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土千転生シリーズです。
仲間と再会編9話目。過去作品はこちらからどうぞ→<作品リスト>
2014/9/28設定を残して書き直し
空色のつづき(9)
「私が先ほどまで着ていたもので申し訳ないのだが、使っておくれ」
「あの、私がそれを使っては、井上さんの服が汚れてしまいます」
「何を言うんだ。せっかく可愛い娘さんの服を着ているのに、それを汚す訳にはいかないよ」
「えっと……今は、毎日ちゃんと女性用の服を着ているので、少しくらい汚れても大丈夫です!」
「ああ、そうだったね。つい昔の気分で浮かれてしまった」
そう言いながら、エプロンを差し出す手を引いてくれない井上さんは笑顔だ。
これ以上どうすることもできなかった。
ありがとうございますと言ってエプロンを受け取ると、井上さんは満足そうに頷く。
相変わらず、優しくて穏やかな人だ。戦のない現代においては、それが更に顕著になっている気さえする。
結局。
道場の前で井上さんに出迎えられた私は、料理を手伝うことにした。
手伝いを申し出た私の言葉に井上さんは喜び、原田さん達に見送られる。
こんなに立派な屋敷にあるキッチンだ。
さぞや広いのだろうということは予想できたが、そこで斎藤さんが料理を作っているのは予想外だった。
斎藤さん曰く、私や原田さんの声を聞いた井上さんが飛び出して行ったことには気付いていたらしいが、自分はもう再会を済ませているので、邪魔をしないでおこうと思ったらしい。
実に彼らしかった。
「……源さん。喜んでいるところ悪いが、俺は土方さんに、主役である雪村には手伝いをさせるなと言われている」
「おや。それは歳さんらしいが、今ばかりは許してもらいたいねえ」
「大丈夫ですよ斎藤さん。私からも言っておきますから!」
第一、今日は出前を使うと聞かされていたのだ。
井上さんと斎藤さんが作ると知っていたら、最初から手伝いを申し出ていた。
それに、二人とも上着を脱いだスーツ姿。仕事帰りというのは明白だし、やはり手伝わないと気が済まない。
「そうだね、私からも言っておくよ。良いだろう斎藤くん」
「……だが」
「斎藤さん! はやく作らないと、近藤さんのお帰りに間に合いません!」
ほら早くと言いながら、菜箸とボウルを押し付ける。
おまけと言わんばかりに、井上さんからはレタスにトマト、きゅうりといった、サラダの材料が差し出された。
「……仕方ないな」
「ありがとうございます!」
「いや、礼を言うのは手伝ってもらうこちらだろう。感謝する」
「いいえ。私がお手伝いしたいだけですから」
そうと決まれば、はやく作ってしまうに限る。
手早くエプロンを身に着けた。
どうして薄いピンク色なのかは、この際気にしないでおこう。実際、井上さんのエプロン姿は良く似合っていたし。
「おや、似合っているよ。きっと良いお嫁さんになる」
千鶴を見て、井上さんは上機嫌だ。
顎に手を置いて、うんうんと頷いている。
「そ、そんな、お嫁さんだなんて」
赤面して、そんなことないですと返そうとしたとき。
後方から、低音だが穏やかな声が耳に届いた。
「わたしも同感ですね。雪村くんは、優しくて凛とした、素晴らしい奥さんになると思いますよ」
「島田さん!」
キッチンの入口から、のっそりと顔を覗かせた巨体。何やら大きな箱を持った、スーツ姿の島田さんだった。
「雪村くん、お久しぶりです」
「はい。また、お会いできて嬉しいです……!」
駆け寄った島田さんは、やはり見上げるほどに大きかった。
にこにこと笑う穏やかな雰囲気もそのままだ。
「かつてのあなたと副長が夫婦になったところを目にすることができませんでしたので、雪村くんが見つかったと聞いてから、それはもう楽しみで仕方がありません」
しかし、こんなに早口で話す人だったろうか。
本当に楽しみで仕方ないというように言葉を弾ませている。
「島田くんは、それでも五稜郭まで二人を見ていたんだっけねえ。わたしは仲睦まじくしている二人を見たことがないから、羨ましいよ」
「これからたくさん見ることができるので、心配いらないと思うが」
「斎藤くんが言うなら安心だね。これは楽しみだ」
「本当に楽しみですね!」
勝手に話が進んでいく。
皆さんが気持ちはもちろん嬉しいが、恥ずかしくて仕方ない。
「えっと、あの……島田さんの手に持っているものは何でしょうか?」
「ああ、今日は皆で雪村くんと再会するお祝いの日でしょう? なので、わたし一押しの店からケーキを買ってきました」
「わあ……! ありがとうございます。島田さんのおすすめなら、絶対に美味しいですね」
「はい! 楽しみにしていて下さいね。……まあ、土方さんは口にしないでしょうが」
「だ、大丈夫です。歳三さんの分もわたしが食べますから」
ケーキの箱を受け取って、そっと冷蔵庫へ入れる。
振り向いたときには、斎藤さんがもう料理を始めていた。先ほど渡された材料で、律儀にサラダを作っているようだ。
「準備の邪魔をしてしまいましたね。私も手伝いましょう」
にこにこと楽しそうな島田さんの手には、何故かずっしりと大きい餡子パック。
あんなに大きなケーキがあるのに、いったい何を作るというのか。
「島田くん、手伝うならこっちで野菜を切っておくれ」
わたしが返事に困っている間に、井上さんに仕事を与えられた島田さんは、その巨体に似合わずしょんぼりとしていた。
