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SSLの土方ED後です。
(1)とありますが、一話読み切り型です。のんびり書いて行きます。
少しですがオリジナル設定が入りますので、苦手な方はご注意下さい。
土方先生と千鶴先生(1)
「お疲れ様です」
本日最後の授業を終えて、職員室へ顔出す。
ちょうど部活が始まる時間だ。窓から続く校庭では、運動部が準備運動を始めていた。
活発な声が窓越に聞こえてくる。
「お。やっと解放されたか、お疲れさん」
「すこし話し込んでしまいました。すいません」
「いや。あいつらも、年の近い先生と話すのが楽しいんだろうよ。もっと相手してやってくれ」
「ふふ、そうなのかもしれませんね。ありがとうございます」
「あいつら、千鶴が来てから俺になんて見向きもしねえ。本当の担任はこっちだってのに」
原田先生がやれやれと笑った。
千鶴は教育実習中の身。教壇に立つときは、土方先生か原田先生がついていることがほとんどだ。
実を言うと、千鶴の担当教員は、当初土方先生ひとりだった。
しかし、教頭でありながら、クラス担任も授業もこなしているのは相変わらずで、無論忙しい。
そこで、土方先生が忙しいときだけという条件で、元担任である原田先生が代わりをすることになった。
芹沢理事長のこともあって、急用が多い土方先生。
今のところ、原田先生にお世話になることの方が多い。実際に、今日も原田先生に見守られながらの授業だった。
「今日は、何の相談で捕まってたんだ?」
「えっと、ほとんどは進路相談でした。大学の学部の違いとか、入試はどうだったかとか。あと……私が薄桜学園の生徒だった頃の話は、一番よく聞かれますね」
「そりゃあ、学園初だった女子生徒の先輩が来たんじゃ、注目の的だなあ」
授業後は生徒たちに捕まることが多い。
先ほどまで話していたのは、三年生の女子生徒たち。
女子が増えたといっても、まだ全体の三割だ。そんな薄桜学園において、初の女子生徒だった千鶴に興味津々らしい。
「先生、彼氏はいたの?」「女子ひとりじゃ、とってもモテたでんしょ?」などといった、思春期らしい質問が多い。
毎回、それを下手に誤魔化そうとする千鶴を面白がっているような気もするが、そのうち自分たちの恋愛話に流れ着く。要するに恋愛相談だ。
これは同じ女性として、原田先生に内容は秘密である。
一方で、進路などの相談にも乗る。
年の近い千鶴だからこそ、相談しやすいことも多いだろう。参考になればと思い真剣に対応している。
そして、生徒たちとの時間が終わったら、やることは山積みである。実習レポート、指導案に授業の資料作り。
とても忙しくて目が回りそうでも、実際に生徒の顔を見て授業をするというのは楽しい。
教育実習生ではなくて、近い将来、本当の教師として働くイメージが少しずつ形になってきている。
――また、教育実習が始まったこと以外にも、近況の変化があった。
「土方さんなら、古典準備室だぞ」
「あ、ありがとうございます」
「……なんで顔赤くしてんだ? 指導案見てもらうなら、もう荷物持って行って、そのまま帰ったらどうだ」
「そっ、そうですね。お先に失礼します!」
絶妙のタイミングで土方先生の名を出されて狼狽えてしまう。
しかも、こっそり室内に視線を巡らせていたことも、その目的も、すっかり勘付かれていたらしい。
臨時で用意してもらった机からバッグを取る。赤い顔を隠しながら職員室の出口で挨拶をしたが、少し挙動不審だったかもしれない。
原田先生は、笑顔でひらひらと手を振っていた。
(なんだか、全部見透かされているような……)
一応、土方先生とお付き合いしていることは内緒にしている。
しかし、顔に出やすい、分かりやすい、と周りから評される自分だ。原田先生にはすっかり知られているような気がする。
バッグを抱えて古典準備室に向かう足は、知らず早歩きになっていた。
目的のドアの前に立ったとき、まだ顔は熱を持っている。
「……何やってんだ?」
「えっ……! ひ、土方、先生?」
「なんで慌ててるんだよ」
いつも通り、黒いスーツに身を包んだ彼が、訝しげな顔をして真横に立っている。
迂闊だった。
すこし熱を冷ましてから入ろうと思っていたのに、土方先生は部屋から出ていたらしい。
