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二人と二匹で、同居はじめました。(4)
「……まあ、そんな気はしてたけどな」
千鶴の部屋を後にして、リビングのカーペットに二匹を下ろすなり、ちづが黒猫にじゃれついた。
千鶴もすこしは気付いているようだが、ここに到着してから黒猫が落ち着かない。
段ボールに何度も入って千鶴を困らせるなんて頭の良いこいつらしくなかったが、まだ子猫だ。突然変わった環境に驚いたのだろう。
普段にも増して千鶴から離れたくない顔をしていたが、ちづと遊ばせてみれば緊張が解けたらしい。今は遊ぶのにも疲れ、ころころと折り重なって寝こけている。
千鶴が預けてくれたおもちゃは、全く出番なしだ。
「黒猫を心配する必要は、実際ほとんどないんだよなあ」
千鶴かちづがいれば、そちらに付きっきりで大人しいもんだし、黒猫からこちらに近寄ってくることなんてない。俺が千鶴に手を出そうとして、飛びかかって来ることはまた別だが。
やはり、問題なのは俺と千鶴だ。
ばっちり緊張してます! といった千鶴の心境が、自分に移りそうで怖い。あんなにぎこちない様子では、手を出そうにも出しづらい。
こんなことで地団駄を踏んでいては、ついに同居がはじまったというのに、ただの同居人になってしまうのは分かっている。
言い訳をするつもりはないが、綱道さんに同居の挨拶をしようと伝えたとき、鈍い千鶴でもさすがに気付くと思っていた。それなのに、ただ『分かりました』と答えた千鶴は、当然土方の思惑なんて理解しておらず。
父親のほうは逆で、同居したいの一言ですべてを悟り、『土方さんなら安心だなあ』なんて言われてしまった。その裏側に込められた、父親として娘の恋人を認めるという意味を理解できない千鶴は、もちろん横でぽかんとしているだけだった。
そんな場で、まだお互いの気持ちを確認していないとは言い出せず、外堀だけが勝手に埋まったという訳だ。
そして、今に至る。
「お前らは、最初っからうまくいって良かったな」
良かったな、というより正直うらやましい。
子猫らしくすやすや眠る二匹をながめて、ため息をはく。同じ名前でも、人間のこちらはいつまでも距離が空いたままだ。まったく情けない。
「あの、土方先生。お待たせしました」
「――おう、おつかれ」
いつの間にか、千鶴がリビングに顔を出していた。先ほどよりは緊張が和らいだのか、カーペットで胡坐をかいていた土方の横にすとんと座り、二匹をのぞき込む。
「二匹のこと、おまかせしちゃってすいませんでした。でも寝ちゃったんですね」
「ちづが随分嬉しそうだったからな。はしゃぎ疲れたんだろ」
「としぞーも嬉しかったんでしょうね……ふふ、可愛い」
千鶴がやわらかく微笑んだ。その瞳には、寝こける子猫たちしか映していないけれど。
「――そんなもん」
お前のほうが可愛いよ。
「あ。わたしお茶いれますね!」
ちいさく呟いた声が、ぱっと立ちあがった千鶴に届くことはもちろんなかった。
伸ばしかけた手は不自然な位置で止まってしまったので、誤魔化すためにそのまま腕を組む。
「あの、もしかして、先生はお茶よりコーヒーがお好きですか?」
「……お茶でいい」
「わかりました。二匹のお世話をしてもらったお礼に、頑張って美味しいお茶をいれますね!」
ぱたぱたと足音をたてて、ちいさな背中がキッチンへ消える。
「俺、何やってんだろうな」
格好悪いというか、女々しいというか、なんとも運がないというか。
「にゃ」
「――…なんだよ」
短い鳴き声に目線をやれば、いつ起きたのか黒猫がこちらを見上げていた。
まさに、情けない男だとでも言っている顔だ。
反論したいところだが、ごもっともな意見なのが否めない。
「さっきまで、らしくない顔で不安がってたくせに」
じとりと見つめてくる瞳は自分と同じ紫色。いま、こいつの目に俺はどう映っているだろうか。
少なくとも、千鶴を任せられる男とは思われていないのが確実だ。
いい加減、腹をくくろうか。
「まあ、何だ。ありがとな」
一種の励ましを受けた気になって黒猫を撫でようとした途端、眉間のしわをこれでもかと寄せてから、一目散に千鶴のいるキッチンに走り去った。
そして、聞こえてくるのは千鶴の楽しそうな声。
「あんの、黒猫……!」
やはり気に入らない。
早く千鶴に想いを告げて、存分に仕返しをしてやると心に誓った。
<続>
