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土千転生シリーズです。
仲間と再会編7話目。過去作品はこちらからどうぞ→<作品リスト>
2014/8/10設定を残して書き直し

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空色のつづき(7)




胸の鼓動がうるさい。
期待と緊張で胸がいっぱいになる。
つい、駆け降りている階段を踏み外しそうになっては深呼吸をする。
それでもなかなか落ち着かなくて、肩にかけたバッグをぎゅっと抱きしめた。

いつの間にか、正門には人だかりができていた。人垣に阻まれて、目的の人たちの姿は見えない。
慎重に、人と人の隙間をすり抜ける。
やっと視界が開けたところは、既に正門の前だった。道路脇に停められた黒いセダンはどこかで見たことがある。
周りにいるのは、スーツ姿の三人組。

「――お、来た来た」

車の前で待ち構えていたらしい、赤髪の男性がやわらかく笑う。
原田さんだ。

「え、千鶴か!?」
「千鶴ちゃん来たのか! おお、元気そうだな!」

歩道の柵に腰をかけて話し込んでいたらしい二人がぱっとこちらを向いた。
そのまま走って来ようとするのを、原田さんに首根っこを掴まれて引き止められている。

「男二人に飛びつかれたら千鶴が驚くじゃねえか。大人しくこっち来るの待ってろ」

じたばたと、原田さんに向かって不満を述べている様子だ。
平助くんも永倉さんも、まったく変わっていないように見える。
向けられる笑顔も、底抜けの明るい声も、あのときのまま。それだけで嬉しい。

私が三人の元へ走り着いたときには、すっかり息があがっていた。
心臓が更にどくどくと音をたてている。
せっかく三人が目の前にいるのに、うまく言葉は出てこないし、情けない顔をしていると思う。
呆然としていたら、頭をくしゃりと撫でられた。
懐かしくて、大きな手。

「なんて顔してんだ、千鶴」
「原田さん……わたし、皆さんに会えて、嬉しくてたまらないのに、どうやって言葉にしていいか分からなくて」
「その言葉だけで十分だ」
「そうそう。俺は、千鶴にまた会えただけで嬉しいし!」
「……ありがとう、平助くん」

しずかに涙が頬を伝ったけれど、やっと笑顔になれた。

「「………」」

なぜか、原田さんと平助くんに凝視される。

「あ、あの……突然泣いたりして、すいません。驚かせてしまいましたよね」
「い、いや、涙をぬぐってやりてえんだけど、そんなことしたら土方さんに殴られそうだしな……いや、確実に殺られる」
「はじめて見る可愛い女の子の格好で、そんな笑顔見せられたら、俺どうしたら良いんだよ……」

二人がぼそぼそと、ひとり言のように何かを発している。とても難しい顔だ。
よく聞こえないのだが、やはり驚かせてしまったのだろう。
突然泣き出すなんて子供でもあるまいし、次からは気を引き締めないといけない。

「おい、左之に平助! 俺の妹である千鶴ちゃんを泣かせてんじゃねえ!」

響いたのは、大きくてよく通る声。
後ろから肩をつかまれてぐいっと引っ張られる。
まだ春だが、スーツのジャケットは羽織らず、シャツは腕まくりをしている。永倉さんの腕は相変わらず逞しかった。
そして、まだ私のことを『妹』と思ってくれているらしい。

「永倉さん、わたしは大丈夫ですよ?」
「いや、ここはこの俺がビシッと……じゃねえ。千鶴ちゃん、とりあえずこれ使え」
「は、はい……? ありがとうございます」

差し出されて、咄嗟に受け取ったハンカチ――いや、タオルに分類されるものだろうか――は、すぐに原田さんに奪い取られる。

「千鶴。そんなもので涙拭いたら馬鹿が移る。こっち使え」
「え?」
「左之! おまえ!」
「新八っつぁん、女の子に自分のタオルなんて、よく渡せるよなー」
「平助……おまえもか……!」

今度こそ、ハンカチと思われるものが手の中に収まった。
しかし、千鶴を挟んだ頭の上で、わいわいと言い争いが始まっている。
最初はやはりハンカチについての議論だったが、次第に飲み会の席での愚痴に変わっていた。
やはり、今世でも三人は仲が良いらしい。

「新八おまえ、酔いつぶれたその無駄に重い体を引きずって、いつも家まで届けてやってるのは誰だと思ってんだ?」
「お、おまえこそ、いっつも飲み屋で綺麗なねえちゃんたちに絡まれて、助けてやってるのは誰だと思ってやがる」
「おまえが勝手に割り込んで、でかい声出して引かせてるだけだろ」
「うるせえな! 平助なんて、すぐ他の酔っぱらいどもと喧嘩しやがるし」
「ちょ、ちょっと新八っつぁん! なにも千鶴の前で言わなくていいだろ!」

騒がしくも楽しげな声。何だか懐かしい。

「……ふふっ」

気付いたら声が漏れていた。

「お、千鶴が笑ってる」
「ち、千鶴ちゃん……! 俺はただ、真剣に君を気遣ってだな……!」
「この流れで、まだ千鶴がタオルに対して笑ってると思うなら、やっぱりお前はただの馬鹿だな」

そしてまた賑やかになった。
三人の会話を聞くのが楽しくて、そこに自分が入っているのが嬉しい。
すっかり周りの様子を気にしないでいたら、軽やかなヒールの足音が近づいて来た。

「あれ、お千ちゃん?」
「もう! まだここに居たのね。このままだと、ちょっとした騒ぎになっちゃうかも」
「えっ」

お千ちゃんがやって来た正門の方へ目を向ければ、先ほどとは比べものにならない程の人だかりができている。
そのほとんどは、この女子大学の生徒だ。
千鶴を囲む三人は、顔が整っているうえに、まとう雰囲気も明るく印象が良い。
おまけにスーツを着ているので、学生ではなく社会人と丸わかりだ。
千鶴に三人の来訪を伝えてくれた友人たちもずいぶん高揚していたし、注目を集めるのは仕方ないだろう。

「……そうか、思い出した。あんた鬼の姫さんか?」
「えっと、原田さん……で良かったかしら。皆さんにご挨拶もしたいところだけど、今はとりあえず、千鶴ちゃん連れて行ってくれないかしら」

迎えに来てくれたんでしょ? とお千ちゃんが三人へ問いかける。

「悪い、そうだな」

原田さんが苦い顔をして、運転席へ乗り込んだ。

「千鶴、一緒に後ろ乗ろうぜ!」
「う、うん」
「おい! ずるいぞ平助!」
「あーもう! 永倉さんでしたっけ。あなたはさっさと助手席に乗る!」
「は、はい……」

お千ちゃんに促されて、永倉さんがしょんぼりと助手席に乗り込んだ。
平助くんに手を引かれて、私も後部座席へ乗り込む。
バタンとドアが閉まって、外にいるお千ちゃんが苦笑いで嘆息していた。

「よし、出発するぞ」

手際よくかけられたエンジン。
急いで車の窓を開けて、お千ちゃんに手を振る。

「ありがとう、お千ちゃん!」
「これくらい良いのよ。今度こそいってらっしゃい!」

軽快に走り出したセダン。
笑って送り出してくれるお千ちゃんが小さくなっていく。
供に車に乗る三人も、世話になったと言いながら手を振っていた。

<続>
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