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土千転生シリーズです。
再会編2話目です。前話はこちら (1)
2014/2/10 設定を残して書き直し
桜色の鍵 (2)
「や、やっぱり引き返そうかな」
足を進めるほどに後悔が押し寄せてくる。
共同廊下だというのに、深みのある木を基調にした高級感のある内装。床は何故かふかふかだ。
均一に配置されたやわらかい間接照明が洒落た空間を作り上げている。
千鶴から見れば、自分が住んでいる下階だって十分綺麗な内装だと思うのに、この違いには驚きだ。
手に持った紙袋がどこか頼りない。
しかし、うんうんと悩んでいる間に目的の玄関まで来てしまった。
千鶴の部屋とはまたもや違う、木目のついた扉に恐縮する――間もなく、表札に示された文字が目に飛び込んでくる。
(――…『土方』?)
どくりと心臓が騒ぐ。
その二文字から目が離せない。体が動かない。頭に血がのぼって熱い。
いま、まばたきは、呼吸はうまくできているのだろうか。
――名字が偶然同じだけなのかもしれない。歳三さんではないかもしれない。でも、もし本当に彼だったら?
落ち着けと念じたところで思考回路は止まってくれない。
とても冷静ではない憶測にのみ込まれてはいけないと、頭の奥底では分かっているのに。
――会って、私を覚えていなかったら?
「――…っ!」
ぎゅっと目を瞑る。視界から、無理やり表札を消し去った。
(駄目、駄目だ。引き返そう)
今の混乱した状態でインターホンを押すなんてできない。できる訳がない。
結局、歳三さんと会う覚悟なんて、全くできていなかったのだ。
覚えていなくても良いなんて嘘。――嘘ばっかり。
本当は愛されたくてたまらない。
これほどまで情けない自分には、彼を追いかける資格なんて無いし、見つけ出せるはずもない。
千鶴の心中はぐちゃぐちゃだった。
次々と不安ばかりが詰め込まれていく。
だから、懐かしい声で名前を呼ばれたとき、これはきっと自分が見ている都合の良い夢なのだと思った。
「――…千鶴、か?」
振り向いたのは、ほとんど条件反射だ。
声の主を視界に捉える前に、身体ごと腕を引っ張られる。
頭はついて行かないのに、思いきり抱きしめられて感じた懐かしい匂いに全身が粟立った。
「……あ……!」
「やっと……見つけた」
縋りついた黒い服はスーツのジャケットだろうか。白いシャツに、紺のネクタイ。
それを着た彼を見たことはないけれど、全身が間違いないと叫んでいた。
歳三さんだ。
顔を見なくても分かる。
「千鶴」
答えたいのに、喉が震えて声が出てこない。涙は勝手に出てくるのに。
反応のない私に焦れたのか、頬に手をあてられて上を向かされた。
「……は、い」
ようやく発した声はひどく震えていた。
ぼやけた視界の中で彼が笑う。
一度まばたきをして涙が零れたら、視界がクリアになった。
「おまえは、また泣いてんのか」
眉間の皺に、困ったように笑う顔。
涙を拭ってくれる無骨で大きな手。
目の前にいる人は、間違いようもなく、ずっと求めていた彼だった。
抱きしめてくる力は片腕だけでも強すぎて痛い。――夢じゃない。
夢じゃないんだ。
「――…歳三さん」
「ああ、千鶴」
「んっ」
確かめるように唇が重なる。
あたたかくて、気持ちいい。身体が幸せを感じて震えた。
歳三さんと交わす口付けは気持ち良いものだと覚えていたけれど、やはり、この身体で覚えた記憶ではなかったと思い知らされる。
