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2013.6.30 設定のみ残して書き直しました。ED後の土千。

拍手[22回]








こわいくらいの、綺麗な月。
最初は、ぼんやりと見入っていただけなのに。
ぞっとするほど、執拗に見られている気がして、あわてて戸を閉めた。
さっきまでは綺麗だ綺麗だと騒いでいたくせにと、夫が不思議そうな顔をして後ろに立っていた。
どうやら、就寝前の戸締りは終わったらしい。
眠くなってしまいましたと適当に誤魔化して、寝所に逃げ込んだ。
彼を布団に引っ張り込むと、その腕の中におさまった。言い変えれば避難である。
今日は何で積極的なんだとか頭上から聞こえたけれど、私の様子がおかしいことに気付いているらしい。
深く身体を抱き込まれて、ゆるゆると頭をなでられて、ひどく安心した。
自分はいま、この人の腕の中にいるのだ。息を深くすってはき出した。どうやら、呼吸がうまくできていなかったらしい。

それくらい、あの月がこわかった。
ぎらりと光って、お前は、そちらに居るべきではない存在だと、ずっと見張っているぞと言われた気がした。
まったくおかしな話である。
私の居るところは、ここにしかないはずなのに。
一番安心できる体温に意識を向けて、無理やりに瞼を下ろした。





鬼に逢う夜





(――……やっと、寝たか)

目下には疲れた顔で眠る妻。
もう寝床に就こうかというとき、突然青い顔をして布団にもぐりこんだ。
明らかにおかしな様子である。そうなる理由は少しも思い当たらない。
しかし、必死に自分にすがりついて誤魔化そうという姿が痛ましくて、はやく寝させることを優先した。
もしかして、胸に押し付けられていた顔は、泣いていたのかもしれない。
明日にでも問い詰めないと。
そうでしもないと、強がりなこいつは、まるでなかったことのように誤魔化すだろう。
歳三さんの気のせいです、と笑って。

「違いねえ」

くくっと苦笑いが浮かぶ。千鶴のことが気になって、自分はすっかり眠れなくなってしまった。
身体を伸ばして戸に隙間をあける。
夏が近いとはいえ、夜は涼しい。入りこんできた風が気持ち良かった。
今夜は、いやに月が近い。寝所の奥まで青い光が入りこむ。

「――ぅ、ん」
「千鶴?」

もぞり、と妻が身じろいだ。
顔を覗き込んでみれば、苦しそうに歪めている。
悪い夢でも見ているのか。
千鶴の冷や汗に気付き、額にはりついた髪を払ってやろうと触れた瞬間だった。

「……銀の髪」

すくった髪は、月光に反射してきらきらと輝き、さらさらと指をすり抜けた。
まつげでさえも繊細な銀色である。
額には角。
耳は、こんなに鋭利ではなかったはず。

「としぞう、さん……?」

閉じられていた瞼が開く。
目前にあらわれた瞳は透きとおった金色。
月光をまっすぐ通して、ガラス玉のようにも見えた。

「……歳三さん?」
「ああ、いや、苦しそうだったもんで、起こしちまった。悪いな」
「そう、ですか」

まばたきに合せて動くまつげでさえ美しい。
もとより白い千鶴の肌だ。まるで、体の色素が全て薄くなったようである。
寝ぼけて遠くを見るような表情も相まって、いっそう神々しい。

「――さっきまで、月がこわくて、仕方なかったんですけど、歳三さんと一緒なら大丈夫みたいです」
「月が?」
「お前が、人間じゃないのを知ってるぞって……言われてる気がして」

それだけ言って、千鶴はまた瞼を閉じた。
幸か不幸か、自身が鬼化していることに気付いていないらしい。

「俺はどっちでも良いけどな」
「歳三さんは、そればっかりですね」
「お前なら何でもいいってことだ」
「……もう」
「今夜は、もう寝ちまえ」

角を避けて額にそっと口付ければ、ありがとうございますと、小さく笑って眠りに落ちた。
寝息が聞こえるころには、すっかりもとの姿である。
――なるほど、人外の美しさであった。
千鶴は月におどされていると言ったが、到底そうと思えない。
人でも鬼でもない中途半端な自分などが、千鶴の隣にいるのは気に入らない。どうせ、こちらが当たりだろう。

「それはできない相談だなあ、お月さんよ」

少しの光も入らないよう、ぴたりと戸を閉めた。

「こいつが、俺の隣が良いってんだから」

あたたかい身体が呼吸にあわせて動く。いつも通りの寝顔に安堵した。
しかし、麗しい鬼姿をまた見たいと思うのは、千鶴のすべてに惚れているからだなんて、ただの言い訳だろうか。
もちろん、鬼であることに引け目を感じている千鶴には悪いと思っている。
だから、また、こっそり逢いに来てくれよと期待しながら。


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