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拍手[16回]








二人と二匹で、同居はじめました。(6)【終】




「はー……」

同じ家に住んでいながら逃げられるとは、誰が予想できるだろうか。
千鶴が自室にこもってから早二時間。
固い壁にもたれながらフローリングに座り続けるのも、そろそろ身体が痛い。部屋の中からは物音ひとつ聞こえてこないし、もう寝ているのだろうか。
今夜は諦めるべきかもしれない。
しかし、千鶴の部屋の前に座りこんだ俺の膝に勝手に乗ってきたちづが、幸せそうな顔で寝こけているので動けない。
――というのは言い訳で。あきらめがつかないのは、千鶴があまりにも苦しそうな顔をしていたから。
あんな千鶴の顔は初めて見た。つらそうに顔を歪めているのに、無理に口角だけを上げた笑顔。嘘がつけなくて、いつも真っ直ぐな感情を顔に出す彼女がこんな顔をするのかと、それをさせたのは自分かと思うと、どうしていいか分からなくなった。
そうやって呆けている間に、千鶴に逃げられた訳だが。
(こんなに伝わらないなんて、予想外だろ)
あまりにも突然の告白をした自覚はあるが、あんなにはぐらかそうとするのは何故か。まるで、俺の告白が信じられないから、聞こえないふりをしてみました、とでもいうような。
(……はあ。うまく頭が回らねえ)
ちづの遊び相手くらいしかやることがなかった二時間で、推測の域を出ない想像は、どんどん悪い方向へ進んだ。
最終的に、千鶴に交際を断られて同居も解消されるといった結末に行き着いてひどい不安に駆られ、鍵など壊してしまおうかと画策するも、通りかかった黒猫に冷たい目で見られて我に返った。
そんなことを繰り返して今に至る。
悪いことばかり考えていたせいか、無性に千鶴の笑顔が見たい。とりあえず、今は俺に向けられた笑顔ではなくても良いから見たい。
そうやってだらしなく壁にもたれていたら、ふらりとやってきた黒猫が扉の前に座った。

「……にゃ」
「悪いが、千鶴なら今夜は出てこねえと思うぞ」

おそらく千鶴と一緒に寝たいのだろう。しかし、今夜その扉が開く可能性は低い。自分のせいなのは確かなので、申し訳程度に断っておく。

「だから、ちづと一緒に俺の部屋で寝てろ……って、おい」
「みー」

黒猫が、まだ小さい爪でかりかりと扉を引っ掻き始めた。
止めさせようと思ったが、膝の上でちづが寝ている。黒猫に手が届く距離ではないし、仕方ないのでちづを起こすかどうか思案している間も、黒猫は音をたて続けた。

『……としぞー?』

微かだが、扉の向こうから千鶴の声がした。声は微かに憔悴しているようにも聞こえる。

『としぞー、扉は引っ掻いちゃだめ……』

真面目な性格の千鶴では、扉を傷つけているとなれば放っておけないだろう。一刻待って、ドアノブの鍵が控え目にかちゃりと鳴った。

「としぞー、引っ掻くのはね、だめなの。だから中に――」
「にゃうっ!」
「えっ……! ち、ちづ?」

扉が開く音で目を覚ましたらしいちづが、一目散に千鶴の部屋に飛び込んでいった。相変わらず行動が読めないおてんば猫である。
ところで、どうやら俺の場所は死角らしかった。黒猫しか見えないし、千鶴もこちらには気付いていないらしい。

「みっ!」
「えっと、としぞー? そこ立ってるとね、扉が閉められないの。ちづも入ったみたいだから、はや、く……」
「千鶴」

閉め出されないようにと、素早く掴んだ扉が微かに軋む。
驚いた千鶴の視線が、足元の黒猫からこちらに移った。
黒猫がするりと部屋へ入って行ったのを横目で確認して、千鶴との距離をつめる。怖がらせないように気を付けて肩に手を置いたが、触った途端にびくりと震えた。
顔は今にも泣き出しそうだし、目は泣きはらしたように赤くなっている。

「また突然で、悪いな」
「えっ?」

千鶴の腰に腕をまわして抱き上げる。もう片方の手を太ももの裏に回してしまえば、千鶴の体がふわりと浮いた。華奢な見た目通り、とても軽い身体だ。目を白黒させて狼狽している千鶴をわざと無視して部屋入ってしまう。

「あ、あの、ひじかた先生」
「少しで良いから、俺の話を聞いて欲しい」

そのままベッドに腰をかければ、千鶴を膝に横抱きしている格好になった。あたたかい体温が伝わってきて、自然と心拍数が上がる。

「千鶴を好きだって言ったのは嘘でも冗談でもない。俺の言葉が信じられないってなら、理由を聞かせてくれないか?」

腕のなかにある千鶴の体が固くなる。
少しばかりの沈黙を経て、静まりかえった部屋に、千鶴がすうと息を吸う音が響いた。

「……良いんですか」
「ん?」
「私みたいな子供で、先生は良いんですか」
「何で、そう思うんだよ」

間近にある千鶴のまつ毛が震える。腕に収まっているのを良いことにぐいと頭を引き寄せれば、大人しく寄りかかってきた。

「だって、としぞーを拾ってからずっと先生に助けてもらってばかりだし、まだ、世間も知らない学生です。今日だって、先生を困らせて会話もろくにできないし、――しかも、告白をはぐらかそうとしたなんて、本当に、最低……!」

