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土千転生シリーズです。
仲間と再会編5話目。過去作品はこちらからどうぞ→<作品リスト>
2014/7/14設定を残して書き直し

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空色のつづき(5)




「そういう訳だから、週末の夜は空けといてくれ」

土方さんからひと通りの説明を受けて、三人でしばし呆ける。
今朝、短いメールを受け取った。内容は「話があるから、終業時間後に休憩室に来て欲しい」という一文。たったそれだけ。
どうやら、同じメールを受け取ったらしい新八と平助に合流して話を聞けば、千鶴が見つかったので皆に会わせるということらしい。
突然の報告に、何秒呆けた後だろうか。
以外にも、最初に言葉を発したのは平助だった。

「……そっか、千鶴見つかったんだ。良かったな土方さん!」

苦言のひとつでも予想していたのだろうか、思いがけない祝福の言葉に、土方さんは困ったような笑みを浮かべた。
千鶴が見つかってから報告を受けるまで、数日空いていることについては、もちろん思うところがある。しかし、安心した、というのが最初に浮かんだ本音だ。
彼女が現れないことも、土方さんの表情が浮かばないことも、皆ずっと心配していた。
言葉にしていなかっただけだ。

「本当に、良かったなあ土方さん……! 俺たちもやっと千鶴ちゃんに会えるし、言うことなしだぜ!」

新八に至っては、感極まって涙ぐんでいる。
バシバシと背中を叩かれている土方さんは、かなり痛いだろうに文句ひとつ言わなかった。

「じゃあ、土方さんはもう安泰だな」

鋭い紫色の目がこちらを向く。

「……原田、何がだ」
「千鶴にも夫婦だったときの記憶あるんだろ? もう既婚者みたいなもんだ。これで、土方さんが見向きもしなくて泣く女子社員が減る」
「おまえ、それを千鶴の前で言ったらどうなるか分かってるな?」
「はは、前半は別に良いだろ?」

恨みがましい目で睨まれるが、本気ではないだろう。また平助と新八に絡まれて、すぐに元の苦笑いに戻った。
分かりにくいが、最近の土方さんに比べると穏やかな表情をしている。
この会社に入社したとき再会した彼だって、千鶴が隣に居ないのは変わらなかったはずだ。しかし、年月が経つにつれて、顔の曇りが目立つようになる。
気付いてみれば、俺たちがかつて千鶴に出会った年齢を過ぎていた。
おそらく、土方さんは焦っていたのだろう。

新選組と道半ばで別れた自分は、蝦夷まで渡った二人を知らない。
もちろん、今世で土方さんから説明を受けるまで、戦が終わってもなお二人が生きていることは知らなかった。
『夫婦になって、静かに余生を送ってた』と告げて、それ以上を語らなかった土方さんの顔は無表情で、しかし、ひどく寂しそうに見えたのを覚えている。
海を越えて、戦場まで追いかけてくる女なんて聞いたことがない。
ましてや、戦が終わったにも関わらず、土方さんを現世に繋ぎとめていたなど、なんて気が強い女なのか。

千鶴は、必ず土方さんを追いかけてくるだろう。そう思いはしても、言葉にするのは躊躇われた。
彼女が見つからない現状では、安い励ましにしかならない。
おそらく、かつて新選組にいた誰もが、同じ心境だったのではないだろうか。

だから、安心したのだ。
千鶴が見つかってくれて。土方さんが幸せそうで。
はやく、久しぶりに彼女の笑顔も見たい。
なんて思い耽りながら、騒がしい休憩室のソファに腰かけてもたれかかっていると、複数の足音が近づいてくる。

「あ、やっぱりここに居た。廊下まで騒いでるの聞こえてましたよ」
「土方さん、休憩中に申し訳ないのですが、週末の集まりについてお聞きしたいことが」

総司と斎藤だ。
設計部のエース二人が加わって、さらに騒がしくなったが、自分たちしか居ないので気にしないことにする。
総司はただ休憩に来たのか、対面のソファにどかりと腰かけた。じっと自動販売機を見つめて、飲み物を選んでいるらしい。

「平助。その右端のカフェオレお願い」
「それくらい自分でやれっての……って、勝手にポケットに小銭入れんなよ!」

斎藤は、土方さんと週末の集まりについて相談している。
どうやら、出前を使わずに、自ら料理を作る気でいるらしかった。

「――分かった。料理は斎藤にまかせる。近藤さんに、台所使わせてもらえるように頼んでおく」
「ありがとうございます」
「ただ、千鶴には外から買ってくるって言っとくから、当日まで隠しとけよ。たぶん……いや、ぜったい手伝おうとするから」
「確かに、彼女ならそう言ってくるでしょう。了解しました」

斎藤が頷く。
久しぶりに千鶴の料理が食べたいのは皆一緒だが、当日の主役にやらせることではないだろう。
それが分かっているのか、平助と新八は残念そうな顔をしながら黙っている。

「一くん、僕も手伝おうか?」
「遠慮しておく」
「総司……それだけは勘弁してくれ……」

新八が心底嫌そうな顔をした。

「ははっ、じゃあ俺はどうだ? 流石に一人で作るには量が多いだろ。簡単なことくらいはできるぞ」
「いや、左之の申し出は有難いのだが、源さんにも頼んでいるから大丈夫だ」

