[SSL] 君がいないのに酔狂

SSLの土千でクリスマス。
タイトル通り千鶴ちゃん出てきませんけど土千です。

君がいないのに酔狂






「……終わらねえ」

パソコンのキーボードの脇には大量の書類。
テストの答案、会議資料、学校行事の回覧――その他もろもろ。
手でほんの少し押せば崩れそうだ。むしろ、崩してしまいたいほど憎らしい。
眉間の皺など寄るに決まっている。

「ああー！！　クリスマスに男三人で仕事たあ悲しいぜ！」
「おまえは仕事があった方が、一人じゃなくて良いんじゃないか？」
「それどういう意味だ左之！」

残業を嘆く新八を原田がからかい騒ぎ立てる。
いつもなら静かにしろとでも一喝しているところだが、今夜はそんな時間も惜しい。
遅くなると送ったメールの返信は、想像とおり『私のことは気にせず、お仕事頑張って下さい』という彼女らしいものだったが、どんな顔をして一人待っているのかは想像に容易い。
この時間では、すっかり料理も作り終わっていることだろう。
どうしてクリスマスはこんな糞忙しい年末にあるのかなどと、どうしようもない苛立ちさえ沸いてくる。
気を紛らわすために冷めきったコーヒーを飲みほした。

「土方さんは早く帰りたくて仕方ないって顔してんなあ、まあ仕方ねえか。千鶴、家で待ってんだろ？」
「……原田、学校でそういうこと言うんじゃねえ」
「もう俺たち三人しか居ないんだから良いだろ」

仮にも上司をからかうような話題を振りながら、自分の手を止めないあたりは流石である。
千鶴の担任である原田には弱みを握られすぎていて、どうにもやりにくい。
それもこれも、過去に千鶴が原田を恋愛相談役として頼っていたことが原因だ。
それにしても、未だに保護者面で千鶴に馴れ馴れしく接するのはだいぶ納得がいかない。

「しっかし、千鶴ちゃんもあと少しで卒業だし、良かったな土方さん！」

ついでに言うと、色恋に鈍そうな新八にすらいつの間にか露見していたことも納得がいかない。土方と千鶴のことを吹聴するような人間ではないと分かっていてもだ。
とりあえず送られた言葉については肯定して、手が止まっているぞと小言を付け加えた。
その間にパソコンの電源を落として、鞄に荷物を適当につっこむ。
最後にコートを引っ掴んで立ち上がると、二人が揃って顔を上げた。

「俺は帰るから、しっかり鍵閉めてけよ」
「土方さん、もう終わったのか？」
「どうやってこの量を終わらせられんだよ。お前らが千鶴の話ばっかりするから、帰りたくなった」

かまわず二人のデスク前を通り過ぎる。

「……土方さんって、そんなキャラだったか？」
「あーあ……俺も可愛い彼女が欲しいぜ……」

後ろから聞こえてくる雑談は気付かないふりをして、後ろ手で職員室の扉を閉めた。
土方の早々の離脱で、あの二人もすぐに切り上げるだろう。
夕食も兼ねた居酒屋で、話のネタにされるに違いない。

（浮かれてる――…浮かれてるよなあ）

新八に言われるまでもない。
あと三か月もすれば、千鶴は学園を卒業する。
土方の家でしか触れ合えない状態は終わりだし、一緒に外出だってできる。
それを心待ちにしているなんて一回り以上年上の男にとって恥ずかしい話だが、それを千鶴に伝えれば幸せそうに微笑んで、「私もです」と甘えてくれる。表に出さないのはもったいない。

ここ数か月、そうやって浮かれた日々を過ごしていた。
ただでさえ待ち遠しいのに、寸前にやってきたクリスマスにこの状況である。焦れて当たり前だ。
歩調は勝手に早くなる。
暗く静まり返った廊下は屋内でも寒々としていて、早く帰りたい気持ちをさらに掻き立てる。
雑な動作でコートに腕を通して、携帯電話を取り出した。

「――…千鶴か？　ああいや、遅くなって悪い。今から帰る」

電話越しに送られる言葉は相変わらず土方の仕事をねぎらうものだが、喜んでいる声色を隠しきれていない。
可愛いので少しからかったらご機嫌を損ねてしまったようだ。
悪かったと謝罪して電話を切る。
――さて、どんな顔で迎えてくれるだろうか。

2013/12/23 (Mon) 土千　ＳＳＬ Comment(0)