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土千ED後。シリアス。
※流血表現がありますので、苦手な方は注意して下さい。

拍手[13回]









わらいあって呼吸する






「なつかしい夢を見たんです」
「……なんだ、藪から棒に」

夏が終わったら、あっという間に冬になる。
冬支度も本腰を入れないと。そうやって縁側でぼんやりしていた歳三にお茶を持ってきた千鶴が、突拍子もない言葉を発した。
意図が理解できず困り顔の旦那を尻目に、きっちりと正座した妻が言葉を続ける。

「最後の戦いで歳三さんが銃撃をうけて、わたしが供血をしたときのことなんですが」
「……おまえ」
「歳三さんに血を飲ませながら、思ったんです。あなたの血液になれたらいいなあって」
「ちょっと待て。少し俺にも考える時間をくれ」

頼めば、からりとした顔で「分かりました」と言う。夫の言いつけ通り、そのまま大人しく自分の湯飲みを手に取って静かにすすり始めた。
何でもないといった顔をしているが、いつもと違う。口元だけは笑っているが、ころころと表情を変えるいつもの千鶴ではない。
突然のことに暫く呆けていたら、冷たさの混じった風に頬を打たれて意識を戻される。
横たえていた身体を起こして、千鶴に向き合った。

――わたしが供血をしたときのこと?

最後に千鶴の血を飲んだのは、おそらく腹に銃弾を受けたとき。
しかし、そのときの話をすれば彼女はいつも悲しそうな顔をする――はずなのだが。

「それで――俺の血になって、何だって?」
「そうすれば、一緒に連れて行ってもらえるかもしれません」
「……千鶴、」

どこに、なんて聞く余地もない。

「突然どうしたんだよ」
「二人で暮らし始めてから歳三さんの発作が収まっているので、飲んでもらった私の血が薄くなっているのではと思って」

確かに、蝦夷で暮らし始めてから発作は起きていない。
それを正直に伝えてはいるが、歳三がひとり耐え忍んでいるのではないかと心配する千鶴が、夜中に目を覚ましては確かめているのを知っている。
同時に、歳三が消え去っていないかを確かめていることも。

「惚れた女に傷をつけるのは嫌だと言ってるだろう」
「あのときは自分で傷をつけました。次も私がやりますし、歳三さんから見えないようにしますから」
「馬鹿言うな。そういうことじゃねえ」

言葉強く言い捨てると、ついに千鶴の顔がふにゃりと崩れる。
やっぱり無理してたんじゃねえか。……いや、無理させてんのは俺か。

「……お願い、します。わたしの勝手な気休めだって、じゅうぶん分かっています」

千鶴が縋りついてくる。小さな手が弱々しく衿を掴んできた。
受け入れるために抱いた肩は小さく震えている。

「だから、だからもし発作が起こったときは、わたしの血を飲んで下さい」
「……分かった」

もし発作が起こったとして、千鶴の白い肌に滴る血を差し出されたら、拒める自信はない。
実際に、拒めた試しはないのだ。歳三に懇願する必要もない。
千鶴はそれに気付いているのだろうか。
歳三の胸に押し付けられた顔は、泣いているのかも分からなかった。







「……く、そっ……!」

視界が赤い。喉が焼けるように痛い。
血が、血が欲しい。

きつく歯を食いしばったところで、ひゅうひゅうと熱い息が漏れる。
昼間、千鶴にあんなことを云われて、この深夜の発作。
まるであつらえたようだ。――何て、笑っている余裕は微塵もない。
背中に感じる千鶴の体温が、このときばかりは憎らしい。
血を乞いたくても、眠っているのを起こす前に、襲いかかって血をすすりそうな自分がいる。

「とし、ぞうさん……?」

歳三の悶絶で覚醒してしまったらしい千鶴の声が、やけに頭に響く。体中がざわりと歓喜する。
やめてくれ。
今にも飛びかかりそうな身体を必死で制す。

「きゃっ!」

千鶴が歳三に触れたのが先かは分からない。
しかし、気付いたら彼女の細腕を掴んでいた。その骨が軋んでいるのが分かるというのに、体の全てが言うことを聞かない。
千鶴の痛みに歪む顔を目前にしても、血をすする欲求に向かって動いている。

「う……歳三さん、すぐに血を……!」

まだ自由の利く片腕で、千鶴が布団の下から小刀を取り出す。

(そんなところに、いつから隠してたんだ)

聞きたくても、熱い息をはくだけで言葉にならない。飢えた獣そのものだ。
赤くちらつく視界に、千鶴の白い肌だけがひどく鮮明に映った。
はだけた閨着から覗く首筋から目が離せない。
赤くぎらついているだろう目は、すっかり瞳孔が開いている。

