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土千転生シリーズです。
仲間と再会編2話目。過去作品はこちらからどうぞ→<作品リスト>
2014/5/17 設定を残して書き直し
空色のつづき(2)
わたしは何かやってしまったのだろうか。
『……俺だ』
インターホンのカメラが映した歳三さんの顔はすっかり不機嫌だった。こんなに眉間に皺を寄せているのを見るのは、今世では初めてかもしれない。
低く這うような声に答えられないでいると、早く玄関を開けろと言われる。
恐る恐る重いドアを開ければ、仕事帰りでスーツを着たままの歳三さんが立っていた。
「……あの」
「何で俺の家に居ない」
「え?」
「荷物はほとんど俺の家に運んだし、こっちに居ればいいだろうが」
これはもしかして、怒っている訳じゃなくて。
「拗ねてるんですか?」
「――うるせえ」
「きゃっ!」
歳三さんが後ろ手でドアを閉めると同時に抱き寄せられた。
千鶴のワンルームの玄関は、彼のところに比べて狭い。あわてて振り解いたりしたらどこかにぶつかりそうだ。
大人しく腕に収まっていたら、歳三さんの体温がじんわりと伝わってきた。
「千鶴が迎えてくれると思って、早く帰って来たんだがな」
「ご、ごめんなさい」
「いや、俺の家にずっと居るのは窮屈か?」
「そんなことありません! ただ、歳三さんが居ないのに、勝手にキッチンやリビングを使ったりして良いのかと思ってしまって……」
「……おまえな」
歳三さんは呆れ顔だが、こちらとしては真剣に悩んだのだ。
土日の連休が終わり、歳三さんの出勤を見送る。大学の入学式が数日先の千鶴は留守番だ。
再会してから二日、こんなに彼と離れるのは初めてだった。
(寂しかったなんて言えない……)
当たり前だが、歳三さんの家は彼の匂いがする。
医者の父と二人暮らしだった千鶴にとって、広い家に一人で居るのは慣れたものだったはずなのに。
こんな理由、大学生にもなって情けないだろう。
「俺は寂しかった。……あと焦った」
肩と背中にまわる腕がぎゅっと強くなる。
「おまえが、どっか行っちまった気がして」
「――そんなこと」
「ないだろ? 分かってる。……分かってるんだが、こっちに居るときは一声かけてくれ」
情けない男で悪いな、と歳三さんが苦く笑う。
後悔が沸きあがってくるとともに、心臓をぎゅっと掴まれた気がした。
自分のことだけ考えていた。
置き手紙だって、メールだってできたのに後回しにした。
「ごめんなさい」
「千鶴が謝ることじゃない」
「……わたし、歳三さんの匂いがする部屋で、一人で居るのがどうしても寂しくって。だから、自分のわがままでやったことです」
ごめんなさい、と再度謝ったけれど、歳三さんは難しい顔で私を見下ろしていた。
また何か失敗しただろうか。
しかし、怒っているのかも分からない。正面から抱き合っている体勢はお互いが近すぎるのだ。
とりあえず胸を手で押してみても、背中にまわった両腕はぴくりともしない。
「そんなもん、一緒に暮らしてりゃ同じ匂いになってくるだろ」
向けられた声は真剣だった。
「蝦夷で暮らしてたときの家はどうだった?」
「あ……そういえば、最初から二人だったので気になりませんでした」
「あとは時間の問題だろう。これからもできるだけ早く帰るようにするし、俺の家に居て欲しい」
「はい。でも、お仕事は無理しないで下さいね?」
「分かってる」
最後の返事だけは信用ならないけど、千鶴だって一緒にいる時間は長い方が良い。
彼の体調管理だけは心を鬼にして口うるさくなろう。
自分に気合いを入れる意味も込めて、歳三さんの背中をぎゅっと抱きしめ返した。
「明日からはきちんとお迎えしますね」
「おう」
満足そうな笑顔。
「おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
目と目を合わせて見上げるように笑いかければ、頭ひとつ分高いところにあった彼の顔がゆっくりと落ちてくる。
触れるだけの口付けは、ぬくもりを分け合うとすぐ離れて行った。
すぐに首筋に顔を埋められる。
頬を擦りつけられてくすぐったい。
甘え方がまるで子供のようで、少し可愛いと思ってしまう。
「はー……疲れが吹っ飛ぶな」
「ふふ、本当ですか? それならいくらでもどうぞ」
「言ったな」
手が近づいてきて前髪を梳かれたと思ったら、晒された額に軽い口付けを受ける。
綺麗な紫色の瞳は千鶴だけを移している。
ただ幸せだと思った。
やっぱり夢なのではないかと、無意識に疑ってしまうほどに。
「なんか美味そうな匂いがする」
「夜ご飯、少し味を調えたらもう盛り付けるだけです。召しあがりますか?」
「そうだな、頼む」
気付けば二人、狭い玄関で抱き合っている。
おかしくて顔を見合わせて笑った。
千鶴がよく知るふたつの足音が近づいてくるのは、あと少し先のことである。