部屋の電気が消えているのは上窓を見れば分かることだ。思った以上に自分は動揺しているらしい。
「よく分からねえが、はやく入れ」
「は、はい。失礼します」
がちゃりと乾いた音が響く。
千鶴の挙動に不思議な顔をしながら、準備室の鍵を空けてくれる。
そろそろと足を進めた。
「あの……土方先生?」
「ここ、座れ」
いつものようにデスクへ向かうと思ったのに、土方先生が座ったのはソファだった。
三人程度が腰かけることのできるそれは、いつも千鶴が座っている場所でもある。
放課後、土方先生の指導を受けながら、レポートを書いたり資料を作成したりするところだ。
「お、お邪魔します」
近くのテーブルにバッグを置いて、おそるおそる腰をかけた。
隣に座る土方先生は、長い脚を組んで背もたれに寄り掛かっている。――と思われる。
おそらく視線はこちらに向いているのだが、緊張で彼の顔を見ることができない。
「おい。俺が聞きたいことくらい分かってんだろ」
「ううっ」
「はやく話せ。指導案見てやんねえぞ」
「それを人質に取るなんて、ずるいです……!」
思わず振り向くと、いじわるそうに口角を上げた。
「やっとこっち向いたな。ほら、はやく話せ」
紫色の瞳に捕まって、思わずどきりとしてしまう。
今日は、まだ一度も会えていなかったから尚更だ。
「……聞いていないのに、原田先生が土方先生の居場所を教えて下さいました。勘違いかもしれないですけど、お付き合いしてること、知られているような気がしたんです」
仕方なく白状する。
どういう反応をされるか、全く見当がつかない。
「……そういうことか」
「え?」
土方先生ががりがりと頭をかく。
目尻は、ほんの少しだけ赤い。
「さっきな、おまえが遅いんで職員室まで行ったんだよ。すれ違ったみたいだがな」
職員室のあるこの棟には、階段が二つある。
おそらく、互いに違う階段をつかってしまったのだろう。
先ほど、ちょうど良く廊下で鉢合わせたのは、そのせいだったらしい。
「千鶴がどこにいるか聞いたら原田がにやにやして……『似た者同士だな』とか言いやがった」
「そ、そうでしたか……」
これはもう、原田先生に知られていることは確定だ。
「……すいません」
「なんで謝る」
「たぶん、私が分かりやすいからですよね」
「そんなもん、原田が敏すぎるだけだ」
土方先生がため息をはいて、ぎゅっと肩を引き寄せてくる。
顔が近い。お互いの服越しに伝わってくる体温が温かい。
お付き合いを始めてから一週間弱。こういうことは何度かあったけれど、まだ全然慣れることができない。いちいち胸を高鳴らせては緊張している。
「それに、別に良いんだよ。ばれたって」
「――そうなんですか?」
「おまえなあ、もう生徒じゃねえんだぞ。けどな、教育実習中はせめて隠そうと思ってた。知られると千鶴がやりにくいだろ」
覗き込んできた瞳は真剣だった。
「……ありがとうございます」
不謹慎と思いながらも嬉しくて、勝手に表情が緩む。
すると、目の前にあった顔がしかめられた。
「わたし、何かして」
「おまえな」
「えっ……ひゃ、ん」
肩を掴んでいた片腕が腰にまわる。それに驚く間もなく、もう片方が千鶴の後頭部に添えられる。
一瞬で逃げ道を塞がれた。
ゆっくりと近づいて来た唇を必死に受け入れる。
「……ん、ぅ」
やさしい口付けに安心して、ぎゅっと瞑った目をおそるおそる開けば、啄むようなものに変わった。
どうやって返していいかなど、千鶴にはまだ分からない。
どくどくと鳴る自分の心臓の音を聞くだけだ。
息をするタイミングも分からないまま成長していない。いつも、終わると息が荒くなっていて恥ずかしい。
今回もやっぱり苦しくて、土方先生のシャツの袖をぎゅっと掴んだ。
すると、タイミング良く唇が解放される。
「きゃ!」
しかし、最後の仕上げと言わんばかりに、唇をべろりと舐められる。
「そんな顔で笑ったりして、これが終わったら覚悟してろよ」
「え……これ、って?」
意味を理解できない千鶴を置いて、土方先生が立ち上がる。
「ほら、はやく指導案見せろ。レポートも書くんだろ?」
「えっと……はい」
「終わったら、今日も家まで送ってくからな」
「ありがとう、ございます……?」
まだ整わない呼吸。
慣れないことで頭はぼんやりとしている。
千鶴ができるのは、短い返事だけだった。
『これ』が教育実習の期間をさしていることに、彼女はいつ気付くのだろうか。