最後は自身に投げつけるような言葉をはいた千鶴の瞳から、涙がぽろりと落ちた。それからせきを切ったように、大粒の涙が何度も頬を伝う。それを拭いながら、必死に嗚咽をこらえている姿はひどく痛ましかった。
千鶴の涙を見るのは、拾って間もない黒猫が不調に陥ったとき以来だ。いつも一生懸命で、自分自身のことは二の次。だから、自分の魅力なんてものは、これっぽっちも理解していないのかもしれない。

「子供だと思ったことなんかねえよ。偶然拾った子猫を真剣に育てて、成長したら喜んで笑って、ずっとやさしく見守ってる。そんな千鶴に会えなくなるのが嫌で、無理にでも同居したいって思ったことはあるけどな」
「……ふえ」
「おい、さらに泣くとこじゃねえぞ」

千鶴の涙が止まる様子はない。良かったことといえば、先程まで青白かった顔色が、血色の良い赤に染まってきたことだろうか。

「勝手なことばかり思い込んで、ごめんなさい……! わたし、ほんとうに、本当に土方先生が好きで、一緒に暮らせることが夢みたいで、これ以上求めるのは贅沢だって、思ってて……!」

顔を覆う千鶴の手をそっとどかして、涙を代わりにぬぐってやる。

「だから、わたしのことが好きだなんて、そんなことある訳ないって……自分だけで決めて」
「分かった。千鶴、もう良いから」

やっと言葉にしてくれた千鶴の告白を、もっと聞いていたいと思う一方で、触れ合って確かめ合いたいという欲求が沸きあがり、結局は後者が勝った。

「んっ」

ごめんなさい、と絶えず繰り返す千鶴の唇を自分のそれでふさぐ。

「ひゃ、んぅ」

おそらく慣れていないだろう千鶴には悪いと思ったが、やわらかすぎる唇が甘すぎて、すぐに離してやることができなかった。言い訳のつもりではないが、千鶴の涙が止まればすぐ終わらせる予定だった。断じて嘘ではない。
おまけに、千鶴から離れられる体勢ではないことも災いした。要するに、主導権はこちらにある。
そうなると、やっと恋人になれて高揚する気持ちも相まって、抱きしめる腕は強くなっていく。

「ふ、は……!」

ついに、苦しくなった千鶴が俺の胸を叩いた。

「……はあっ」
「鼻で息していいんだぞ」
「そっ、そんな難しいこと、すぐにできません」

目尻に溜まっている涙は、おそらく生理的な涙だろう。

「もう、泣き止んだな」

ずっと緊張で強張っていた体も力が抜け、すっかり俺に身を任せている。すん、と鼻を鳴らす音が聞こえた。

「あの、面倒をかけて、ごめんなさい」
「俺が聞きたいのは謝罪じゃない。……そうだ、告白の返事、改めてもらって良いか」
「……は、はい」

千鶴の顔が耳まで真っ赤に染まる。もはや可愛いだけなので、戯れのつもりで額に唇をあてたら面白いくらいに狼狽した。

「わ、わたし、土方先生が好きです。病院ではじめて会ったときから、厳しくて優しい先生が、ずっと」
「――ありがとうな」

そっと顔を近づければ、目的を悟ってくれた千鶴が恥ずかしそうに瞼を閉じる。また深くなってしまいそうな欲求に理性を無理やり持ち込んで、重ねるだけの短い口付けをおくった。
その甲斐あってか、顔を赤くしたままの千鶴がそっと胸に寄り添ってくる。その体温をもっと感じたくて、ちいさな身体をさらに引き寄せた。
(……ん?)
視線を感じてふと目線と移した。その先には、猫用ベッドに仲良く寝ころぶ子猫が二匹。
その顔は、嬉しそうだったり、あるいは呆れていたりしていて。――まったく、手のかかるご主人たちだ、などと言われているような気がした。

「――面倒かけて、悪かったな」
「え? 何がでしょうか?」
「みっ♪」
「……にゃぅ」

今度、二匹が大きくなっても一緒に眠れるベッドでも買うか。などとぼんやり考えていたら、腕のなかの千鶴がもぞもぞと動き出す。
どうやら、いつまでも抱きかかえられているのが恥ずかしくなってきたらしい。俺からすると、この体勢で動かれるのはいろいろとよろしくないのだが。
(どう考えても、これは据え膳だろ……)
一段落したら、こんなに軽いのに柔らかい体とか、いやに白い首筋にキスで充血した赤い唇とか、千鶴の全てに神経が集中する。
もらった恩をかえりみず、今ここに二匹がいなければ――なんて、考えてしまったことは秘密である。

<終>
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