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3話です。 (1)(2)(3)(4)
人か人じゃないかなんて、素直なお前は、問えば正直に頷いたのだろう。
分かっていて聞かずにいたのは、ただ怖かったからだ。
千鶴が、この部屋から居なくなるのが。
あなたに会いにきました。 (3)
「――今日は、大分凪いでるな」
「 ? 」
いつものように、浜辺に2人で座り込む。
満月と、それが反射した水面の淡い光で、お互いは十分確認できる。
煙草の煙が千鶴にあたらない様、満面の星が広がる夜空に吐き出した。
「足までなら、入ってもいいぞ」
「――…!!」
しばし間をおいてから、ついに理解したようだ。千鶴の顔が嬉しさで赤みを増す。
早く連れていってくれとぶつかるように抱きついて来た。俺の胸に顔をぐりぐりと押し付ける。
「分かった分かった。だから落ち着け」
もう夏が終わる。
いつも、千鶴は必死に海を指をさして入りたいと訴えたが、傷が治らない身体では駄目だと言い続けてきた。
その度に、まさに落胆といった表情をしていた千鶴。その顔にうっかり許可を出しそうになったこと数回。
しかし、手足の傷は遂に癒えた。
冷たさが混じり始めた潮風に、海に入れるのは今週が限界だろうと予測できる。
煙草を灰皿に押し付けて、千鶴をひょいと抱き上げた。
「――やっぱ冷てえな、気を付けろよ」
ジーンズを膝まで捲り上げて、寄せる穏やかな波と逆方向にざぶざぶと進む。
きらきらと目を輝かせる千鶴の手は、興奮からか、俺のシャツをぎゅっと握り締めて離さない。
こういうところは本当に幼い少女の様だ。しかし、静かに海を眺める様子はどこか大人びて見えるのだ。
まったく、不思議な女だと思う。
「この深さが限界だな」
水面が膝に届く手前まで来る。
目の前に広がるのは海と満月だけ。聞こえるのは波の音のみ。
感じるのは、腕の中にある千鶴の暖かさと海の冷たさだけで、ここに2人だけ取り残されたような感覚を覚える。
ゆっくりと千鶴を下ろせば、浮力で膝立ちになる。
すると、わき目も振らずどんどん沖へ進んでしまった。いくら海の中とはいえ、地上では一歩も歩けない身体に、どこにそんな力があるのか。
「――おい……!」
『千鶴、待て』と呼び止めたかったのに、それは言葉になりきれず消えた。
今、俺が見ているのは千鶴のはずだ。そう自分に言い聞かせる。
視線はそこから一瞬も離せなくなっていた。
腰まで海につかった、千鶴の小さい背中。
下ろさせた漆黒の髪と、白のワンピースから伸びる細い腕。
ゆらゆらと水面に揺らめくワンピースのその下は、月光の反射で見ることは叶わない。
その姿は、まるで。
(…――俺は、馬鹿か)
そんなこと、あるわけがない。ただの錯覚だ。分かっている。
分かっているのに、何故こんなに心臓がうるさいのか。
「千鶴、帰ろう」
服が濡れるのもおかまいなしで、千鶴の腕を掴む。
一瞬、残念そうな表情を浮かべていたが、すぐにこくりと頷いた。
後から考えてみれば、俺はひどく必死の形相をしていたのではないか。千鶴は俺を怒らせたと思ったのかもしれない。
ただ、あのとき、千鶴をこれ以上行かせてはいけない気がした。
混乱した頭で、そのひどい焦燥感が、やけにはっきりと記憶に残っている。
再び抱き上げた千鶴が何も変わっていない事に胸を撫でおろした自分は、今になると笑えるくらい滑稽だった。
この生活が、ずっと、ずっと続くと思っていたのだ。
人か人じゃないかなんて、素直なお前は、問えば正直に頷いたのだろう。
分かっていて聞かずにいたのは、ただ怖かったからだ。
千鶴が、この部屋から居なくなるのが。
あなたに会いにきました。 (3)
「――今日は、大分凪いでるな」
「 ? 」
いつものように、浜辺に2人で座り込む。
満月と、それが反射した水面の淡い光で、お互いは十分確認できる。
煙草の煙が千鶴にあたらない様、満面の星が広がる夜空に吐き出した。
「足までなら、入ってもいいぞ」
「――…!!」
しばし間をおいてから、ついに理解したようだ。千鶴の顔が嬉しさで赤みを増す。
早く連れていってくれとぶつかるように抱きついて来た。俺の胸に顔をぐりぐりと押し付ける。
「分かった分かった。だから落ち着け」
もう夏が終わる。
いつも、千鶴は必死に海を指をさして入りたいと訴えたが、傷が治らない身体では駄目だと言い続けてきた。
その度に、まさに落胆といった表情をしていた千鶴。その顔にうっかり許可を出しそうになったこと数回。
しかし、手足の傷は遂に癒えた。
冷たさが混じり始めた潮風に、海に入れるのは今週が限界だろうと予測できる。
煙草を灰皿に押し付けて、千鶴をひょいと抱き上げた。
「――やっぱ冷てえな、気を付けろよ」
ジーンズを膝まで捲り上げて、寄せる穏やかな波と逆方向にざぶざぶと進む。
きらきらと目を輝かせる千鶴の手は、興奮からか、俺のシャツをぎゅっと握り締めて離さない。
こういうところは本当に幼い少女の様だ。しかし、静かに海を眺める様子はどこか大人びて見えるのだ。
まったく、不思議な女だと思う。
「この深さが限界だな」
水面が膝に届く手前まで来る。
目の前に広がるのは海と満月だけ。聞こえるのは波の音のみ。
感じるのは、腕の中にある千鶴の暖かさと海の冷たさだけで、ここに2人だけ取り残されたような感覚を覚える。
ゆっくりと千鶴を下ろせば、浮力で膝立ちになる。
すると、わき目も振らずどんどん沖へ進んでしまった。いくら海の中とはいえ、地上では一歩も歩けない身体に、どこにそんな力があるのか。
「――おい……!」
『千鶴、待て』と呼び止めたかったのに、それは言葉になりきれず消えた。
今、俺が見ているのは千鶴のはずだ。そう自分に言い聞かせる。
視線はそこから一瞬も離せなくなっていた。
腰まで海につかった、千鶴の小さい背中。
下ろさせた漆黒の髪と、白のワンピースから伸びる細い腕。
ゆらゆらと水面に揺らめくワンピースのその下は、月光の反射で見ることは叶わない。
その姿は、まるで。
(…――俺は、馬鹿か)
そんなこと、あるわけがない。ただの錯覚だ。分かっている。
分かっているのに、何故こんなに心臓がうるさいのか。
「千鶴、帰ろう」
服が濡れるのもおかまいなしで、千鶴の腕を掴む。
一瞬、残念そうな表情を浮かべていたが、すぐにこくりと頷いた。
後から考えてみれば、俺はひどく必死の形相をしていたのではないか。千鶴は俺を怒らせたと思ったのかもしれない。
ただ、あのとき、千鶴をこれ以上行かせてはいけない気がした。
混乱した頭で、そのひどい焦燥感が、やけにはっきりと記憶に残っている。
再び抱き上げた千鶴が何も変わっていない事に胸を撫でおろした自分は、今になると笑えるくらい滑稽だった。
この生活が、ずっと、ずっと続くと思っていたのだ。
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