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SSL土千です。はじめてのお外デート。


拍手[18回]










「明日、出かけるぞ。予定空けとけよ」
「え?」
突然の台詞だった。
呆ける私の手に、彼の部屋の鍵をぽんと載せられる。
それはいつもの家に来いという合図だったけれど、ようやく理解した言葉の意味は、私と彼にとって聞き慣れない類のもので。

「あの」
「悪い。次の授業、最初に小テストなもんでな」

問う時間もなく、早足で教科室を出て行ってしまう。
行き場をなくした私の目線は、彼が出て行ったドアに向いたままだ。

「……おでかけ」

ぽつりと呟いた言葉は、ひどく現実味がなかった。

「先生と、おでかけ?」

たぶん、自分はいま、とても間抜けな顔をしているだろう。
ぎゅっと握り締めた金属製の鍵が、ただひんやりとしていた。






First date.






「普通の高校生は、こんなにたくさん買ってもらったりしませんよ」
「……いいんだよ。それは年上と付き合ってる特権だとでも思え」
「ふふ」
「笑うな」

助手席に座った千鶴が、楽しそうにこちらを見ている。
その腕に抱えられているのは、買ったばかりの服やアクセサリーが入った紙袋。
車のトランクに入れればいいと言ったのに、「せっかく買ってもらったので持っていたいです」と返されてしまった。
はじめてのデートともあって、千鶴は終始うれしそうだった。
付き合ってから今まで、関係を隠すために外でデートなんてしたことがなかった。
それなのに、千鶴を一方的に連れ出したのは自分である。

――総司に言われたのだ。
「デートできないだけでも可哀想なのに、家に来る度ご飯つくったり家事手伝ったり、さすがの千鶴ちゃんも愛想尽かすんじゃないですか」
いつもの様に、近藤さんを探すついでだといって職員室でだらける総司が、嫌な笑顔で投げてきた言葉。
おまけに、「土方先生は年寄りだから、それが当たり前かもしれないですけど」の捨て台詞付き。
そもそもあの問題児は、なぜ俺達が付き合っていることも、千鶴が家に来ていることも知っているのか。
しかし、まったくその通りだった。
最初は一緒に出掛けられなくて悪いとか、ときおり言葉をかけていた気がするが、今では自分の家で会うのが当たり前になっていた。
千鶴が嫌な顔ひとつしないから、年頃の高校生だということをつい忘れがちになる。

だから、今日、はじめて外に連れ出したのだ。
ただ、一回り年下の彼女とデートなんて、何をしていいのかいまいち分からなかったが。

「今度、これ着てお家にお邪魔しますね」
「おう、楽しみにしてる」
「でもいっぱいありすぎて、選ぶのがたいへんかもしれません。先生が気付いたらレジに持って行っちゃうから……値段も気にせずに」
「いつも、お前は俺に金を使わせないから、このくらいが調度いいだろ」

土方の家を訪れた直後、行きたい場所はないかと聞かれた千鶴は慌てふためいた。
考えること数分。
涙目で返って来た答えは、「土方先生とお出かけなんて考えたこともなかったので、知恵熱が出そうです……」だ。
この回答には困った。
年頃の女子高生など、恋人と行きたい場所なんて数えきれないほどあると思っていたのに。

結局、少し離れたショッピングモールに決めたのは土方である。
いい歳の男が、水族館や遊園地に行こうなどと提案するのが気恥ずかしかったのは本当だが、決して妥協案ではない。
休日となれば土方の家にばかりいる千鶴は、おそらく、友人と買い物などろくに行っていないだろう。
ここぞとばかりに、千鶴が興味を示したものは有無を言わさずに買った。
最初は恐縮しきりだった千鶴も、次第にあきらめた様子で店を回る。
後半は、「手を繋いで歩けるなんて嬉しいです」とか「女性はみんな先生を見てますね」とか言いだして、まったく可愛くて困った。
知り合いの目を気にする以外で、こんな弊害があるのは予想外だ
ただ、人目を気にして恥じらったり、出てきた料理に眼を輝かせる彼女の姿を見れたのは、外に出てきた甲斐があるというものだった。

そして今に至る。
日が沈みかけているし、このまま車で外食もいいだろうか。

「――そうだ。あのブレスレット、学校でもつけてろよ」
「いいんですか?」
「お前しかいないから、女子生徒の服装は明確にしてないだろ。大丈夫だ」
「分かりました……嬉しいです」

千鶴が大切そうに取り出した箱の中身は、最後に購入したブレスレットである。
指輪は校内でつけていられないが、これなら大丈夫だろう。
感の良い奴らへの、牽制にできる。
千鶴をデートに連れ出す目的と別に、今日一番の成果は文句なしにこれだ。

「このブレスレット、けっこうなお値段だったのでは……?」
「さあ、忘れた」
「……土方先生」
「怒るなよ。お前の虫よけにするなら、安いもんだって思える程度だ」

決して、嘘は言っていない。
むくれる千鶴に、今つけて見せてくれと言えば、それは素直に受け入れてくれた。
そっと箱から出して、ほっそりとした腕にブレスレットを通す。
控え目に輝くピンクプラチナは、千鶴によく似合っていた。
とても華奢なデザインだが、よく見ると花のモチーフが散りばめられている。
それを綺麗だと、千鶴が独り言のように呟いたのを聞き逃さなかった。

「ああ、よく似合う」
「……ありがとう、ございます」

千鶴はすぐに顔をそらしてしまったけれど、赤くなっていたのを見逃さなかった。
運転中だというのがもどかしい。
大切そうに、ブレスレットをつけた手首をもう片方で触れている。

「月曜あたり、総司とか南雲あたりが押しかけてくるんだろうなあ……」
「え? 沖田先輩と薫がどうかしたんですか」
「何でもない。それより」

こっち向けよ。
台詞をはく前に、目前の信号が赤くなる。
ブレーキを踏むと同時に、千鶴の顔を身体ごとを引き寄せると、真っ赤な顔で目を見開いていた。

「あああの、いま運転中……! ここ車……!」
「初デートの思い出くらい、くれたっていいだろ」
「んぅ……!」

しゃらり、とブレスレットの鳴る音が耳をかすめた。


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