<続>
仲間と再会編2話目。過去作品はこちらからどうぞ→<作品リスト>
2014/5/17 設定を残して書き直し
空色のつづき(2)
わたしは何かやってしまったのだろうか。
『……俺だ』
インターホンのカメラが映した歳三さんの顔はすっかり不機嫌だった。こんなに眉間に皺を寄せているのを見るのは、今世では初めてかもしれない。
低く這うような声に答えられないでいると、早く玄関を開けろと言われる。
恐る恐る重いドアを開ければ、仕事帰りでスーツを着たままの歳三さんが立っていた。
「……あの」
「何で俺の家に居ない」
「え?」
「荷物はほとんど俺の家に運んだし、こっちに居ればいいだろうが」
これはもしかして、怒っている訳じゃなくて。
「拗ねてるんですか?」
「――うるせえ」
「きゃっ!」
歳三さんが後ろ手でドアを閉めると同時に抱き寄せられた。
千鶴のワンルームの玄関は、彼のところに比べて狭い。あわてて振り解いたりしたらどこかにぶつかりそうだ。
大人しく腕に収まっていたら、歳三さんの体温がじんわりと伝わってきた。
「千鶴が迎えてくれると思って、早く帰って来たんだがな」
「ご、ごめんなさい」
「いや、俺の家にずっと居るのは窮屈か?」
「そんなことありません! ただ、歳三さんが居ないのに、勝手にキッチンやリビングを使ったりして良いのかと思ってしまって……」
「……おまえな」
歳三さんは呆れ顔だが、こちらとしては真剣に悩んだのだ。
土日の連休が終わり、歳三さんの出勤を見送る。大学の入学式が数日先の千鶴は留守番だ。
再会してから二日、こんなに彼と離れるのは初めてだった。
(寂しかったなんて言えない……)
当たり前だが、歳三さんの家は彼の匂いがする。
医者の父と二人暮らしだった千鶴にとって、広い家に一人で居るのは慣れたものだったはずなのに。
こんな理由、大学生にもなって情けないだろう。
「俺は寂しかった。……あと焦った」
肩と背中にまわる腕がぎゅっと強くなる。
「おまえが、どっか行っちまった気がして」
「――そんなこと」
「ないだろ? 分かってる。……分かってるんだが、こっちに居るときは一声かけてくれ」
情けない男で悪いな、と歳三さんが苦く笑う。
後悔が沸きあがってくるとともに、心臓をぎゅっと掴まれた気がした。
自分のことだけ考えていた。
置き手紙だって、メールだってできたのに後回しにした。
「ごめんなさい」
「千鶴が謝ることじゃない」
「……わたし、歳三さんの匂いがする部屋で、一人で居るのがどうしても寂しくって。だから、自分のわがままでやったことです」
ごめんなさい、と再度謝ったけれど、歳三さんは難しい顔で私を見下ろしていた。
また何か失敗しただろうか。
しかし、怒っているのかも分からない。正面から抱き合っている体勢はお互いが近すぎるのだ。
とりあえず胸を手で押してみても、背中にまわった両腕はぴくりともしない。
「そんなもん、一緒に暮らしてりゃ同じ匂いになってくるだろ」
向けられた声は真剣だった。
「蝦夷で暮らしてたときの家はどうだった?」
「あ……そういえば、最初から二人だったので気になりませんでした」
「あとは時間の問題だろう。これからもできるだけ早く帰るようにするし、俺の家に居て欲しい」
「はい。でも、お仕事は無理しないで下さいね?」
「分かってる」
最後の返事だけは信用ならないけど、千鶴だって一緒にいる時間は長い方が良い。
彼の体調管理だけは心を鬼にして口うるさくなろう。
自分に気合いを入れる意味も込めて、歳三さんの背中をぎゅっと抱きしめ返した。
「明日からはきちんとお迎えしますね」
「おう」
満足そうな笑顔。
「おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
目と目を合わせて見上げるように笑いかければ、頭ひとつ分高いところにあった彼の顔がゆっくりと落ちてくる。
触れるだけの口付けは、ぬくもりを分け合うとすぐ離れて行った。
すぐに首筋に顔を埋められる。
頬を擦りつけられてくすぐったい。
甘え方がまるで子供のようで、少し可愛いと思ってしまう。
「はー……疲れが吹っ飛ぶな」
「ふふ、本当ですか? それならいくらでもどうぞ」
「言ったな」
手が近づいてきて前髪を梳かれたと思ったら、晒された額に軽い口付けを受ける。
綺麗な紫色の瞳は千鶴だけを移している。
ただ幸せだと思った。
やっぱり夢なのではないかと、無意識に疑ってしまうほどに。
「なんか美味そうな匂いがする」
「夜ご飯、少し味を調えたらもう盛り付けるだけです。召しあがりますか?」
「そうだな、頼む」
気付けば二人、狭い玄関で抱き合っている。
おかしくて顔を見合わせて笑った。
千鶴がよく知るふたつの足音が近づいてくるのは、あと少し先のことである。
<続>
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