空色のつづき（１１）【終】

土千転生シリーズです。
仲間と再会編の最終話です。過去作品はこちらからどうぞ→＜作品リスト＞
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空色のつづき（１１）【終】




結局。
歳三さんは笑っていれば良いのだと言ってくれたのに、私は泣いた。
待ちきれなかったらしく、道場の玄関で出迎えてくれた近藤さんの手はあたたかかった。
強く握られた手に滴が落ちる。近藤さんの満面の笑顔は涙でぼやけて見えた。
記憶のなかの近藤さんはいつも笑顔だった。流山で別れたときも、確かに彼は笑っていた。とてもやさしくて、とても強い人だった。

「雪村くん。ずっと、歳のそばに居てくれてありがとう」
「いいえ……わたしが、私がそうしたかっただけなんです」
「ああ、それでも良いんだ。俺が礼を言いたいだけでな」

また会えて嬉しいですとか、またよろしくお願いしますとか、ありきたりでも伝えたい言葉はたくさんあったはずなのに、上手く口にのせることができない。代わりに涙ばかりがぼろぼろと零れた。
そんな私を、近藤さんは嬉しそうに眺めている。

「……そうだな。一番礼を言いたいのは、今も歳と一緒に居てくれていることだな！」

よろしく頼むぞ！　と握られた手をぶんぶんを振られる。
同時に、背後からため息が聞こえた。

「近藤さん……俺は子供か」
「なんだ歳。頼めば皆が手助けしてくれるというのに、おまえが無理ばかりするから、俺は心配していたんだぞ」
「歳三さん……そんなに無理ばかりなさってたんですか？　先ほどから、皆さん同じことを言いますが」
「……まあな」
「歳三さん」
「だから、もうおまえが居るんだから心配ないだろうが」

横に立った歳三さんの顔を覗き込むと、苦い顔をして逸らされてしまう。

「はは！　すっかり尻に敷かれているなあ。歳！」
「こ、近藤さん。私、そんなつもりは……！」

晴れやかな笑い声が玄関に響く。
私は撤回しようとおろおろとして、歳三さんは顔に手をあてて参っていた。しかし、歳三さんが突然こちらを向いたと思うと、腰を引き寄せられる。

「近いうちに嫁さんになるんだから、尻に敷かれてたって良いじゃねえか」

頭上から降ってきた言葉に驚いて見上げると、少し恥ずかしそうに目尻を染めた歳三さんの顔。
親しい人にしか見せないそれは、彼が今でも近藤さんを信頼している証だ。

「あと、いくら何でも、もう千鶴の手は握ってなくても良いだろ」
「ああ！　これはすまんな！」

握られていた近藤さんの大きな手が放される。
謝罪を口にしつつ、近藤さんはすこぶる機嫌が良さそうだ。笑顔には一切の曇りがない。
顎に手をあてて、うんうんと頷いている。

一方、わたしの腰を抱く歳三さんはといえば、今さら恥ずかしくなったのか、あとに続く言葉が見つからないらしい。
先ほどの言葉はもちろん嬉しかったが、やはり恥ずかしい気持ちがわくのは彼と変わりない。さらに、人前で腰を抱かれているこの状況はひどく落ち着かなかった。
それに全く気付かない近藤さんは「まったくお似合いだな」「結婚式はいつなのだろうか」などと独り言をくり返している。
ここは千鶴が何とかするべきなのだろうか。
必死に言葉を探していると、道場へ続く扉がそろそろと開いた。

「あの～……良いところで悪いんだけど、そろそろ中に入んねえか？」
「だな。後ろが詰まってるぞ」

顔を出したのは、永倉さんと原田さんだ。
振り向くと、開けっ放しの玄関の外には、料理を持ったまま立ち尽くす皆さんが居た。

「近藤さん。嬉しいのは分かるけど、時間はいっぱいありますから。あとは皆でごはん食べながらにしません？」
「そうそう！　せっかく千鶴が作った飯が冷めちまうよ！」
「……土方さん。申し訳ないのですが、そろそろ雪村を放してやらないと皆が入れません」

早く中に入れと口々に言われ、あっという間に道場に押し込まれた。
板の間に座布団という光景は懐かしく、ひどく賑やかで、全員が笑っている。
涙は気付いたら止まっていた。
あの日は、それからずっと笑っていたように思う。

＜終＞

2014/10/25 (Sat) 土千　転生 Comment(0)