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土千転生シリーズです。
仲間と再会編10話目。過去作品はこちらからどうぞ→<作品リスト>
2014/10/5設定を残して書き直し
空色のつづき(10)
「そういえば、近藤さんはいついらっしゃるのでしょうか?」
「あと一時間ほどだと思いますよ。取引先へ赴いている近藤さんを、土方さんが迎えに行くそうです」
煮物の火加減を見てくれていた島田さんが教えてくれる。
「今日のために、近藤さんの予定を頑張って調整したからねえ。大丈夫だと思うよ」
「えっと、井上さんと島田さんも、近藤さんの会社で働かれているのですよね?」
「ああ、私は近藤さんの秘書をやっている。島田君は総務部だが、人事から会計までできるんだよ」
「そうなんですね!」
「そんな、大げさですよ」
微笑ましい井上さんと島田さんの会話を聞いていると、隣で盛り付けをしていた斎藤さんが「二人共とても優秀だ」と耳打ちしてくる。
もちろん、誠実な斎藤さんも、例にもれず優れた社員なのだろう。
「雪村くんは、近藤さん以外であと誰に会っていないのかな?」
「えっと、おそらく」
皆さんの顔を思い浮かべる。
歳三さんから、記憶を残して今世に生きている人たちの名は一通り聞いていた。そして、まだ会えていない人といえば。
「千鶴ちゃん、料理まだ終わらないの? 新八さんは腹減ったって騒ぎ出すし、つまんない」
「おっ、めっちゃうまそうじゃん! さっすが千鶴!」
名前がそこまで出かかっていた……けれど。
にぎやかな声に集中力は霧散してしまう。キッチンへ顔を出したのは、待ちきれなくなったらしい沖田さんと平助くんだった。
「沖田さん、お仕事お疲れ様です。もうすぐ出来ますから待っていて下さい。平助くんもね」
「これでも、千鶴ちゃんが来る前から道場に居たんだけどなあ……」
「総司、また有休で早退したのか?」
「平助と違って優秀だからね。寝坊とかしないし」
「そ、そんなしょっちゅう寝坊してる訳じゃねえし!」
「まじめに仕事して終わらせたんだから、どう休むかは自由でしょ」
「では、業務中に営業部へ行って土方さんをからかうのは、優秀な社員として止めて差し上げろ」
「え?」
途中、聞こえるはずのない声が混じる。
「おや、山崎くん。突然会話に入っては、雪村くんが驚いてしまいます」
視線を向けたとき、思いがけない声はまたひとつ増えていた。
山崎さんと、山南さんだった。
「……お久しぶりです……!」
「ああ、久しいな、雪村くん」
「これはこれは、現代の女性の格好をした雪村くんというのも新鮮ですね」
急いで手放そうとしてたフライ返しは「残りはやっておくから気にしないでおくれ」と微笑んだ井上さんに回収された。
「原田くんに、もうあなたが来ていると聞きましてね。料理中に申し訳ない」
「そんなことありません。お会いできてとても嬉しいです! 山崎さんも、ありがとうございます」
「いや、俺と山南さんが、早く君に会いたかっただけだからな。元気な姿を見ることができて満足だ」
やはり、二人もスーツ姿だ。仕事終わりに、わざわざ来てくれただけでも有難い。
前世ではつらい別れをした。
穏やかに笑ってくれる姿を見れたことだけで嬉しい。満足というなら、それはこちらの台詞だろう。
「あーあ。千鶴ちゃん、あんなに嬉しそうな顔しちゃって。つまんないの」
「何ですか沖田さん。あなたは先に、土方さんの家にまで押しかけて、雪村くんに会ったそうではありませんか」
「山崎くんは相変わらず愛想がないよね。同じ部署の先輩に言う言葉かな……それに、行ったのは僕だけじゃないし?」
「俺は総司に誘われて行っただけだ」
「あ……あの」
「雪村くんは気にせずとも良いのですよ」
何やら険悪になってきた場におろおろしていると、山南さんに微笑まれる。
手招きをされたので、大人しく近くに寄ってみた。
本当に広いキッチンだ。この人数が入っても余裕があるし、離れたところで会話さえできる。
沖田さんに山崎さん、そして巻き込まれた様子の斎藤さんはまだ口論を続けていた。