かかる吐息も、整った唇の形も、嬉しそうに下がる目尻も、ついさっきまで記憶でしかなかった。今世の千鶴のものではなかった。
それを、やっと手に入れたのだと歓喜する。
触れられたところ全てが熱を孕んでいた。
「ふ……あ、んっ」
一度唇が離れると、角度を変えて何度も啄まれる。
まだゆっくり触れ合いたくて彼を見やると、至近距離でかち合った目は逸らされて、何故か気まずそうに顔を赤くしていた。
やはり視線だけで伝えるのは難しかっただろうか。
今度はやわやわと唇を食まれる。どうやら中に入れろということらしい。
後頭部にまわった腕はゆるむ様子がないし、もっとも拒む理由がない。
そうっと開いた千鶴の唇に、彼が目で笑った気がした。
――ずるい。
私は、歳三さんに再会しただけで精一杯なのに。
今だって、心臓が興奮を抑えきれずに高鳴っているのに。
千鶴を翻弄する彼の手付きは、昔とまったく変わっていない。
もちろん、すぐに翻弄されてしまうのは変わらなくて、必死に背に手を回して抱きしめる。
昔と変わらない広い背中だ。あのとき必死に追いかけた歳三さんの背中だ。
嬉しい。
もっと、もっと彼を確かめたい。
「……ん。千鶴」
「んぅっ」
まるで、千鶴の心情を読んだと思わせるタイミングで舌を絡め取られて、口内を荒らされる。
粘膜が触れ合って、ますますお互いを感じ取った。
しかし、今世では記憶による経験しかない千鶴にとって、歳三の求愛は刺激が強すぎたらしい。
頭がぼんやりして、ついに膝が崩れそうになったとき――二人の耳に靴音が飛び込んできた。
ぴたりと歳三の動きが止まる。
(そうだ……! ここ廊下……!)
千鶴が顔を染めている間も、靴音はどんどん近づいてくる。
開放された唇は途端にひんやりとした。
すこし寂しいと思ってしまったのは秘密である。
「くそ……千鶴、とりあえず中入れ」
「は、はい」
しかめっ面の歳三さんが、ポケットから取り出した鍵で玄関を開ける。
いつの間にか紙袋と彼のバッグは床に落ちてしまっていた。
夢中になり過ぎたと赤面しながら、未だふらつく体で拾うとすぐに取られてしまう。
それくらいできますと抗議する間もなく、手を引かれて扉をくぐった。
心臓は、まだうるさく鳴ったままだ。
<続>
再会編2話目です。前話はこちら (1)
2014/2/10 設定を残して書き直し
桜色の鍵 (2)
「や、やっぱり引き返そうかな」
足を進めるほどに後悔が押し寄せてくる。
共同廊下だというのに、深みのある木を基調にした高級感のある内装。床は何故かふかふかだ。
均一に配置されたやわらかい間接照明が洒落た空間を作り上げている。
千鶴から見れば、自分が住んでいる下階だって十分綺麗な内装だと思うのに、この違いには驚きだ。
手に持った紙袋がどこか頼りない。
しかし、うんうんと悩んでいる間に目的の玄関まで来てしまった。
千鶴の部屋とはまたもや違う、木目のついた扉に恐縮する――間もなく、表札に示された文字が目に飛び込んでくる。
(――…『土方』?)
どくりと心臓が騒ぐ。
その二文字から目が離せない。体が動かない。頭に血がのぼって熱い。
いま、まばたきは、呼吸はうまくできているのだろうか。
――名字が偶然同じだけなのかもしれない。歳三さんではないかもしれない。でも、もし本当に彼だったら?
落ち着けと念じたところで思考回路は止まってくれない。
とても冷静ではない憶測にのみ込まれてはいけないと、頭の奥底では分かっているのに。
――会って、私を覚えていなかったら?
