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猫パロ自宅訪問編の4話目です。
前話はこちら→ お邪魔してきました(1) (2) (3)
お邪魔してきました (4)
「よし完成!」
「――と意気込んだところで悪いけど」
「きゃあっ!? おお沖田さん?」
お米も炊けたし、追加のおかずもできた。あとは食卓に運ぶだけ。
そうやって喜んでいたところで、気付いたら沖田さんが真横に立っていた。
「あ、美味しいねこれ」
野菜と豚肉を甘辛い味噌で炒めたおかずを摘まみ食いした沖田さんが、ついでに運ぶよとお皿を食卓へと持って行く。
「あの、何かあったんですか」
「詳しい話は運び終わってからにしよっか」
「は、はい」
気付けば斎藤さんもキッチンから食器や料理を運んでくれている。
すっかり二人に懐いているちづが、楽しそうに二人を交互に追いかけて遊んでいた。
あれよあれよと準備は終わり、いま、三人でダイニングテーブルに座っている。
先生が座るはずの、自分の隣は空席のまま。
「……えっ。土方先生、寝てしまったんですか?」
「そうなんだよ。しかも僕たちと会話中に、ぐっすり。もう無理できない歳なのかなあ」
「おまえと土方さんは二つしか離れていないだろう」
先生がソファで眠り込んでしまったことを、斎藤さんが改めて丁寧に説明してくれる。
膝の上に陣取ったちづをあやすことは忘れていないのは流石だ。
「雪村。土方さんは今日早く帰宅するために、ここ数日無理をされていた。俺たちは夕食を食べたらすぐ帰る故、土方さんをゆっくり労わって欲しい」
「というわけで、僕と一君は先にご飯食べさせてもらうね」
「……分かりました。お気遣いありがとうございます」
二人に頭を下げながら、太腿の上に置いた手をぎゅっと握りしめた。
――土方先生がそんなに無理をしていたなんて、知らなかった。
申し訳ないと思う反面、二人の時間を作ろうとしてくれた事実を嬉しいと思ってしまう自分がいる。
しかし、ソファで眠る先生に毛布をかけようとしたとき、覗き込んだ寝顔はとても疲れていて、気付けなかった自分が情けない。
斎藤さんと沖田さんが料理を美味しいと何度も褒めてくれたのに、先生のことで頭がいっぱいで、うまくお礼ができているか分からなかった。
「気にする必要ないと思うよ」
「……え?」
「千鶴ちゃんって、隠しごとできないってよく言われない? 土方さんの体調、気付けなくて申し訳ないって顔に出てる」
「うっ」
「あ。ちょっと一君、それ残しておいてよ」
「却下だ。おまえの方が食べているだろう」
忙しなく箸を進めながら沖田さんが言う。
「土方さんが千鶴ちゃんと一緒に居たくて勝手に無理したんだから、自業自得でしょ」
「そ、そんなことありません!」
「何が違うの」
「私も土方先生と少しでも長く一緒に居たいからです!」
「「………」」
ついに箸を止めてこちらを凝視する二人。
今さら、自分が放った言葉の恥ずかしさが沸きあがってくる。顔が熱い。
「……今のは、ですね……」
「くくっ……! いや、いいよ大丈夫。分かったから」
「仲が良いようで何よりだ」
笑いを堪える沖田さんに、感慨深い顔で頷く斎藤さん。
言い訳が思いつかない私は、中途半端にあわあわと上げた行き場のない手を膝に戻した。
二人から視線をそらして、顔を熱を冷ます。
先生と一緒に食べたかったので、二人分の料理は別にしてある。だから少し手持無沙汰だ。
「み!」
気付くと、としぞーが椅子の下をうろうろとしていた。
「心配してくれたの? 大丈夫だよ」
膝の上に乗せてみても、心配そうな目でこちらを見ている。
一方のちづは、斎藤さんの膝で気持ち良さそうに眠っていた。
「千鶴ちゃんのこと、いじめてた訳じゃないんだけどなあ」
「おまえは雪村にかまいすぎだ」
「だって面白いんだもん。分かりやすくて」
「――そうですか……」
沖田さんが嫌味で言っている訳ではないと分かっていても、少し胸に刺さる。
土方先生は私の変化に敏いけれど、私はほとんどを気付くことができない。今日だって、あんなに疲れていることさえ気付けなかった。
「まあ、土方さんはいつも難しい顔してて分かりにくいけど、バランス取れてて良いんじゃない?」