「あれは、仲の良い証拠ですから」
「そうでしょうか……とても心配なのですが」
「ところで、雪村くんは土方くんと共に暮らしているとか」
「は、はい」
思い掛けず直球な質問に顔が熱くなる。
まさか、山南さんの口から、こういったことを聞かれるとは思っていなかった。
「では、そのうち結婚するのでしょうね。それは安心だ」
「あ、ああああの」
「今は私が副社長をしていますが、そのうち土方くんに代わるのは間違いありません。君なら、役目を負った彼を支えることができる」
「それは、あ、ありがとうございます……?」
いま、いろいろと衝撃的な言葉が並んでいたような気がするのだが、気のせいだろうか。
「土方くんを心配していたのです。もう現世なのですから、あんな働き方をせずとも良いのに、相変わらず無理ばかりしていたので」
「俺からも、土方さんを頼むぞ雪村くん。君がいない間のあの人は、危なっかしくて見ていられなかった」
沖田さんたちとの口論を終えたのか、山崎さんも加わる。
副長を頼む、なんて、前世では何度向けられた言葉だろうか。まさか、また同じようなことを言われるとは思っていなかった。
私では役不足ですとか、私が彼を必要としているんですとか、たくさんの言葉が浮かんだ。
しかし、口をついた言葉は、結局。
「はい……!」
「――俺は、千鶴がいないと何もできない子供とでも思われてたのか。情けねえな」
「歳三さん!」
肩に置かれた手。
見上げた先にいた歳三さんは、苦笑いを浮かべていた。
「事実でしょう? 土方くん」
「土方さんが倒れられては困るのです。俺も皆も、もちろん近藤さんも」
「……心配させる行動ばっかりで悪かった。もう大丈夫だ」
肩にあった手が腰にまわる。強く引き寄せられると、顔を覗き込まれた。
「そうだよな? 千鶴」
「は、はい。それよりあの、顔、近いです」
「今さら恥ずかしがることなんか無えだろ」
腕で押して離れようとしてもびくともしない。
「おやおや、見せつけられてしまいましたね」
「土方さん、大人気ないです」
今さら、なんて歳三さんは言うけれど、ここは人目がありすぎる。恥ずかしい。
嬉しそうな顔をしている人もいれば、呆れたり赤くなったりしている人も見て取れる。
何にせよ、皆がこちらを凝視していた。
「今世でもお二人が仲睦まじくしているところが見れるなんて……感動です!」
「いやあ、嬉しいねえ」
「ひ、土方さん、千鶴が困ってるんじゃねえか?」
「平助、二人の邪魔をするな」
「千鶴ちゃんあんなに赤くなっちゃって……かわいそうに」
皆が口々に感想を述べると、歳三さんが小さく舌打ちをした。
「おまえら、無駄口叩いてないでさっさと料理運ぶぞ! 近藤さんはもう来てんだからな!」
その一喝で空気が変わる。
てきぱきと料理は仕上がり、次々に運ばれていく。
手伝わないといけないと思うのに、なかなか身体は動いてくれなかった。
「千鶴は運ぶなよ、おまえはさっさと道場行くぞ。まったく、勝手に料理の手伝いなんかしやがって」
「ご、ごめんなさい、何もしないのは落ち着かなくて」
「……ん? 何だ、緊張してんのか?」
「えっと、緊張、というか……嬉しくて、どうして良いのか分からないのかもしれません」
両手をぎゅっと握り合わせる。
心がふわふわとして落ち着かない。
「おまえはな、笑ってれば良いんだよ」
ゆっくりと、握り合わせた手を解かれる。
「あのとき……新選組に閉じ込めてたときはな、つらい時でもやわらかく笑う千鶴に救われてた奴はたくさん居ただろうよ。同時に、無理をして欲しくないとも思ってた。でも、そうは言ってられないときだったんだ」
「皆さんが、それでも気遣ってくれていたのは、私が良く分かっています。それに、私は自分で新選組について行くと決めたんです」
「いいから聞け。だから、おまえが心から笑ってくれてれば良い。それだけで良いんだ」
ついに解かれた手を、今度は歳三さんの大きな手で握られる。
「分かったら、ほら、行くぞ」
「はい!」
あたたかい手を握り返す。
踏み出した足は軽くなっていた。
それでもやっぱり、ずっと見守られている様な、たくさんの視線は恥ずかしかったけれど。