<続>
仲間と再会編9話目。過去作品はこちらからどうぞ→<作品リスト>
2014/9/28設定を残して書き直し
空色のつづき(9)
「私が先ほどまで着ていたもので申し訳ないのだが、使っておくれ」
「あの、私がそれを使っては、井上さんの服が汚れてしまいます」
「何を言うんだ。せっかく可愛い娘さんの服を着ているのに、それを汚す訳にはいかないよ」
「えっと……今は、毎日ちゃんと女性用の服を着ているので、少しくらい汚れても大丈夫です!」
「ああ、そうだったね。つい昔の気分で浮かれてしまった」
そう言いながら、エプロンを差し出す手を引いてくれない井上さんは笑顔だ。
これ以上どうすることもできなかった。
ありがとうございますと言ってエプロンを受け取ると、井上さんは満足そうに頷く。
相変わらず、優しくて穏やかな人だ。戦のない現代においては、それが更に顕著になっている気さえする。
結局。
道場の前で井上さんに出迎えられた私は、料理を手伝うことにした。
手伝いを申し出た私の言葉に井上さんは喜び、原田さん達に見送られる。
こんなに立派な屋敷にあるキッチンだ。
さぞや広いのだろうということは予想できたが、そこで斎藤さんが料理を作っているのは予想外だった。
斎藤さん曰く、私や原田さんの声を聞いた井上さんが飛び出して行ったことには気付いていたらしいが、自分はもう再会を済ませているので、邪魔をしないでおこうと思ったらしい。
実に彼らしかった。
「……源さん。喜んでいるところ悪いが、俺は土方さんに、主役である雪村には手伝いをさせるなと言われている」
「おや。それは歳さんらしいが、今ばかりは許してもらいたいねえ」
「大丈夫ですよ斎藤さん。私からも言っておきますから!」
第一、今日は出前を使うと聞かされていたのだ。
井上さんと斎藤さんが作ると知っていたら、最初から手伝いを申し出ていた。
それに、二人とも上着を脱いだスーツ姿。仕事帰りというのは明白だし、やはり手伝わないと気が済まない。
「そうだね、私からも言っておくよ。良いだろう斎藤くん」
「……だが」
「斎藤さん! はやく作らないと、近藤さんのお帰りに間に合いません!」
ほら早くと言いながら、菜箸とボウルを押し付ける。
おまけと言わんばかりに、井上さんからはレタスにトマト、きゅうりといった、サラダの材料が差し出された。
「……仕方ないな」
「ありがとうございます!」
「いや、礼を言うのは手伝ってもらうこちらだろう。感謝する」
「いいえ。私がお手伝いしたいだけですから」
そうと決まれば、はやく作ってしまうに限る。
手早くエプロンを身に着けた。
どうして薄いピンク色なのかは、この際気にしないでおこう。実際、井上さんのエプロン姿は良く似合っていたし。
「おや、似合っているよ。きっと良いお嫁さんになる」
千鶴を見て、井上さんは上機嫌だ。
顎に手を置いて、うんうんと頷いている。
「そ、そんな、お嫁さんだなんて」
赤面して、そんなことないですと返そうとしたとき。
後方から、低音だが穏やかな声が耳に届いた。
「わたしも同感ですね。雪村くんは、優しくて凛とした、素晴らしい奥さんになると思いますよ」
「島田さん!」
キッチンの入口から、のっそりと顔を覗かせた巨体。何やら大きな箱を持った、スーツ姿の島田さんだった。
「雪村くん、お久しぶりです」
「はい。また、お会いできて嬉しいです……!」
駆け寄った島田さんは、やはり見上げるほどに大きかった。
にこにこと笑う穏やかな雰囲気もそのままだ。
「かつてのあなたと副長が夫婦になったところを目にすることができませんでしたので、雪村くんが見つかったと聞いてから、それはもう楽しみで仕方がありません」
しかし、こんなに早口で話す人だったろうか。
本当に楽しみで仕方ないというように言葉を弾ませている。
「島田くんは、それでも五稜郭まで二人を見ていたんだっけねえ。わたしは仲睦まじくしている二人を見たことがないから、羨ましいよ」
「これからたくさん見ることができるので、心配いらないと思うが」
「斎藤くんが言うなら安心だね。これは楽しみだ」
「本当に楽しみですね!」
勝手に話が進んでいく。
皆さんが気持ちはもちろん嬉しいが、恥ずかしくて仕方ない。
「えっと、あの……島田さんの手に持っているものは何でしょうか?」
「ああ、今日は皆で雪村くんと再会するお祝いの日でしょう? なので、わたし一押しの店からケーキを買ってきました」
「わあ……! ありがとうございます。島田さんのおすすめなら、絶対に美味しいですね」
「はい! 楽しみにしていて下さいね。……まあ、土方さんは口にしないでしょうが」
「だ、大丈夫です。歳三さんの分もわたしが食べますから」
ケーキの箱を受け取って、そっと冷蔵庫へ入れる。
振り向いたときには、斎藤さんがもう料理を始めていた。先ほど渡された材料で、律儀にサラダを作っているようだ。
「準備の邪魔をしてしまいましたね。私も手伝いましょう」
にこにこと楽しそうな島田さんの手には、何故かずっしりと大きい餡子パック。
あんなに大きなケーキがあるのに、いったい何を作るというのか。
「島田くん、手伝うならこっちで野菜を切っておくれ」
わたしが返事に困っている間に、井上さんに仕事を与えられた島田さんは、その巨体に似合わずしょんぼりとしていた。
<続>
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