「そんなことないだろう。雪村と居る時の土方さんは穏やかな顔をしている」
「本当ですか?」
「ああ。俺からすると分かりやすいほどにな」
斎藤さんの言葉が胸に染みる。
土方先生と付き合いの長い彼が言ってくれたのだから、本当だと思って良いだろうか。
私も年月を重ねれば、先生の変化を鋭く察知する技術が身につくかもしれない。斎藤さんのように。
思わずぴんと背筋を伸ばした。
「……なんか変なこと考えてない? でもまあ良かったね。――だから、気軽に楽しんだら良いと思うよ。同棲」
「ど、どど同棲って……!」
「同棲じゃなかったら、何なのさ」
「み゛ー!」
「あっ! テーブルには乗っちゃ駄目!」
「……ほんと気に入らないなあ。そこは土方さんに爪を立てるべきじゃないの?」
突然、私の対面に座っている沖田さんに向かって、爪をむいたとしぞーの体をあわてて掴む。
ダイニングテーブルに飛び乗る前に、何とか阻止することができた。
代わりに、としぞーの鳴き声でちづが目覚めてしまう。
「み……? ふにゃー!」
「ちづ。そこに乗ってはいけない」
こちらは冷静に箸を置いた斎藤さんに、素早い動作で捕獲された。
それから、沖田さんと斎藤さんがおかずを取り合ったり、としぞーが沖田さんに襲いかかったり、ちづがそこにじゃれついたりしながら賑やかな食事が終わりを告げる。
「お邪魔しました。また美味しいごはん作ってね」
「突然邪魔をしたな。馳走だった」
「あの、今度は四人で食べましょうね。またお待ちしてます」
「土方さんに無断でそんなこと言っていいの?」
「う……大丈夫です。説得しますから。今度はちゃんと準備するので……みんなでお鍋とかしたいです」
「いいね、お鍋。楽しみにしてる」
「土方さんによろしく伝えてくれ。ちづも元気でな」
「はい。おやすみなさい」
「みー!」
腕の中で、ちづが両手足をばたつかせる。としぞーはまた部屋の奥へ逃げてしまった。
二人の背中を見送りながら玄関の扉を閉める。
重い音が響いた後、室内が静まり返った。
土方先生が目覚める様子は――まだない。
<続>
前話はこちら→ お邪魔してきました(1) (2) (3)
お邪魔してきました (4)
「よし完成!」
「――と意気込んだところで悪いけど」
「きゃあっ!? おお沖田さん?」
お米も炊けたし、追加のおかずもできた。あとは食卓に運ぶだけ。
そうやって喜んでいたところで、気付いたら沖田さんが真横に立っていた。
「あ、美味しいねこれ」
野菜と豚肉を甘辛い味噌で炒めたおかずを摘まみ食いした沖田さんが、ついでに運ぶよとお皿を食卓へと持って行く。
「あの、何かあったんですか」
「詳しい話は運び終わってからにしよっか」
「は、はい」
気付けば斎藤さんもキッチンから食器や料理を運んでくれている。
すっかり二人に懐いているちづが、楽しそうに二人を交互に追いかけて遊んでいた。
あれよあれよと準備は終わり、いま、三人でダイニングテーブルに座っている。
先生が座るはずの、自分の隣は空席のまま。
「……えっ。土方先生、寝てしまったんですか?」
「そうなんだよ。しかも僕たちと会話中に、ぐっすり。もう無理できない歳なのかなあ」
「おまえと土方さんは二つしか離れていないだろう」
先生がソファで眠り込んでしまったことを、斎藤さんが改めて丁寧に説明してくれる。
膝の上に陣取ったちづをあやすことは忘れていないのは流石だ。
「雪村。土方さんは今日早く帰宅するために、ここ数日無理をされていた。俺たちは夕食を食べたらすぐ帰る故、土方さんをゆっくり労わって欲しい」
「というわけで、僕と一君は先にご飯食べさせてもらうね」
「……分かりました。お気遣いありがとうございます」
二人に頭を下げながら、太腿の上に置いた手をぎゅっと握りしめた。
――土方先生がそんなに無理をしていたなんて、知らなかった。
申し訳ないと思う反面、二人の時間を作ろうとしてくれた事実を嬉しいと思ってしまう自分がいる。
しかし、ソファで眠る先生に毛布をかけようとしたとき、覗き込んだ寝顔はとても疲れていて、気付けなかった自分が情けない。
斎藤さんと沖田さんが料理を美味しいと何度も褒めてくれたのに、先生のことで頭がいっぱいで、うまくお礼ができているか分からなかった。