<続>
仲間と再会編10話目。過去作品はこちらからどうぞ→<作品リスト>
2014/10/5設定を残して書き直し
空色のつづき(10)
「そういえば、近藤さんはいついらっしゃるのでしょうか?」
「あと一時間ほどだと思いますよ。取引先へ赴いている近藤さんを、土方さんが迎えに行くそうです」
煮物の火加減を見てくれていた島田さんが教えてくれる。
「今日のために、近藤さんの予定を頑張って調整したからねえ。大丈夫だと思うよ」
「えっと、井上さんと島田さんも、近藤さんの会社で働かれているのですよね?」
「ああ、私は近藤さんの秘書をやっている。島田君は総務部だが、人事から会計までできるんだよ」
「そうなんですね!」
「そんな、大げさですよ」
微笑ましい井上さんと島田さんの会話を聞いていると、隣で盛り付けをしていた斎藤さんが「二人共とても優秀だ」と耳打ちしてくる。
もちろん、誠実な斎藤さんも、例にもれず優れた社員なのだろう。
「雪村くんは、近藤さん以外であと誰に会っていないのかな?」
「えっと、おそらく」
皆さんの顔を思い浮かべる。
歳三さんから、記憶を残して今世に生きている人たちの名は一通り聞いていた。そして、まだ会えていない人といえば。
「千鶴ちゃん、料理まだ終わらないの? 新八さんは腹減ったって騒ぎ出すし、つまんない」
「おっ、めっちゃうまそうじゃん! さっすが千鶴!」
名前がそこまで出かかっていた……けれど。
にぎやかな声に集中力は霧散してしまう。キッチンへ顔を出したのは、待ちきれなくなったらしい沖田さんと平助くんだった。
「沖田さん、お仕事お疲れ様です。もうすぐ出来ますから待っていて下さい。平助くんもね」
「これでも、千鶴ちゃんが来る前から道場に居たんだけどなあ……」
「総司、また有休で早退したのか?」
「平助と違って優秀だからね。寝坊とかしないし」
「そ、そんなしょっちゅう寝坊してる訳じゃねえし!」
「まじめに仕事して終わらせたんだから、どう休むかは自由でしょ」
「では、業務中に営業部へ行って土方さんをからかうのは、優秀な社員として止めて差し上げろ」
「え?」
途中、聞こえるはずのない声が混じる。
「おや、山崎くん。突然会話に入っては、雪村くんが驚いてしまいます」
視線を向けたとき、思いがけない声はまたひとつ増えていた。
山崎さんと、山南さんだった。
「……お久しぶりです……!」
「ああ、久しいな、雪村くん」
「これはこれは、現代の女性の格好をした雪村くんというのも新鮮ですね」
急いで手放そうとしてたフライ返しは「残りはやっておくから気にしないでおくれ」と微笑んだ井上さんに回収された。
「原田くんに、もうあなたが来ていると聞きましてね。料理中に申し訳ない」
「そんなことありません。お会いできてとても嬉しいです! 山崎さんも、ありがとうございます」
「いや、俺と山南さんが、早く君に会いたかっただけだからな。元気な姿を見ることができて満足だ」
やはり、二人もスーツ姿だ。仕事終わりに、わざわざ来てくれただけでも有難い。
前世ではつらい別れをした。
穏やかに笑ってくれる姿を見れたことだけで嬉しい。満足というなら、それはこちらの台詞だろう。
「あーあ。千鶴ちゃん、あんなに嬉しそうな顔しちゃって。つまんないの」
「何ですか沖田さん。あなたは先に、土方さんの家にまで押しかけて、雪村くんに会ったそうではありませんか」
「山崎くんは相変わらず愛想がないよね。同じ部署の先輩に言う言葉かな……それに、行ったのは僕だけじゃないし?」
「俺は総司に誘われて行っただけだ」
「あ……あの」
「雪村くんは気にせずとも良いのですよ」
何やら険悪になってきた場におろおろしていると、山南さんに微笑まれる。
手招きをされたので、大人しく近くに寄ってみた。
本当に広いキッチンだ。この人数が入っても余裕があるし、離れたところで会話さえできる。
沖田さんに山崎さん、そして巻き込まれた様子の斎藤さんはまだ口論を続けていた。
「あれは、仲の良い証拠ですから」
「そうでしょうか……とても心配なのですが」
「ところで、雪村くんは土方くんと共に暮らしているとか」