(1)とありますが、一話読み切り型です。のんびり書いて行きます。
少しですがオリジナル設定が入りますので、苦手な方はご注意下さい。
土方先生と千鶴先生(1)
「お疲れ様です」
本日最後の授業を終えて、職員室へ顔出す。
ちょうど部活が始まる時間だ。窓から続く校庭では、運動部が準備運動を始めていた。
活発な声が窓越に聞こえてくる。
「お。やっと解放されたか、お疲れさん」
「すこし話し込んでしまいました。すいません」
「いや。あいつらも、年の近い先生と話すのが楽しいんだろうよ。もっと相手してやってくれ」
「ふふ、そうなのかもしれませんね。ありがとうございます」
「あいつら、千鶴が来てから俺になんて見向きもしねえ。本当の担任はこっちだってのに」
原田先生がやれやれと笑った。
千鶴は教育実習中の身。教壇に立つときは、土方先生か原田先生がついていることがほとんどだ。
実を言うと、千鶴の担当教員は、当初土方先生ひとりだった。
しかし、教頭でありながら、クラス担任も授業もこなしているのは相変わらずで、無論忙しい。
そこで、土方先生が忙しいときだけという条件で、元担任である原田先生が代わりをすることになった。
芹沢理事長のこともあって、急用が多い土方先生。
今のところ、原田先生にお世話になることの方が多い。実際に、今日も原田先生に見守られながらの授業だった。
「今日は、何の相談で捕まってたんだ?」
「えっと、ほとんどは進路相談でした。大学の学部の違いとか、入試はどうだったかとか。あと……私が薄桜学園の生徒だった頃の話は、一番よく聞かれますね」
「そりゃあ、学園初だった女子生徒の先輩が来たんじゃ、注目の的だなあ」
授業後は生徒たちに捕まることが多い。
先ほどまで話していたのは、三年生の女子生徒たち。
女子が増えたといっても、まだ全体の三割だ。そんな薄桜学園において、初の女子生徒だった千鶴に興味津々らしい。
「先生、彼氏はいたの?」「女子ひとりじゃ、とってもモテたでんしょ?」などといった、思春期らしい質問が多い。
毎回、それを下手に誤魔化そうとする千鶴を面白がっているような気もするが、そのうち自分たちの恋愛話に流れ着く。要するに恋愛相談だ。
これは同じ女性として、原田先生に内容は秘密である。
一方で、進路などの相談にも乗る。
年の近い千鶴だからこそ、相談しやすいことも多いだろう。参考になればと思い真剣に対応している。
そして、生徒たちとの時間が終わったら、やることは山積みである。実習レポート、指導案に授業の資料作り。
とても忙しくて目が回りそうでも、実際に生徒の顔を見て授業をするというのは楽しい。
教育実習生ではなくて、近い将来、本当の教師として働くイメージが少しずつ形になってきている。
――また、教育実習が始まったこと以外にも、近況の変化があった。
「土方さんなら、古典準備室だぞ」
「あ、ありがとうございます」
「……なんで顔赤くしてんだ? 指導案見てもらうなら、もう荷物持って行って、そのまま帰ったらどうだ」
「そっ、そうですね。お先に失礼します!」
絶妙のタイミングで土方先生の名を出されて狼狽えてしまう。
しかも、こっそり室内に視線を巡らせていたことも、その目的も、すっかり勘付かれていたらしい。
臨時で用意してもらった机からバッグを取る。赤い顔を隠しながら職員室の出口で挨拶をしたが、少し挙動不審だったかもしれない。
原田先生は、笑顔でひらひらと手を振っていた。
(なんだか、全部見透かされているような……)
一応、土方先生とお付き合いしていることは内緒にしている。
しかし、顔に出やすい、分かりやすい、と周りから評される自分だ。原田先生にはすっかり知られているような気がする。
バッグを抱えて古典準備室に向かう足は、知らず早歩きになっていた。
目的のドアの前に立ったとき、まだ顔は熱を持っている。
「……何やってんだ?」
「えっ……! ひ、土方、先生?」
「なんで慌ててるんだよ」
いつも通り、黒いスーツに身を包んだ彼が、訝しげな顔をして真横に立っている。
迂闊だった。
すこし熱を冷ましてから入ろうと思っていたのに、土方先生は部屋から出ていたらしい。
部屋の電気が消えているのは上窓を見れば分かることだ。思った以上に自分は動揺しているらしい。
「よく分からねえが、はやく入れ」
「は、はい。失礼します」