源さんの名前を聞いて、大人しく身を引く。まず安心だろう。
今は、副社長をしている山南さんとともに、秘書として近藤さんを支えている。温厚で優しく、ときに厳しいところは変わらない。

「源さん来るんだな。山南さんもか?」
「ああ、呼んである。源さんなんて喜びすぎて、プレゼントは必要かとか聞いてきたりして、山南さんと落ち着かせるのが大変だったぜ……」

土方さんが腕を組んでため息をはく。
相変わらず、源さんは千鶴を娘のように思っているらしい。当日の再会を見るのが実に楽しみである。

「――そういや、総司と斎藤は千鶴のこともう知ってんだな?」
「僕たち、昨日会ってきましたから、千鶴ちゃんに。手料理も食べたし」
「何だと!! ずるいじゃねえか二人だけなんて!」
「新八っつぁんの言うとおり! 俺もはやく千鶴に会いたいのに、なんで二人だけなんだよ土方さん!」
「こいつらが、何も話してないのに勝手に押しかけて来たんだよ!」
「……勝手にお邪魔したことに関しては、申し訳なく思っています」

斎藤が肩を落とし、総司はにやにやと笑っている。
何となくだが、昨日の光景が目に浮かぶようだった。
おそらく、斎藤は総司に引きずられて連れて行かれたようなものだろう。
しかし、千鶴に会えると言われれば、俺だって間違いなく来訪しただろう。土方さんには悪いが。

「斎藤。悪いと思ってるなら、今すぐ総司連れて仕事に戻れ」
「はい」
「えー。来たばっかりなんですけど」
「総司と斎藤も残業か?」
「ええ。まったく……どこかの鬼の営業部長さんが、大きい契約ばっかり取ってくるから嫌になっちゃいますよ」
「何だと総司。やっかいな設計の依頼は断ってやってるだろうが。近藤さんのためにしっかり働きやがれ」
「土方さんの言う通りだ総司。はやく設計室に戻るぞ」
「はあ……はいはい」

斎藤に小突かれて、総司がだるそうに出て行く。

「ほら、お前らも自分のとこ帰れ」
「えー! もうちょっとくらい良いじゃん!」
「何言ってんだ左之! 千鶴ちゃんが見つかった報告を聞いて、こんなめでたい日に飲まないなんておかしいだろ!」

一斉の非難。
二人の手には、買ったばかりの栄養ドリンクと缶コーヒー。少なくとも、飲み終わるまでは居座る気だろう。

「週末になってみたら、仕事がたまって千鶴に会えなくなる――なんてことになっても俺は手伝わねえ」
「……左之さんに言い返す言葉がない」
「くっ……仕方ねえ……!」

がっくりと肩を落として、新八と平助が休憩室を後にする。
あれでも新八は、現場を走り回る管理部において、平助の上司である。
しかし、あの様子ではこれからの残業には身が入らず、平助を呆れさせるに違いない。

「駄目だなあれは」
「全くだ」

気付けば、休憩室には土方さんと自分だけになっていた。

「原田、おまえも残業か?」
「ああ。土方さんは最近早かったけど、今日はどうすんだ」
「今日は残る。俺が仕事で週末行けませんでしたっていうのは、流石に避けたい」
「くく、そりゃそうだな」

土方さんがこちらに背を向けて、自販機に小銭を入れていく。
その伸びた背筋は前世の頃からずっと変わらないが、前しか見ていなかった頃とはすこし違う。
自分は知らないが、それは千鶴が振り向かせた――いや、走っていた彼の隣を歩いたとでも言うのか――からだろうか。
何にしても、この自分の目で、二人並んだ姿を見れることがひどく喜ばしい。

「千鶴に会えるのが嬉しいってのもあるが、俺は安心した」
「何だ、突然」
「土方さんの表情が明るくなった」
「……悪かったな、心配かけて」

気まずそうに、おまえは何を飲むんだと聞いてくる。
遠慮せずにブラックコーヒーを頼むと、ガコンと音がして適当に投げて渡された。照れ隠しだろうか。
設計部や管理部にいる奴らとは違って、自分は土方さんの直接の部下だ。
おそらく、心境の変化は一番感付いていたと思うし、軽いフォローなどもしたことがある。
気付かれないように助けてきたつもりだが、この敏い上司は、あえて見ないふりをしていたのかもしれない。
しかし、仮にそうだとしたら、少しくらい恩をきせても大丈夫だろうか。

「週末の集まり、俺が千鶴を迎えに行って良いか?」
「あ?」

甘かった。
何て怖い顔をするんだ。ついでに声も低すぎる。

「い、いや――…そうだ、平助と新八も連れて行くからよ!」
「…………なら良いぞ」

そんなに溜めなくても良いのではないか。
ある程度の予想はしていたが、こんなに千鶴に執着しているのは想定外だ。
いろんな意味で、週末が楽しみである。

「おい、さっさと戻るぞ。仕事しやがれ」
「分かった。分かったから、その顔すこし緩めてから戻ってくれ。他の社員が怖がる」

俺だって、この不機嫌丸出しの土方さんと、同じフロアで残業は御免だ。
これ以上機嫌を損ねないために、さっさと休憩室を後にした。

<続>
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