「は、はい」
思い掛けず直球な質問に顔が熱くなる。
まさか、山南さんの口から、こういったことを聞かれるとは思っていなかった。
「では、そのうち結婚するのでしょうね。それは安心だ」
「あ、ああああの」
「今は私が副社長をしていますが、そのうち土方くんに代わるのは間違いありません。君なら、役目を負った彼を支えることができる」
「それは、あ、ありがとうございます……?」
いま、いろいろと衝撃的な言葉が並んでいたような気がするのだが、気のせいだろうか。
「土方くんを心配していたのです。もう現世なのですから、あんな働き方をせずとも良いのに、相変わらず無理ばかりしていたので」
「俺からも、土方さんを頼むぞ雪村くん。君がいない間のあの人は、危なっかしくて見ていられなかった」
沖田さんたちとの口論を終えたのか、山崎さんも加わる。
副長を頼む、なんて、前世では何度向けられた言葉だろうか。まさか、また同じようなことを言われるとは思っていなかった。
私では役不足ですとか、私が彼を必要としているんですとか、たくさんの言葉が浮かんだ。
しかし、口をついた言葉は、結局。
「はい……!」
「――俺は、千鶴がいないと何もできない子供とでも思われてたのか。情けねえな」
「歳三さん!」
肩に置かれた手。
見上げた先にいた歳三さんは、苦笑いを浮かべていた。
「事実でしょう? 土方くん」
「土方さんが倒れられては困るのです。俺も皆も、もちろん近藤さんも」
「……心配させる行動ばっかりで悪かった。もう大丈夫だ」
肩にあった手が腰にまわる。強く引き寄せられると、顔を覗き込まれた。
「そうだよな? 千鶴」
「は、はい。それよりあの、顔、近いです」
「今さら恥ずかしがることなんか無えだろ」
腕で押して離れようとしてもびくともしない。
「おやおや、見せつけられてしまいましたね」
「土方さん、大人気ないです」
今さら、なんて歳三さんは言うけれど、ここは人目がありすぎる。恥ずかしい。
嬉しそうな顔をしている人もいれば、呆れたり赤くなったりしている人も見て取れる。
何にせよ、皆がこちらを凝視していた。
「今世でもお二人が仲睦まじくしているところが見れるなんて……感動です!」
「いやあ、嬉しいねえ」
「ひ、土方さん、千鶴が困ってるんじゃねえか?」
「平助、二人の邪魔をするな」
「千鶴ちゃんあんなに赤くなっちゃって……かわいそうに」
皆が口々に感想を述べると、歳三さんが小さく舌打ちをした。
「おまえら、無駄口叩いてないでさっさと料理運ぶぞ! 近藤さんはもう来てんだからな!」
その一喝で空気が変わる。
てきぱきと料理は仕上がり、次々に運ばれていく。
手伝わないといけないと思うのに、なかなか身体は動いてくれなかった。
「千鶴は運ぶなよ、おまえはさっさと道場行くぞ。まったく、勝手に料理の手伝いなんかしやがって」
「ご、ごめんなさい、何もしないのは落ち着かなくて」
「……ん? 何だ、緊張してんのか?」
「えっと、緊張、というか……嬉しくて、どうして良いのか分からないのかもしれません」
両手をぎゅっと握り合わせる。
心がふわふわとして落ち着かない。
「おまえはな、笑ってれば良いんだよ」
ゆっくりと、握り合わせた手を解かれる。
「あのとき……新選組に閉じ込めてたときはな、つらい時でもやわらかく笑う千鶴に救われてた奴はたくさん居ただろうよ。同時に、無理をして欲しくないとも思ってた。でも、そうは言ってられないときだったんだ」
「皆さんが、それでも気遣ってくれていたのは、私が良く分かっています。それに、私は自分で新選組について行くと決めたんです」
「いいから聞け。だから、おまえが心から笑ってくれてれば良い。それだけで良いんだ」
ついに解かれた手を、今度は歳三さんの大きな手で握られる。
「分かったら、ほら、行くぞ」
「はい!」
あたたかい手を握り返す。
踏み出した足は軽くなっていた。
それでもやっぱり、ずっと見守られている様な、たくさんの視線は恥ずかしかったけれど。
<続>
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