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2話です。 (1)(2)(3)(4)
薄暗い部屋に青白く浮かぶのは、海と月、潮風に揺れるカーテン。
窓枠が形どるそのなかに、ぺたりと座る、小さい背中の少女が加わった。
あなたに会いにきました。 (2)
「ただいま」
「 ! 」
狭いワンルームの部屋は、玄関を入れば全体を見渡せる程度しかない。
いつも通り、窓際に座り込んでいた少女が勢いよくこちらを振り向いた。
「おかえりなさい」を声で返せない代わりなのか、立てない身体に無理をして、つかまり立ちでこちらに来ようとする。
しかし、いまだ成功したことはない。
視線の先には、尻もちをついて半べそになった千鶴。思わず吹き出せばたちまち不満顔だ。
無理なんてせずとも、両腕で少しずつなら移動できるのだからと、何度言っても聞こうとしない。
「だから、無理すんな」
不思議なくらい軽い身体を抱き上げて、2人掛けのテーブルの椅子に座らせる。
それからは俺が着替えたり飯の準備をしたりするのを、にこにこしながら目で追う、というのが毎日の流れになっていた。
(もう、すっかり慣れたな…お互いに)
俺が仕事に行っている間、退屈だろうと思い「テレビでも見てろ」と言えばぽかんとされた。まあ、電気や水道のことも分かっていなかったので、大した期待はしていなかったのだが。
こちらの心配をよそに、千鶴はいつも海を見て過ごした。
おそらく一日のほぼ全てだろう。
俺が視界に入るときこそこちらを見ているが、少しでも離れれば、その黒目がちな瞳は窓を通り越した海を映していた。朝、布団から抜け出して、朝日にきらめく海をまぶしそうに見ていることもある。
「――――…っ」
たまに、声のつまる音が聞こえた。
とりあえず千鶴の背を撫でたりすることもあったが、顔を見る勇気は出なかった。ベッドで本を読みながら、気付かないふりをしたことすらあった。
もし千鶴が涙を零していたとしても、俺には何もできない。励ます言葉も見つけられない。それを理由に目をそらしていた。
しかし、そんなのはただの建前で、千鶴に情が沸くのを恐れていただけだった気もする。
やがて、窓際は千鶴の定位置になった。
そこにぺたりと座り込む小さな身体。
海に近いこのアパートを選んだのはただの気分だったが、良い選択だったかもしれない。穏やかな顔で海を眺め続ける千鶴を見るとそう思う。
そんなに海ばかり見て飽きないのかと思ったが、毎晩浜辺へ行く自分も似たようなものか。
(こんなに海が好きなのも、めずらしいな)
だから、日課である夜の散歩に、千鶴を毎日連れていった。
海がしければ彼女も顔を曇らせ、美しく凪いでいれば嬉しそうに微笑む。たまに魚が跳ねれば、子供のように喜んだ。
声も出なければ、歩くこともできない。
そんな少女を、ずっと見ていて飽きないと思うのは何故だろうか。
ベッドにつかまって立とうとした千鶴が派手に転んで肝を冷やした。
窓際の床は冷たいだろうとカーペットを買ってみれば、満面の笑みで喜んだ。
夕飯の魚を決死の形相で口に含んだのを見て思わず笑った。
人の家に行くときはこれを鳴らせと教えてみると、真剣に頷いてみせた。
ドライヤーが怖いらしく、ぎゅっと必死に目を瞑る千鶴の髪を毎日乾かした。
気付けば、つまる様なあの声は聞かなくなっていた。
薄暗い部屋に青白く浮かぶのは、海と月、潮風に揺れるカーテン。
窓枠が形どるそのなかに、ぺたりと座る、小さい背中の少女が加わった。
あなたに会いにきました。 (2)
「ただいま」
「 ! 」
狭いワンルームの部屋は、玄関を入れば全体を見渡せる程度しかない。
いつも通り、窓際に座り込んでいた少女が勢いよくこちらを振り向いた。
「おかえりなさい」を声で返せない代わりなのか、立てない身体に無理をして、つかまり立ちでこちらに来ようとする。
しかし、いまだ成功したことはない。
視線の先には、尻もちをついて半べそになった千鶴。思わず吹き出せばたちまち不満顔だ。
無理なんてせずとも、両腕で少しずつなら移動できるのだからと、何度言っても聞こうとしない。
「だから、無理すんな」
不思議なくらい軽い身体を抱き上げて、2人掛けのテーブルの椅子に座らせる。
それからは俺が着替えたり飯の準備をしたりするのを、にこにこしながら目で追う、というのが毎日の流れになっていた。
(もう、すっかり慣れたな…お互いに)
俺が仕事に行っている間、退屈だろうと思い「テレビでも見てろ」と言えばぽかんとされた。まあ、電気や水道のことも分かっていなかったので、大した期待はしていなかったのだが。
こちらの心配をよそに、千鶴はいつも海を見て過ごした。
おそらく一日のほぼ全てだろう。
俺が視界に入るときこそこちらを見ているが、少しでも離れれば、その黒目がちな瞳は窓を通り越した海を映していた。朝、布団から抜け出して、朝日にきらめく海をまぶしそうに見ていることもある。
「――――…っ」
たまに、声のつまる音が聞こえた。
とりあえず千鶴の背を撫でたりすることもあったが、顔を見る勇気は出なかった。ベッドで本を読みながら、気付かないふりをしたことすらあった。
もし千鶴が涙を零していたとしても、俺には何もできない。励ます言葉も見つけられない。それを理由に目をそらしていた。
しかし、そんなのはただの建前で、千鶴に情が沸くのを恐れていただけだった気もする。
やがて、窓際は千鶴の定位置になった。
そこにぺたりと座り込む小さな身体。
海に近いこのアパートを選んだのはただの気分だったが、良い選択だったかもしれない。穏やかな顔で海を眺め続ける千鶴を見るとそう思う。
そんなに海ばかり見て飽きないのかと思ったが、毎晩浜辺へ行く自分も似たようなものか。
(こんなに海が好きなのも、めずらしいな)
だから、日課である夜の散歩に、千鶴を毎日連れていった。
海がしければ彼女も顔を曇らせ、美しく凪いでいれば嬉しそうに微笑む。たまに魚が跳ねれば、子供のように喜んだ。
声も出なければ、歩くこともできない。
そんな少女を、ずっと見ていて飽きないと思うのは何故だろうか。
ベッドにつかまって立とうとした千鶴が派手に転んで肝を冷やした。
窓際の床は冷たいだろうとカーペットを買ってみれば、満面の笑みで喜んだ。
夕飯の魚を決死の形相で口に含んだのを見て思わず笑った。
人の家に行くときはこれを鳴らせと教えてみると、真剣に頷いてみせた。
ドライヤーが怖いらしく、ぎゅっと必死に目を瞑る千鶴の髪を毎日乾かした。
気付けば、つまる様なあの声は聞かなくなっていた。
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