「――…っ!」
ぎゅっと目を瞑る。視界から、無理やり表札を消し去った。
(駄目、駄目だ。引き返そう)
今の混乱した状態でインターホンを押すなんてできない。できる訳がない。
結局、歳三さんと会う覚悟なんて、全くできていなかったのだ。
覚えていなくても良いなんて嘘。――嘘ばっかり。
本当は愛されたくてたまらない。
これほどまで情けない自分には、彼を追いかける資格なんて無いし、見つけ出せるはずもない。
千鶴の心中はぐちゃぐちゃだった。
次々と不安ばかりが詰め込まれていく。
だから、懐かしい声で名前を呼ばれたとき、これはきっと自分が見ている都合の良い夢なのだと思った。
「――…千鶴、か?」
振り向いたのは、ほとんど条件反射だ。
声の主を視界に捉える前に、身体ごと腕を引っ張られる。
頭はついて行かないのに、思いきり抱きしめられて感じた懐かしい匂いに全身が粟立った。
「……あ……!」
「やっと……見つけた」
縋りついた黒い服はスーツのジャケットだろうか。白いシャツに、紺のネクタイ。
それを着た彼を見たことはないけれど、全身が間違いないと叫んでいた。
歳三さんだ。
顔を見なくても分かる。
「千鶴」
答えたいのに、喉が震えて声が出てこない。涙は勝手に出てくるのに。
反応のない私に焦れたのか、頬に手をあてられて上を向かされた。
「……は、い」
ようやく発した声はひどく震えていた。
ぼやけた視界の中で彼が笑う。
一度まばたきをして涙が零れたら、視界がクリアになった。
「おまえは、また泣いてんのか」
眉間の皺に、困ったように笑う顔。
涙を拭ってくれる無骨で大きな手。
目の前にいる人は、間違いようもなく、ずっと求めていた彼だった。
抱きしめてくる力は片腕だけでも強すぎて痛い。――夢じゃない。
夢じゃないんだ。
「――…歳三さん」
「ああ、千鶴」
「んっ」
確かめるように唇が重なる。
あたたかくて、気持ちいい。身体が幸せを感じて震えた。
歳三さんと交わす口付けは気持ち良いものだと覚えていたけれど、やはり、この身体で覚えた記憶ではなかったと思い知らされる。
かかる吐息も、整った唇の形も、嬉しそうに下がる目尻も、ついさっきまで記憶でしかなかった。今世の千鶴のものではなかった。
それを、やっと手に入れたのだと歓喜する。
触れられたところ全てが熱を孕んでいた。
「ふ……あ、んっ」
一度唇が離れると、角度を変えて何度も啄まれる。
まだゆっくり触れ合いたくて彼を見やると、至近距離でかち合った目は逸らされて、何故か気まずそうに顔を赤くしていた。
やはり視線だけで伝えるのは難しかっただろうか。
今度はやわやわと唇を食まれる。どうやら中に入れろということらしい。
後頭部にまわった腕はゆるむ様子がないし、もっとも拒む理由がない。
そうっと開いた千鶴の唇に、彼が目で笑った気がした。
――ずるい。
私は、歳三さんに再会しただけで精一杯なのに。
今だって、心臓が興奮を抑えきれずに高鳴っているのに。
千鶴を翻弄する彼の手付きは、昔とまったく変わっていない。
もちろん、すぐに翻弄されてしまうのは変わらなくて、必死に背に手を回して抱きしめる。
昔と変わらない広い背中だ。あのとき必死に追いかけた歳三さんの背中だ。
嬉しい。
もっと、もっと彼を確かめたい。
「……ん。千鶴」
「んぅっ」
まるで、千鶴の心情を読んだと思わせるタイミングで舌を絡め取られて、口内を荒らされる。
粘膜が触れ合って、ますますお互いを感じ取った。
しかし、今世では記憶による経験しかない千鶴にとって、歳三の求愛は刺激が強すぎたらしい。
頭がぼんやりして、ついに膝が崩れそうになったとき――二人の耳に靴音が飛び込んできた。
ぴたりと歳三の動きが止まる。
(そうだ……! ここ廊下……!)
千鶴が顔を染めている間も、靴音はどんどん近づいてくる。
開放された唇は途端にひんやりとした。
すこし寂しいと思ってしまったのは秘密である。
「くそ……千鶴、とりあえず中入れ」
「は、はい」
しかめっ面の歳三さんが、ポケットから取り出した鍵で玄関を開ける。
いつの間にか紙袋と彼のバッグは床に落ちてしまっていた。
夢中になり過ぎたと赤面しながら、未だふらつく体で拾うとすぐに取られてしまう。
それくらいできますと抗議する間もなく、手を引かれて扉をくぐった。
心臓は、まだうるさく鳴ったままだ。
<続>
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