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土千転生シリーズです。
仲間と再会編4話目。過去作品はこちらからどうぞ→<作品リスト>
2014/6/8 設定を残して書き直し

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空色のつづき(4)




「どうした雪村。俺と総司の顔ばかり見て」
「あ、いえ……本当に、斎藤さんと沖田さんなんだなあと思って」
「何言ってるのさ。僕たちからすると、君がなかなか現れてくれなかったんだよ」
「う……すいません」
「それは雪村のせいではないだろう」

歳三さんの家のリビングで食卓を囲む。
結局、ワンルームである私の家に四人が入るのは狭すぎるということになった。
炊飯器や、味噌汁の入った鍋ごと移動させる。
幸い、鰤大根や漬物は明日の箸休めにできればと多めに作っていたし、ご飯を追加で炊いて味噌汁を増やすだけで人数分になった。
しかし、お客さんが来ると分かっていれば、もっと豪華にしたのに残念である。
それでも美味しいと言ってもらえたので嬉しい。
つい屯所での食事を思い出した。もっともっと賑やかで、落ち着かないものではあったけれど。

「また、お会いできてうれしいです」

今度は涙は流れなかった。
はっきりと言葉にすると、対面に座っている斎藤さんがすっと箸を置く。

「おまえは、最後まで副長の傍らに居てくれたと聞いた。感謝している」

斎藤さんの蒼い眼は真っ直ぐだ。
副長を頼むと言われた、あの別れのときと同じ。

「……私が、ついて行きたかっただけです。置いていかれることに我慢できなかった。だから、感謝なんて……そんなこと」
「しかし事実は変わらないだろう。伝えたかっただけだ、とりあえず聞いてくれただけで良い。せっかくこうして会えたのだからな」
「……はい」
「本当に変わってるよね、千鶴ちゃんは」

斎藤さんの隣に座る沖田さんがくすくすと笑っている。
鰤大根を箸でつつきながら、持参してきたらしい甘い酎ハイをちびちびと飲んでいた。

「史実によると、土方さんは函館にて戦死。まあ……実際は可愛いお嫁さんなんてもらってのんびり生きてた訳だけど、追い詰められた最後の戦場について行ったりして、君だっていつ死ぬか分からなかった」

沖田さんはこちらを見ないが、顔には微笑が浮かんでいる。

「でも、千鶴ちゃんをそんな子にしちゃったのは、新選組にずっと監禁してた僕たちのせいかもしれないし?」
「死にたくて行ったのではありません。でも、あのときの私はもう、土方さんを追いかけることしか知らなかったように思います」
「――考えてたことがあるんだ。役に立たなかった僕とか、先に逝ったり、道を違ったりした皆の代わりに、君が新選組の終わりを見届けてくれたんじゃないかって。代償に、千鶴ちゃんが得るはずだったたくさんの幸せを捨てて」
「それは」
「でも違った。そうだよね?」

ことり、と酎ハイが残るグラスがテーブルに置かれた。ゆっくりと顔をあげる沖田さんと目が合う。
優しい眼だった。穏やかな若草色。
新選組に身を置いていたあの頃、彼と最後に会ったのはいつだったか。
労咳を患ってから看病をすることも多かったけれど、そのときにはもう穏やかな表情を見ることはなかった。
安静にと布団に入っている間も、どこか虚ろで苦しそうだったのを覚えている。
その原因は体の痛みだけではないと分かっていても、自分は何もできなかった。無理をしようとする度に咎めるだけ。

「君は、君の幸せを追いかけたんだ。とても貪欲に」

歳三さんと斎藤さんは何も発しない。
箸だけは止めて、グラスに注がれたビールを少しずつ煽っている。
今も昔も、私では到底敵わない時間をともに過ごしているはずの二人は、役に立たなかったと自称する沖田さんをどう思っているのか。
黙する二人は気に留めず、沖田さんは私に語りかける。

「それで、この世に土方さんを引き止めて、戦から引き剥がして、山奥でのんびり暮らしてたんだから……くくっ、ほんとすごいよ」
「わ、笑わないでください」

けらけらと笑う沖田さんを見て少し泣きそうになってしまったけど、からかわれそうなのでぐっと堪える。
彼が亡くなったと聞いたとき、病に臥せる苦痛な顔ばかりが脳裏に浮かんだ。
そうだ。こんなに楽しそうな顔で笑うときもあったのだと、ようやく思い出せる。

「それを知れただけでも、今世に生きてて儲けもんかなあ。千鶴ちゃんのおかげだね」
「ええと、私のおかげ……なのでしょうか」
「土方さんもそう思うでしょ?」

思いついたように歳三さんに言葉を投げた。
投げられた本人は、途端に渋い顔をする。

「……そうだな。もう、こいつに敵うとは思ってねえよ」
「それ、どういう意味ですか……?」
「おまえみたいに気の強い女が好きってことだ」

隣から手が伸びてきたと思うと、するりと頬を撫でられる。
一気に体温が上昇した。

「歳三さん!」

少しだけの触れ合いでも、今は人前である。
咄嗟に身を後ろに引けば、流石に手を引いてくれた。

「あーあ。話振らなきゃよかった」

やってらんないと呟いて、沖田さんが箸を持ち直す。

「千鶴の飯が冷めちまうから、おまえらさっさと食え」
「承知しています」
「はいはい」

綺麗に箸を持ち直した斎藤さんに、もう食べ始めている沖田さん。
私の顔にはまだ熱が残っていたけれど、歳三さんは余裕の表情だった。少しくやしい。

「ところで千鶴」
「は、はい?」

恨めしい目で歳三さんを見ていると、不意に名を呼ばれて顔を向けられる。
あわてて背を伸ばした。

「はは。千鶴ちゃん、それって小姓の頃からのくせ?」
「うるせえぞ総司」

沖田さんを一瞥したあと、再度こちらに向いた目は真剣だった。

「……週末の夜、近藤さんに道場を使わせてくれって頼んである」
「え? 近藤さん?」
「他の奴らにはまだ言ってないが、おまえに会えるって言えば意地でも来るだろ。だから予定空けとけよ」
「歳三さん、それって」
「みんなに会えるぞ」
「……ありがとうございます」

お礼を言った後、耐えきれなくてぼろぼろと涙が零れる。
今日は斎藤さんと沖田さんに会って一度泣いたから、もうすっかり涙腺がゆるい。
食事どころではなくなっていた。

「もう泣くなんて、当日どうするの千鶴ちゃん」
「涙はそのときに取っておけ、雪村」

二人の大きな手で頭を撫でられたけど、歳三さんは苦笑いで何も言わなかった。

<続>
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