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猫パロシリーズです。
先にこちらを読んで頂いた方が分かりやすいかもしれません。
「としぞー拾いました。」

作者が猫を飼った経験がないので、不自然な表現があるかもしれません。

作品は以下からどうぞ♪

拍手[27回]









早足で静かなマンションの共同廊下を進む。
腕の中の微かな重みと温もりを感じながら、長く重い溜息をついた。
実に今日は猫に振り回されてばかりだ。





ちづ拾いました。






「今日も…雨か」

昨日と同じく、夜になって雨が降り出した。
よりによって、今日は車を修理に出しているので歩いて帰らなければならない。
宿直当番の斎藤に後を任せて病院を後にし、歩いて数十分程度の自宅マンションにもう着く、という所だった。



「―…にゃ、ぁ…」



雨が道路のコンクリートに当たり跳ね返る水音にまぎれて、微かに聞こえた小さな鳴き声。
暗い静かな住宅街、水溜りが目立ち始めた道路を照らす街灯の足元に、もぞもぞと動く布地。
今日に限って車を修理に出した自分に、心の中で舌打ちをした。
足を止めてそこに近づけば、薄汚れて濡れたタオルケットの下から、薄茶色をした小さい猫の頭と尻尾が見える。

「…はあ…」

雨を吸って重くなったタオルケットを摘まんでどけると、うつ伏せでへたり込んでいる子猫を抱き上げる。
濡れた体をハンカチで包んで胸に抱くと、微かにもぞもぞと動いたが、俺の体温で少し温まったのか目を閉じて眠り始めた。

「…どうしたもんかな」

思ったより弱っていない事に安堵しつつ、がりがりと頭を掻くと再び自宅に向かって足を進めた。



◇◇◇



ソファに腰かける俺の膝の上で、シャツにもぐってみたり裾を噛んでみたりと、ころころと忙しく遊ぶ子猫をぼんやりと眺める。
衰弱はしていなかったので病院に戻ることは止めたが、この子猫を一体どうしようかと思考を巡らす。



自宅に到着し、お湯で体を流して乾かしてやると、クリーム色で毛長な可愛らしい猫が現れた。
性格は人懐こい様で、小さな尻尾を揺らしながら、大きくて丸い琥珀色の目で遊んでくれと見上げてくる。
俺が少しでも離れようものなら必死で後をついて回り、焦ってフローリングで滑りころんと転ぶ度に、仕方なく抱き上げて移動する。

「お前、少しは落ち着けねえのか…」
「にゃ?」
「このままじゃ、良くねえよなぁ…」

額を指で撫でると気持ちよさそうにするこの子猫に、思わず感情移入してしまいそうだ。
仕事柄、拾われた動物を診察することは多いが、自分で拾うのは初めてだった。
もちろん自分は獣医であり、動物が嫌いという訳はないが、仕事は仕事と割り切っていたので自分で動物を飼ったことはない。

先程、斎藤に子猫用のミルクや用具を病院から届けさせたのだが、俺が猫を拾ったと聞いて目を丸くしていた。
少し子猫を見せてみると、表情に乏しい斎藤にしては珍しく「…可愛い猫ですね」と言って顔を緩めていた。
斎藤はそれだけで大人しく帰って行ったが、総司あたりからは格好のからかい材料になりそうなので、しばらくは隠しておくか。

そんな事を考えていると、子猫がうとうとし始めていたので、ソファに置いてあったクッションにそっと下ろす。
自分もその隣に腰を下ろすと、どっと今日の疲れが押し寄せて来てゆっくりと目を閉じた。

不意に、今日病院を訪れた少女と黒猫を思い出す。

昨日拾ったという黒い子猫を抱えて、不安気な様子でやってきた少女。
やや幼い感じの外見だったが、大学生くらいの年齢に見えた。
黒猫の体調は特に問題ないと告げると、心の底から安心した柔らかい笑顔を見せた。おそらく優しい性格なのだろう。
猫を飼うのは初めてらしいが、彼女なら責任を持って育てることができると思い、特に忠告もせずに診察を終えた。

しかし、あの黒猫の名前だけはどうにかならないのかと思う。
あの『としぞー』とか言う無愛想な黒猫の名前を彼女が呼んでいるのを聞くと、違うと分かっていてもこそばゆい気持ちになってしまう。
一方で、嬉しそうに黒猫に話しかける彼女の姿は、率直に言えば好ましかった。

あの琥珀色の大きな瞳と、人懐こそうな明るい性格。
何となくだが、彼女が今日拾ったこいつに似ている気がした。


――…名前は、確か…雪村…


「『ちづる』…」
「にゃっ?」
「…あ?」

眠っていたはずの子猫が、何故かこちらを爛々とした瞳で見つめている。
尻尾もぴんと上を向いていて、見るからに嬉しそうだ。

「お前、今の名前に反応したのか?」

あまりに熱心な瞳で見上げてくるものだから、思わず鼻先をつんと突いてみると、指先をあぐあぐと噛んで遊び始める。

「…ちづる」
「にゃ!」

試しにもう一度呼んでみると、夢中で遊んでいる最中でも反応を示す。

「お前、ちづるっていうのか…?」

すっかり目が覚めた様子で指にじゃれ付いて遊ぶ様子を眺めながら、必死に思考を巡らす。

――流石に…そのまま『ちづる』は色々とまずいよな…

果たして『としぞー』を連れた彼女に、この子猫の存在を明かす日なんて、来るのかも分からないが。

「…『ちづ』でいいか」
「にゃぁーっ」

あまりにもその名前が似合うと思ってしまって、名前なんてつけたら愛着が更に沸いてしまう事を忘れていた。
俺の声に反応しただけかもしれなかったのに、何故かいつもの様に頭が回らなかった。

しまったと思った頃、『ちづ』は再び夢の中で、その幼い寝顔を見ながら遂にこいつを飼う事に決めた。




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