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SSLの土方ED後3話目です。一話読み切り型。
過去作品はこちらからどうぞ→<作品リスト>

拍手[20回]







土方先生と千鶴先生(3)




「あー……肩が……」

固まるを通り越して痛いような気さえする。
凝視していたパソコンの画面から目を引き剥がして、椅子の背もたれに寄り掛かる。
古典準備室から見える校庭では、野球部が片づけを始めていた。
もうすぐ冬だ。日が落ちるのも早い。
当たり前だが気温も下がる一方で、血流は鈍く、歳三の肩こりを増長させている。運動不足も原因のひとつだろう。

(明日は、剣道部の稽古でもつけるか)

正直、それをする余裕があるのかと聞かれると否だが、気分転換もときには必要だと知っている。
効率だって上がるし、運動することだって嫌いではない。部活に汗を流す生徒たちを眺めるのも悪くない。
そうやってぼんやりしている間に、校庭から部活の生徒はいなくなっていた。
そろそろ剣道場の鍵を閉める時間だと気付いて、準備室を後にする。
生徒もおらず、節電で暗い廊下。しかし、職員室からは蛍光灯の光が漏れ出ている。

「千鶴ちゃんの授業、意外と厳しいって評判だぜ?」
「俺は教育実習中から見てたんだが、確かにそうなんだよな。いったい誰に似たんだ?」

引き戸に手をかける間際、堂々とした噂話が耳に届く。
よく知る同僚の声。
どうせ、残業に疲れて一休みでもしているのだろう。茶を啜るような音がときおり混じる。

「よりにもよって、教育実習の担当が土方さんだったからなあ……」
「あいつ、英語とか社会とかも優秀だったのに、何で古典の教師になったんだ?」
「ほんとだよな……でも、怖いだけの土方さんより、厳しいけどときには優しくて可愛い千鶴ちゃんだったら、勉強するかもしれねえな」
「確かに」

仕様もない内容に溜息をつく。
おそらく、この二人以外はもう帰ったのだろう。しかし、でかい声でする話ではない。
眉間に皺を寄せて、ようやく引いた戸はガラリと音をたてた。

「おまえら、聞こえてるんだよ」
「うお!」
「ああ。土方さん、お疲れさん」

大袈裟に驚く新八に、飄々と笑う原田。
やはり、職員室には二人だけだった。

「節操もない会話してんじゃねえ」
「でもな、土方さん」

話を聞かれていたことに恐縮すると思いきや、二人の顔が待ってましたとばかりに生き生きとしていた。
すこし、いやかなり、登場するタイミングを間違ったかもしれない。鬼の教頭と呼ばれる歳三をからかう人間など、この学園には数えるほどしかいない。

「千鶴ちゃんのあの指輪、エンゲージリングだろ?」
「いつの間にプレゼントしたんだ? というか、土方さんがあんなもの贈る日がくるとはなあ」
「まったくだ! でも、千鶴ちゃんが嬉しそうで良かったぜ。まさか、元生徒の結婚が間近で見られる日がくるとは……」
「でもな、千鶴があれをつけ始めてから、元気のない男子生徒が多いぞ、土方さん」
「まあ、あいつらも、千鶴ちゃんに憧れてただけなんだろうけどなあ。それでも傷は深いんじゃねえか?」

好き勝手に、質問なのか感想なのか分からない会話を聞かされる。
二人が嬉しそうなのは、とりあえず置いておくとしよう。

「指輪は前から贈ってあったが、結婚が決まったから職場でもつけさせることにした。気落ちした男共のことなんか知るか。生徒でも千鶴にへんな気起こしやがったら容赦しねえ。……おい、これでいいか」

一息に話し終える。
先ほどまでにやにやとしていた二人がぽかんとしていた。

「お、おう……そうか」
「幸せそうで何よりだぜ……」
「はあ……もう気は済んだか」

こいつらが、千鶴を大切に思ってくれているのは、じゅうぶん分かっている。
元生徒っていうのもあるだろうし、今ではかわいい後輩である。原田に関しては元担任だ。
千鶴の指輪をみて、いろいろ聞きたいと思ったのだろう。しかし、彼女が初心だということは当然知っていて、まずは歳三からからかおうと様子を伺っていたに違いない。
そんなとき、自分が都合良く現れてしまった。
やっとそのときが来たと、二人が沸き立つのは必然である。

「でも、千鶴が奥さんになったら仕事どうすんだ? 俺たちは千鶴に居なくなって欲しくないけどよ、夫婦が同じ職場なんて、芹沢さんが黙ってないだろ」

原田が椅子にもたれかかって思案する。
千鶴の結婚を察して喜ぶと同時に、心配もしていたらしい。有難いことだが、その件はもう解決していた。

「……それは別にかまわないらしい」
「は? あの芹沢さんが言ったのか?」
「千鶴が教師になってから、学園の偏差値が上がっただろ。偶然なのかもしれねえが、だから口出ししねえってよ」

言葉にしながら苦笑いを浮かべる。
歳三は、最初から頭を下げるつもりで、あの傲慢な理事長に話をつけに行ったのだ。
しかし、返って来た言葉はひどく気が抜けるものだった。それこそ、頭を下げる前に目的は終わっていた。

「逆に、そんなことで優秀な教師を辞めさせるなら、お前が辞めろなんて言ってきやがった」
「あー……なんだ。よく考えたら、千鶴ちゃんって、在学中から芹沢さんのお気に入りだったのかもしれねえな」
「ああ、初めての女子生徒だから目立ってたが、見るからに優秀そうだし、実際にそうだったしなあ」
「伊吹とも仲良かったし」
「進学した大学も良いとこだし」
「今は女子生徒からも人気あるよな。あ、そういやこの前、結婚式あげたら写真見せてくれって女子生徒に囲まれてたぜ」

またもや一方的な会話を聞かされる。相変わらず余計な情報付きだ。
これではきりがない。
そういえば、自分は剣道場の鍵を取りに来たのだ。さっさとここを後にするに限る。
手近にあった鍵を適当に掴み入口に向かう。
しかし、そこに立っていたのは帰り支度の格好をした山南さんだった。

「おやおや、皆さんお揃いで」

穏やかに笑っているが、相変わらず掴みどころがない。

「どうした? 山南さん」
「土方先生に伝えたいことがありまして」

そう告げた山南さんに、保健室の鍵を思われるものを差し出される。
意味が分からずにそれを見つめていたのは、ほんの一瞬。勝手に押し付けられると同時に、剣道場の鍵は奪われていた。

「雪村先生の顔色が優れなかったので、保健室で寝てもらっています。もう定時は過ぎていますし、折を見て、土方先生に連れ帰ってもらおうと思いまして」
「千鶴が?」
「すこしですが、発熱しているようですね。自宅で安静にしていれば大丈夫だと思います」
「そうか……世話をかけたな」

剣道場の鍵をポケットに入れた山南さんが、そんなことはありませんよと微笑む。
騒がしい二人とは違い言葉にはしてこないが、この人もなにやら嬉しそうである。保健室で、千鶴からなにか聞いたのだろうか。

「わたしはもう帰りますので、保健室は閉めておいてください」

それは、剣道場は代わりに自分が閉めると言っているのと同義だった。

「そうだな。はやく行ってあげろよ土方さん」
「あした休むなら、授業は俺と新八がどうにかするって千鶴に伝えといてくれ」

本気で心配しているらしい二人に礼を言って、足早に職員室をあとにする。
当然、今日の残業は中止だ。
千鶴にかける言葉を探しながら、保健室の戸に手を伸ばした。

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