がちゃりと乾いた音が響く。
千鶴の挙動に不思議な顔をしながら、準備室の鍵を空けてくれる。
そろそろと足を進めた。
「あの……土方先生?」
「ここ、座れ」
いつものようにデスクへ向かうと思ったのに、土方先生が座ったのはソファだった。
三人程度が腰かけることのできるそれは、いつも千鶴が座っている場所でもある。
放課後、土方先生の指導を受けながら、レポートを書いたり資料を作成したりするところだ。
「お、お邪魔します」
近くのテーブルにバッグを置いて、おそるおそる腰をかけた。
隣に座る土方先生は、長い脚を組んで背もたれに寄り掛かっている。――と思われる。
おそらく視線はこちらに向いているのだが、緊張で彼の顔を見ることができない。
「おい。俺が聞きたいことくらい分かってんだろ」
「ううっ」
「はやく話せ。指導案見てやんねえぞ」
「それを人質に取るなんて、ずるいです……!」
思わず振り向くと、いじわるそうに口角を上げた。
「やっとこっち向いたな。ほら、はやく話せ」
紫色の瞳に捕まって、思わずどきりとしてしまう。
今日は、まだ一度も会えていなかったから尚更だ。
「……聞いていないのに、原田先生が土方先生の居場所を教えて下さいました。勘違いかもしれないですけど、お付き合いしてること、知られているような気がしたんです」
仕方なく白状する。
どういう反応をされるか、全く見当がつかない。
「……そういうことか」
「え?」
土方先生ががりがりと頭をかく。
目尻は、ほんの少しだけ赤い。
「さっきな、おまえが遅いんで職員室まで行ったんだよ。すれ違ったみたいだがな」
職員室のあるこの棟には、階段が二つある。
おそらく、互いに違う階段をつかってしまったのだろう。
先ほど、ちょうど良く廊下で鉢合わせたのは、そのせいだったらしい。
「千鶴がどこにいるか聞いたら原田がにやにやして……『似た者同士だな』とか言いやがった」
「そ、そうでしたか……」
これはもう、原田先生に知られていることは確定だ。
「……すいません」
「なんで謝る」
「たぶん、私が分かりやすいからですよね」
「そんなもん、原田が敏すぎるだけだ」
土方先生がため息をはいて、ぎゅっと肩を引き寄せてくる。
顔が近い。お互いの服越しに伝わってくる体温が温かい。
お付き合いを始めてから一週間弱。こういうことは何度かあったけれど、まだ全然慣れることができない。いちいち胸を高鳴らせては緊張している。
「それに、別に良いんだよ。ばれたって」
「――そうなんですか?」
「おまえなあ、もう生徒じゃねえんだぞ。けどな、教育実習中はせめて隠そうと思ってた。知られると千鶴がやりにくいだろ」
覗き込んできた瞳は真剣だった。
「……ありがとうございます」
不謹慎と思いながらも嬉しくて、勝手に表情が緩む。
すると、目の前にあった顔がしかめられた。
「わたし、何かして」
「おまえな」
「えっ……ひゃ、ん」
肩を掴んでいた片腕が腰にまわる。それに驚く間もなく、もう片方が千鶴の後頭部に添えられる。
一瞬で逃げ道を塞がれた。
ゆっくりと近づいて来た唇を必死に受け入れる。
「……ん、ぅ」
やさしい口付けに安心して、ぎゅっと瞑った目をおそるおそる開けば、啄むようなものに変わった。
どうやって返していいかなど、千鶴にはまだ分からない。
どくどくと鳴る自分の心臓の音を聞くだけだ。
息をするタイミングも分からないまま成長していない。いつも、終わると息が荒くなっていて恥ずかしい。
今回もやっぱり苦しくて、土方先生のシャツの袖をぎゅっと掴んだ。
すると、タイミング良く唇が解放される。
「きゃ!」
しかし、最後の仕上げと言わんばかりに、唇をべろりと舐められる。
「そんな顔で笑ったりして、これが終わったら覚悟してろよ」
「え……これ、って?」
意味を理解できない千鶴を置いて、土方先生が立ち上がる。
「ほら、はやく指導案見せろ。レポートも書くんだろ?」
「えっと……はい」
「終わったら、今日も家まで送ってくからな」
「ありがとう、ございます……?」
まだ整わない呼吸。
慣れないことで頭はぼんやりとしている。
千鶴ができるのは、短い返事だけだった。
『これ』が教育実習の期間をさしていることに、彼女はいつ気付くのだろうか。
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