「ちづ……は、ぁっ……!」

千鶴の肌を滑る刃が、ひどくゆっくりに見える。
一筋の傷から血がしみ出した瞬間、視界が真っ赤になってその首筋に噛み付いた。

「いっ――…うぁあ!!」

犬歯が薄い肌をぶつりと破る音がして、千鶴の悲鳴が散る。
――嗚呼、甘い。美味しい。
漸く喉をとおったそれは、容易く侵された身体を解いていく。
千鶴はただ痛みを耐えて、歳三を抱きしめたままだった。

「……はあ……」

それは数秒だったのか数分だったのか。
正気に戻って、突き立てていた歯をずるりと抜く。
喉の熱さが消えてまともに呼吸ができるようになると、視界は鮮明になり、飢餓感がなくなった。
同時に千鶴の体から力が抜ける。
布団の上に座りこんでいた歳三の胸に倒れ込んだ。
肌に浮かぶ冷や汗が、千鶴の受けた痛みを見せつけてくる。

「横になるか?」

ゆるゆると頭を横に振られた。このまま受け止めていて欲しいということらしい。
少なくとも、嫌悪されていない事に安堵する。
せめて千鶴の気休めになればと思い戸を開けると、新鮮な冷たい風が入ってきた。
月光を頼りに確認した千鶴の顔色は青白い。

「本当に悪い。痛かっただろう」

刀傷に噛み跡。
歯型の至る所から血が浮き出して、千鶴の閨着を汚している。
もう治り始めているが、目を逸らしたくなるような惨状。自分が傷つけたのだ。
しかし、傷口を清めようと伸ばした手は、ぱしんと払われた。

「わたしが気付かなかったら、どうするつもりだったのですか」
「……悪かった。やっぱりおまえを傷つけたくないと思っちまった」
「駄目です。すぐに起こして下さい。――わたしは噛み付かれたって、それで骨が砕けたってかまいません!」

千鶴が悲鳴のような声をあげる。
返す言葉が見つからない。
千鶴が自ら供血してくれなかったら、発狂していたかもしれない。それくらい頭が沸く寸前だった。
言葉も発せなかったし、噛み付くなど初めてのことだ。刀傷すらあったというのに。

「駄目です。ぜったいに私の血を飲まないと駄目です。あなたが拒むというなら、いくらでも血を流して追いかけます」

千鶴が嘆く。

「……そうしないと、あなたは無理をして、突然消えてしまいそうだから」

月光に照らされた千鶴の白い頬に、涙が一筋つうと流れる。
手の甲に落ちたそれを拭うことなく、ただ静かに泣いていた。

「突然消えたりなんか、しねえよ」
「……そうですか」

千鶴がうっすらと笑う。しかし、はらはらと落ちる涙は止まらない。
喜んでいるのか、悲しんでいるのか、それとも歳三の言葉を信じていないのか。
抑揚のない声は感情がまったく読めなくて、細い肩を無理やり引き寄せた。

「本当だからな、千鶴」

自分でも笑えるくらい必死な声色だった。
返事の代わりに、歳三の閨着を握り締めていた小さな手がぎゅっと強まる。
歳三の胸に顔を押し付けて、もはや泣いているのかも分からない。
嗚咽が聞こえてきた方がまだ良かっただろうか。そう願ったところで、聞こえてくるのはお互いの少し乱れた呼吸のみで。
結局、どんなに言葉を重ねたって、歳三が千鶴の不安を拭い去ることなんてできない。
――当たり前だ。
それは己の限界が来るときまでついて回る。変わり様がない。
『消えない』約束をしてやりたくてもできない。する訳にいかない。
おいていかれる千鶴だって、そんなことは分かっているのだ。
出口の見えない問答に苛立つ。
いつの間にか、千鶴のほっそりとした身体を強く抱き込んでしまっていた。

「歳三さん、痛い」
「ああ……悪い」
「いえ……突然、困らせる事ばかり申し上げて、すいませんでした」

ぐす、と鼻をすすった千鶴は、いつも通りの顔に戻っているように見えた。遠慮がちに目を伏せて詫びる。
歳三が抱きしめ過ぎて、皺になった千鶴の閨着が目に入った。

「泣いて疲れたろ。寝直すか?」
「はい……あの、手を繋いで寝ても良いでしょうか」

言葉を返すよりも前に、強く手を握ってやる。
あたたかさがじわりと広がった。

「ありがとうございます」

目尻を下げて嬉しそうに微笑む千鶴を見て、強張っていた糸が緩む。

(――まだ、大丈夫だ)

ひどく危うい日常のなかで、自分はまだ生きていける実感がある。
千鶴に返した笑顔は、うまく作れているか分からなかったけれど。

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