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企画参加への提出作品です。
企画サイト様はこちら 「春恋し、君の唄」
テーマは‘‘春に酔ふ‘‘
私は「涅槃西風(ねはんにし)」をお題に選ばせて頂きました。
・ED後 蝦夷夫婦
※死ネタ注意
桜が見頃を迎えたので、八つ刻に2人で花見に訪れた。
柔らかい桃色が、2人の目を楽しませてくれる。
嬉しそうに桜を見上げる千鶴に、土方も頬を緩めながら楽しんでいた。
「――…ん、さむ…」
「やっぱり、春とは言ってもまだ冷えるな。」
まだ寒さも残るだろうと思い羽織を着てきたが、予想以上に風が冷たく、千鶴は思わず体を縮こませた。
そんな妻の肩を土方が優しく抱き寄せる。
「今日はもう花見は止めにして帰るか。」
「――…だめ、です…」
それだけ言うと、千鶴は目を逸らして、土方の羽織の裾を緩く握ったまま動かなくなった。
いつもと様子の違う千鶴に、土方が心配そうに顔を覗き込む。
「…千鶴?」
「…だって、だって…歳三さん、今朝から…」
――体調が優れないのではないですか?
千鶴がやっとの思いで絞り出した言葉は、震えて今にも消えそうだった。
漸く土方の顔を見た千鶴の目に入ったのは、苦い笑いを浮かべた旦那の顔であった。
「なんだ…気付いてたのか。」
「…やっぱり、もう、なのですか…?」
「お前は、こういうことには鋭いから敵わねえよなあ…」
千鶴を抱きしめた土方の髪が、ゆっくりと白に染まっていく。
風がその髪をさらりと揺らすと、舞う桜の花弁と相まって、より美しく見える。
涙を見られない様に、千鶴は土方の胸に顔を埋めた。
「…顔見せろ。」
「…泣かないと…別れの時は涙を見せないと、お約束してしまいましたから…」
「じゃあ全部拭ってやるよ。」
武骨な指で涙を拭われた千鶴は、漸く顔を上げた。
柔らかく笑う彼に、自分も笑顔をと思うが、また涙が流れてしまう。
「…しょうがねえなあ。」
再度、涙を拭おうとした土方の指は、千鶴の頬に触れる寸前、灰となって崩れた。
「…もう、か…」
「歳三さん…」
「…千鶴…お前の、幸せだけを願ってる。」
「は、い…」
強く抱きしめられた瞬間、千鶴の腕の中で、土方の体が崩れて消えた。
冬のなごり風が、桜の花弁を舞わせながら、千鶴の腕に残った愛しい体温を奪っていった。
「涅槃西風(ねはんにし)」――春に吹く、冬のなごり風。春の彼岸。
企画サイト様はこちら 「春恋し、君の唄」
テーマは‘‘春に酔ふ‘‘
私は「涅槃西風(ねはんにし)」をお題に選ばせて頂きました。
・ED後 蝦夷夫婦
※死ネタ注意
桜が見頃を迎えたので、八つ刻に2人で花見に訪れた。
柔らかい桃色が、2人の目を楽しませてくれる。
嬉しそうに桜を見上げる千鶴に、土方も頬を緩めながら楽しんでいた。
「――…ん、さむ…」
「やっぱり、春とは言ってもまだ冷えるな。」
まだ寒さも残るだろうと思い羽織を着てきたが、予想以上に風が冷たく、千鶴は思わず体を縮こませた。
そんな妻の肩を土方が優しく抱き寄せる。
「今日はもう花見は止めにして帰るか。」
「――…だめ、です…」
それだけ言うと、千鶴は目を逸らして、土方の羽織の裾を緩く握ったまま動かなくなった。
いつもと様子の違う千鶴に、土方が心配そうに顔を覗き込む。
「…千鶴?」
「…だって、だって…歳三さん、今朝から…」
――体調が優れないのではないですか?
千鶴がやっとの思いで絞り出した言葉は、震えて今にも消えそうだった。
漸く土方の顔を見た千鶴の目に入ったのは、苦い笑いを浮かべた旦那の顔であった。
「なんだ…気付いてたのか。」
「…やっぱり、もう、なのですか…?」
「お前は、こういうことには鋭いから敵わねえよなあ…」
千鶴を抱きしめた土方の髪が、ゆっくりと白に染まっていく。
風がその髪をさらりと揺らすと、舞う桜の花弁と相まって、より美しく見える。
涙を見られない様に、千鶴は土方の胸に顔を埋めた。
「…顔見せろ。」
「…泣かないと…別れの時は涙を見せないと、お約束してしまいましたから…」
「じゃあ全部拭ってやるよ。」
武骨な指で涙を拭われた千鶴は、漸く顔を上げた。
柔らかく笑う彼に、自分も笑顔をと思うが、また涙が流れてしまう。
「…しょうがねえなあ。」
再度、涙を拭おうとした土方の指は、千鶴の頬に触れる寸前、灰となって崩れた。
「…もう、か…」
「歳三さん…」
「…千鶴…お前の、幸せだけを願ってる。」
「は、い…」
強く抱きしめられた瞬間、千鶴の腕の中で、土方の体が崩れて消えた。
冬のなごり風が、桜の花弁を舞わせながら、千鶴の腕に残った愛しい体温を奪っていった。
「涅槃西風(ねはんにし)」――春に吹く、冬のなごり風。春の彼岸。
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