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猫パロ自宅訪問編の5話目です。
前話はこちら→ お邪魔してきました(1) (2) (3) (4)

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お邪魔してきました (5)





「……そうだよね、ど、同棲、なんだよね」

ソファの前にぺたりと座りこみ、横になって眠る土方先生の顔をしばらく覗き込んでいた。
先ほどより顔色は悪くない。
穏やかに眠るその顔は、千鶴が毎日見惚れるほどに整っている。
自分は、この人と``同棲``しているのだ。

「み゛―……」
「あっ、ご、ごめんね」

私の膝上を占領しているとしぞーを撫でる手に、思わず力を入れてしまった。紫色の目が不満気に向けられている。
謝って額を撫でてあげれば、ごろごろと喉を鳴らした。
沖田さんの、『気軽に楽しんだら良いと思うよ。同棲』という台詞。
気付いていなかった訳じゃないけれど、考えることを避けていたのは本当だ。
しかし、千鶴は自室のベッドで寝起きしているし、先生も就寝の挨拶をすれば自分の寝室へ向かう。
正面から向き合わなくても大丈夫だったので、ずっと甘えていたのだ。
今の状態は、同棲ではなくてただの同居。分かっている。

「んにゃ」

土方先生にかけた毛布に入りこんで寝ていたちづ――と思われる毛布の出っ張りが、もぞもぞと動いている。
いったい、いつ潜り込んだのだろう。
しかし外に出たいのだろうか。じたばたしながら先生の首もとまで上がってきた。小さな頭がひょこりと毛布から出てくる。
ふわふわの毛並みのくすぐったさに、先生が身をよじった。

「……くすぐってえ……ちづか? もう少し寝かせてくれ――…って!」
「にゃっ!?」

覚醒した土方先生が、勢いよく上半身を起こす。
驚いたちづが半分転がるように床に着地して、そのまま廊下の方へ走り去ってしまった。
それをとしぞーが追いかけて、リビングには二人きり。

「……千鶴」
「えっと、沖田さんと斎藤さんは夕食を召し上がられて帰りました。土方さんによろしくと」

めずらしく焦った様子でこちらを見つめる先生に、おそらく聞きたいであろうことを伝える。
短く「そうか」と答えた彼が、重いため息をはいた。

「悪かった。勝手に寝ちまって」
「いいえ、お疲れですよね? もうお二人はいませんし、お休みになるならベッドで寝た方が良いのでは――…っきゃ!」
「……せっかく二人きりになったってのに、また一人で寝ろなんて、ひどいんじゃねえか」

はがした毛布をソファの端に追いやった土方先生が、真っ直ぐ座り直した――と思った瞬間。
腰の上を両手でつかまれて、あっという間に先生の膝の上に横抱きにされていた。
目と鼻の先にある顔がいじわるそうに笑う。

「ひ、ひじかた先生?」
「こうやってゆっくりできるのも久しぶりなんだ、たまには良いだろ」

そう言って私の首筋に顔を埋めて目を閉じた。
体を包んでいる腕は緩みそうになくて、むしろ少しでも動けばぎゅっときつくなる。
先生の体温があたたかい。心臓がばくばくと鳴る。顔が熱い。
同時に、先生が今日のために無理をしたという斎藤さんの話が頭をよぎる。

「あの」
「……なんだ」

眠そうな声。
このまま、ここで寝かせてあげた方がいいかもと一瞬思い、撤回した。

「寝るならベッドに行きましょう。……わ、わたしも一緒に寝ますから」

一瞬だけ腕の力が緩んで、すぐにまた強くなった。
顔をあげた土方先生の眉間には深い皺。

「そういうことを簡単に言うんじゃねえ」

声は明らかに不機嫌。でも、ここで引くわけにはいかない。

「今日早く帰って来るために、土方先生がとても無理をされたって聞きました。でも、私は料理くらいしか先生にして差し上げられることがないですし」
「それで十分俺は嬉しいし助かってる。――で、そこから何で一緒に寝ることに繋がるんだよ」
「でも、せめて甘えて欲しいんです!」

