。
それを嬉しいと思ってしまう自分もまったく始末に負えない。
先程からその繰り返しに陥っていた。
他人が見たら呆れかえるような戯れでも、千鶴にとっては全てが大切で、一欠片も取り落としたくない。
早く今世で歳三さんを見つけたいと急いていた気持ちが、今度はそちらとすり替わったように必死だった。

(でも、もう焦らなくて良いんだよね……?)

絶対に離さないと言ってくれた。
千鶴だって離す気はないのだから、今日から先も一緒に生きることができるのだ。
しかし、この千鶴が膝の上に乗って抱きしめられているという現状からも、離してはくれなそうである。
腰にまわった腕は緩みそうにない。

「あの……何か、お茶を淹れましょうか」
「……そうだな、頼む」
「はい!」

これでも頭を捻って出てきた提案は些細なものだったけれど、何とか受け入れてくれた。
お茶を淹れるなんて昔に戻ったようで、つい張りきって返事をしたら笑われてしまう。
照れ隠しのつもりで素早く膝から降りた。

「あっ……これ」

足をつけた先にちょうどあった紙袋を拾い上げる。

「そういや何が入ってるんだ、その紙袋」

完全に蚊帳の外にしていたが、本来の目的はこれを渡すことだったと思い出す。

「えっと、パウンドケーキなんです。引っ越しの挨拶に手作りしたので、渡そうと思って……」
「もしかして、下に引っ越してきたのが千鶴か?」
「は、はい」

歳三さんが目を丸くする。
そういえば、お互いのことを何も話していない。
それだけ必死だったのは身をもって実感しているけれど、聞きたいことも、話したいことも数えきれないほどあるというのに。

「下はしばらく空室だったんだが……そうか。さすがに運命みたいなもんも信じたくなるな」
「わたし、物件を見て回ったとき、どうしてもここが忘れられなかったんです。まさか歳三さんに会えるなんて思わなかったですけど……運命、かあ」

後半は知らずひとり言のようになってしまった。
気付いたときには、頬が緩みきっているだろう、だらしの無い顔を歳三さんが楽しそうに眺めている。

「――ああ、駄目だな。また腕のなかに収めたくなっちまう」

がしがしと頭をかく。
一瞬何か逡巡するような顔をしていたが、すくと立ち上がった。
その間に、自分の緩んだ顔は元に戻しておく。

「俺も手伝うからキッチン行くぞ……っても、すぐそこだけどな」

指を差された先には、白が基調のシンプルなカウンターキッチン。

(……シンプル?)

というより、生活感が無いと表現する方が正しいかと考えているうちに、持っていた紙袋を取られて代わりに手を繋がれる。
十歩もない距離なのに、繋がれた手が嬉しかった。

「お茶類はここに入ってる。食器はそこで器具は下の棚だな。まあ、どれでも勝手に使え」
「えっと……はい」
「……なにか言いたいことがありそうな顔だな」

気まずそうな顔をしているあたり、自覚はあるのかもしれない。
コーヒー、紅茶といった嗜好品は一揃えに引き出しに入っていた。
しかし、冷蔵庫の中に入っていたものといえばミネラルウォーターにお酒、あとは調味料くらい。
調理器具もあるにはあるが、使われた形跡はほとんどなく仕舞われていた。
かろうじて使用感があるのはケトルくらいだろうか。

「いつも、どんな食事をされているのですか?」
「……外で適当に買ってきた弁当とか、惣菜とか……だな」

仕事が忙しくてつい、と言い訳をしながら目も合わせてくれないあたり、インスタント食品にも頻繁にお世話になっていそうだ。
自分のことは二の次で仕事をするところも変わっていないらしい。
それも全部含めて歳三さんなのだと、分かってはいるけれど。

「そんな生活では、身体を壊してしまいます」
「分かった分かった、気をつけるからそんな怒んな。――…じゃねえな」
「え?」
「これからは千鶴が毎日作ってくれるから問題ない」

たちまちに余裕の笑みを浮かべる。
不意を突かれた私の顔はたぶん間抜けだ。
――毎日。毎日って、要するに。

「もちろん、俺だって家事はするからな。ただ料理は任せない方が良いと思うぞ、味的な意味で」
「え、え」
「何だ、一緒に暮らしてくれないのか? 下の部屋に居ても俺のとこに居てもたいして変わんねえだろ」
「歳三さん、でも」
「見て分かるだろ、一人じゃ広すぎんだ。千鶴の個室だって用意できる」

あっという間に距離を詰められて、背中いっぱいに体温が触れる。
お腹に手を回されてしまえば、後ろから抱きしめられる格好だ。
さっき、決死の思いで彼の膝から降りたというのに、また離れ難くなってしまう。
心臓がうるさいのはもう仕方ない。
だって、今日再開したばかりで、隣に歳三さんがいるだけで落ち着かないのだから。
使おうとした紅茶の容器を持っていられなくて、目の前のキッチンへ置いた。
空いた手はすかさず捕まって指を絡められる。

「また一緒に暮らそう、千鶴」

耳元で囁かれると、身体が勝手に震えてしまう。
どうすれば良いか分からなくて、繋がれた手をぎゅっと握った。

「何かためらう理由があるなら言え。おまえの親に挨拶ならすぐにでも行くし――…今も父親は綱道さんなのか? まあとりあえず心配するな」
「……あの、良いんですか?」
「良いも悪いも、千鶴と再会できたのに、別々に暮らすなんて耐えられそうにない」

おまえは違うのか、と問われる。
同時に、首筋に顔を寄せられた。子どもの様に拗ねたしぐさと、さらさらの髪が触れるくすぐったさで頬が緩む。

「――もちろん、もちろん歳三さんと一緒に暮らしたいです……!」

はっきりと言葉にすれば抱きしめる腕が強くなる。

「今日、やっとあなたに会えて、しかも一緒に暮らせるなんて贅沢すぎて……まるで夢みたいで」
「夢なら困る。もう離さないって約束したしな」
「ん」

こっち向けとばかりに後ろから頬擦りをされて、触れるだけの口付けを受ける。

「よろしく頼む」
「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」

優しく微笑んだ歳三さんとしばらく見つめ合って、視線はようやくキッチンへと戻る。
いまだ置かれたままの紅茶の葉とポットが、寂しそうに佇んでいた。

「……あと、今さらで悪いが紅茶より日本茶にしてもらって良いか」
「手土産は洋菓子ですよ?」
「今はコーヒーも紅茶も飲むけどな。……久しぶりに、おまえの日本茶が飲みたいんだよ」

そう言って、すぐに棚から日本茶を取り出す。ケトルをコンロにかける手つきはとても素早い。
もしかして照れ隠しだろうか。

「今度、コーヒーや紅茶も美味しく淹れますから!」
「……楽しみにしてる」

少しだけ見えた顔はやはり赤らんでいる。
千鶴が対応に困る程の甘い言葉は平然とくれるのに、こんなことで照れるなんて可愛い。
気付かれないように、こっそりと笑った。

<続>
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