二人と二匹で、同居はじめました。(4)
「……まあ、そんな気はしてたけどな」
千鶴の部屋を後にして、リビングのカーペットに二匹を下ろすなり、ちづが黒猫にじゃれついた。
千鶴もすこしは気付いているようだが、ここに到着してから黒猫が落ち着かない。
段ボールに何度も入って千鶴を困らせるなんて頭の良いこいつらしくなかったが、まだ子猫だ。突然変わった環境に驚いたのだろう。
普段にも増して千鶴から離れたくない顔をしていたが、ちづと遊ばせてみれば緊張が解けたらしい。今は遊ぶのにも疲れ、ころころと折り重なって寝こけている。
千鶴が預けてくれたおもちゃは、全く出番なしだ。
「黒猫を心配する必要は、実際ほとんどないんだよなあ」
千鶴かちづがいれば、そちらに付きっきりで大人しいもんだし、黒猫からこちらに近寄ってくることなんてない。俺が千鶴に手を出そうとして、飛びかかって来ることはまた別だが。
やはり、問題なのは俺と千鶴だ。
ばっちり緊張してます! といった千鶴の心境が、自分に移りそうで怖い。あんなにぎこちない様子では、手を出そうにも出しづらい。
こんなことで地団駄を踏んでいては、ついに同居がはじまったというのに、ただの同居人になってしまうのは分かっている。
言い訳をするつもりはないが、綱道さんに同居の挨拶をしようと伝えたとき、鈍い千鶴でもさすがに気付くと思っていた。それなのに、ただ『分かりました』と答えた千鶴は、当然土方の思惑なんて理解しておらず。
父親のほうは逆で、同居したいの一言ですべてを悟り、『土方さんなら安心だなあ』なんて言われてしまった。その裏側に込められた、父親として娘の恋人を認めるという意味を理解できない千鶴は、もちろん横でぽかんとしているだけだった。
そんな場で、まだお互いの気持ちを確認していないとは言い出せず、外堀だけが勝手に埋まったという訳だ。
そして、今に至る。
「お前らは、最初っからうまくいって良かったな」
良かったな、というより正直うらやましい。
子猫らしくすやすや眠る二匹をながめて、ため息をはく。同じ名前でも、人間のこちらはいつまでも距離が空いたままだ。まったく情けない。
「あの、土方先生。お待たせしました」
「――おう、おつかれ」
いつの間にか、千鶴がリビングに顔を出していた。先ほどよりは緊張が和らいだのか、カーペットで胡坐をかいていた土方の横にすとんと座り、二匹をのぞき込む。
「二匹のこと、おまかせしちゃってすいませんでした。でも寝ちゃったんですね」
「ちづが随分嬉しそうだったからな。はしゃぎ疲れたんだろ」
「としぞーも嬉しかったんでしょうね……ふふ、可愛い」
千鶴がやわらかく微笑んだ。その瞳には、寝こける子猫たちしか映していないけれど。
「――そんなもん」
お前のほうが可愛いよ。
「あ。わたしお茶いれますね!」
ちいさく呟いた声が、ぱっと立ちあがった千鶴に届くことはもちろんなかった。
伸ばしかけた手は不自然な位置で止まってしまったので、誤魔化すためにそのまま腕を組む。
「あの、もしかして、先生はお茶よりコーヒーがお好きですか?」
「……お茶でいい」
「わかりました。二匹のお世話をしてもらったお礼に、頑張って美味しいお茶をいれますね!」
ぱたぱたと足音をたてて、ちいさな背中がキッチンへ消える。
「俺、何やってんだろうな」
格好悪いというか、女々しいというか、なんとも運がないというか。
「にゃ」
「――…なんだよ」
短い鳴き声に目線をやれば、いつ起きたのか黒猫がこちらを見上げていた。
まさに、情けない男だとでも言っている顔だ。
反論したいところだが、ごもっともな意見なのが否めない。
「さっきまで、らしくない顔で不安がってたくせに」
じとりと見つめてくる瞳は自分と同じ紫色。いま、こいつの目に俺はどう映っているだろうか。
少なくとも、千鶴を任せられる男とは思われていないのが確実だ。
いい加減、腹をくくろうか。
「まあ、何だ。ありがとな」
一種の励ましを受けた気になって黒猫を撫でようとした途端、眉間のしわをこれでもかと寄せてから、一目散に千鶴のいるキッチンに走り去った。
そして、聞こえてくるのは千鶴の楽しそうな声。
「あんの、黒猫……!」
やはり気に入らない。
早く千鶴に想いを告げて、存分に仕返しをしてやると心に誓った。
<続>
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