「気にする必要ないと思うよ」
「……え?」
「千鶴ちゃんって、隠しごとできないってよく言われない? 土方さんの体調、気付けなくて申し訳ないって顔に出てる」
「うっ」
「あ。ちょっと一君、それ残しておいてよ」
「却下だ。おまえの方が食べているだろう」
忙しなく箸を進めながら沖田さんが言う。
「土方さんが千鶴ちゃんと一緒に居たくて勝手に無理したんだから、自業自得でしょ」
「そ、そんなことありません!」
「何が違うの」
「私も土方先生と少しでも長く一緒に居たいからです!」
「「………」」
ついに箸を止めてこちらを凝視する二人。
今さら、自分が放った言葉の恥ずかしさが沸きあがってくる。顔が熱い。
「……今のは、ですね……」
「くくっ……! いや、いいよ大丈夫。分かったから」
「仲が良いようで何よりだ」
笑いを堪える沖田さんに、感慨深い顔で頷く斎藤さん。
言い訳が思いつかない私は、中途半端にあわあわと上げた行き場のない手を膝に戻した。
二人から視線をそらして、顔を熱を冷ます。
先生と一緒に食べたかったので、二人分の料理は別にしてある。だから少し手持無沙汰だ。
「み!」
気付くと、としぞーが椅子の下をうろうろとしていた。
「心配してくれたの? 大丈夫だよ」
膝の上に乗せてみても、心配そうな目でこちらを見ている。
一方のちづは、斎藤さんの膝で気持ち良さそうに眠っていた。
「千鶴ちゃんのこと、いじめてた訳じゃないんだけどなあ」
「おまえは雪村にかまいすぎだ」
「だって面白いんだもん。分かりやすくて」
「――そうですか……」
沖田さんが嫌味で言っている訳ではないと分かっていても、少し胸に刺さる。
土方先生は私の変化に敏いけれど、私はほとんどを気付くことができない。今日だって、あんなに疲れていることさえ気付けなかった。
「まあ、土方さんはいつも難しい顔してて分かりにくいけど、バランス取れてて良いんじゃない?」
「そんなことないだろう。雪村と居る時の土方さんは穏やかな顔をしている」
「本当ですか?」
「ああ。俺からすると分かりやすいほどにな」
斎藤さんの言葉が胸に染みる。
土方先生と付き合いの長い彼が言ってくれたのだから、本当だと思って良いだろうか。
私も年月を重ねれば、先生の変化を鋭く察知する技術が身につくかもしれない。斎藤さんのように。
思わずぴんと背筋を伸ばした。
「……なんか変なこと考えてない? でもまあ良かったね。――だから、気軽に楽しんだら良いと思うよ。同棲」
「ど、どど同棲って……!」
「同棲じゃなかったら、何なのさ」
「み゛ー!」
「あっ! テーブルには乗っちゃ駄目!」
「……ほんと気に入らないなあ。そこは土方さんに爪を立てるべきじゃないの?」
突然、私の対面に座っている沖田さんに向かって、爪をむいたとしぞーの体をあわてて掴む。
ダイニングテーブルに飛び乗る前に、何とか阻止することができた。
代わりに、としぞーの鳴き声でちづが目覚めてしまう。
「み……? ふにゃー!」
「ちづ。そこに乗ってはいけない」
こちらは冷静に箸を置いた斎藤さんに、素早い動作で捕獲された。
それから、沖田さんと斎藤さんがおかずを取り合ったり、としぞーが沖田さんに襲いかかったり、ちづがそこにじゃれついたりしながら賑やかな食事が終わりを告げる。
「お邪魔しました。また美味しいごはん作ってね」
「突然邪魔をしたな。馳走だった」
「あの、今度は四人で食べましょうね。またお待ちしてます」
「土方さんに無断でそんなこと言っていいの?」
「う……大丈夫です。説得しますから。今度はちゃんと準備するので……みんなでお鍋とかしたいです」
「いいね、お鍋。楽しみにしてる」
「土方さんによろしく伝えてくれ。ちづも元気でな」
「はい。おやすみなさい」
「みー!」
腕の中で、ちづが両手足をばたつかせる。としぞーはまた部屋の奥へ逃げてしまった。
二人の背中を見送りながら玄関の扉を閉める。
重い音が響いた後、室内が静まり返った。
土方先生が目覚める様子は――まだない。
<続>
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