顔、熱い。
でも今伝えないと、臆病な自分は、次いつ言い出せるのか分からない。
ぽかんとした先生の顔は見なかったことにして声をあげる。

「わたし、お付き合いするのは土方先生が初めてで、不慣れだし、知らないことも多いですけど、これが、ど……同棲じゃなくて同居のような状態だってことくらい分かります。ちゃんと、先生の恋人になりたいんです……」

言葉は尻すぼみに小さくなってしまったけれど、おそらく聞き取ってもらえたはず。
恥ずかしくて顔を上げられずにいると、頬に手を添えられて目を合わせられる。
もう眉間の皺はなくなっていて、そして真剣な顔をしていた。

「……甘えて良いんだな? 恋人として」
「は、はいっ」
「そうだな――…まず、名前で呼んでくれるか。これからもずっとそうして欲しい」
「えっと」

つい、いつものように「恥ずかしい」とか「できません」といった言葉が口をつきそうになって、ぐっと飲み込む。
これが土方先生の甘えだとしたら、全力で受け入れたい。

「歳三、さん」
「……おう、千鶴」

先生が――じゃなかった。歳三さんがふわりと笑う。
心臓がどくりと鳴って、顔に熱い血がのぼる。たぶん真っ赤だ。
そんなに嬉しそうに目尻を下げて微笑むなんて知らなかった。
しかも、こんなに至近距離で、自分は彼の腕の中で、きっとうるさく鳴っている心臓の音には気付かれているだろう。
狼狽する私を余所に、歳三さんの手が首の後ろにまわる。

「好きだよ」

そんな言葉、そんな表情で囁かれたら、どうにかなってしまいそう。
私も好きと返したかったのに、心臓の鼓動が収まらなくて、結局言葉は発せなかった。
代わりに、引き寄せられて迫る唇を受け入れる。

「ふ……あっ」

ただ重ねられるだけの口付けが次第に深くなる。
ぬるりと舌が入ってきて、とまどう千鶴の舌を絡め取っては弄られる。歯列をなぞられて背筋がぞくぞくと粟立った。
こういうキスは初めてではないけれど、一向に慣れそうにない。
頭の後ろにまわった手も、腰を抱いている腕も緩まない。
とうとう息が苦しくなって歳三さんの胸を叩いたら、ようやく離してくれた。

「だから、鼻で息しろって」
「う……がんばります……」

肩で息をしながら答える私を見る歳三さんの顔は、とても楽しそう。顔色もすっかり血色が良くなっている。

「もう、睡眠はとらなくても大丈夫なんですか?」
「この美味しい状況で寝るような、腑抜けた男じゃねえよ。――千鶴、寝室に行」
「――あのっ! もう寝ないのでしたら!」
「は?」

歳三さんの言葉の意味は一部よく分からなかったけれど、とりあえず寝なくても大丈夫なのは分かった。
料理中に味見をしていた私と違って、彼は仕事を終えてから何も食べていないだろう。
今日は後から足したおかずもあって少し豪華だし、たくさん食べてもらいたい。

「お腹減ってますよね? ……一緒に食べたくて、二人分の夕食残してあるんです。わたし、久しぶりに歳三さんと夕食を食べれるのがとても嬉しくって」
「…………そうか」
「あの? 土方先生?」
「呼び方もどってる」
「あっ……ごめんなさい」

千鶴を膝から下ろした後、すたすたとキッチンに向かってしまう歳三さんの背を急いで追う。
ぶつぶつと呟く声は、小さすぎて聞くことができなかった。

『……あんな嬉しそうに言われたら、いまメシ食うしかねえだろうが……』

寝室に行ったところで、ベッドに潜り込んで仲良く寝ている子猫たちがいるのだが。
歳三はその事実をまだ知らない。


<続>
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