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土千転生シリーズです。
仲間と再会編1話目。過去作品はこちらからどうぞ→<作品リスト>
※オリジナル要素を多少含みますので、苦手な方はご遠慮ください。
2014/5/11 設定を残して書き直し

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空色のつづき(1)




開けっ放しの窓から、ひらひらと桜の花びらが迷い込んできた。
ゆっくりと舞い落ちる様を眺めていると、パソコンのキーボードの上に着地する。
綺麗な桜色。
図面をひく手を止めて窓の外を見やると、ほとんど沈みかけた夕陽と満開の桜。
この建設会社の社長である近藤さんが好んで植えた桜だ。都会の喧騒にも負けず、毎年見事な姿を見せてくれる。
設計部は二階にあるので、仕事の合間に目を奪われることもしばしばだ。
舞い降りてきた花弁を指で拾い上げる。傷つけないようにそっと摘まんだ花弁は、くすみひとつ無く、そして薄く繊細だった。

(……もう、今日はここまでにするか)

遅くまで残業をするつもりだったが、何やら気が抜けてしまった。
この二階にある広いフロアは、部署ごとに壁などで仕切られていない。
観葉植物や低いキャビネットで区切られる程度で、ここからでもよく見渡せる隣は営業部だ。
いつもは夜が更けるまで姿がある営業部長の土方さんも、今日は珍しく帰って行った。

「ねえねえ、一君」

突然、真横から問いかけてくる声。
わざわざ気配を消して俺に近寄って来る者など、前世の時分から一人しかいない。

「……何だ、総司。残業中といえど仕事中だぞ」

目線を送った先には、予想通り総司が居た。
キャスター付の椅子に足を組んで座り、目を細めて笑っている。
同じ設計部だが、この男が残業している姿はあまり見ないように思う。
仕事の効率が良いというのもあるが、面倒な仕事をうまく避ける才能があるとも言えた。

「今日の土方さん、へんだと思わない?」
「俺は至って普通に見えたが」
「だって、あの土方さんが定時であがるなんて――絶対におかしい」
「……あの人だって、定時で帰るときくらいあるだろう」

言われてみると、土方さんが定時上がり、という姿は初めて見たかもしれない。
今世においても苦労が多い土方さんのことを考えれば、総司のからかいという一種の心労を避けて差し上げたいと思うのだが。

「なーんか嬉しそうだったし。浮足立ってるって言うの?」
「要するに何が言いたい」
「千鶴ちゃん、見つかったんじゃないかなあって」
「!」

総司の言葉に思わず息を飲む。
雪村が見つかった?
しかし、それでは我々に一言あっても良いのではないだろうか。

「たぶん、千鶴ちゃんを独り占めしたくて隠してるんじゃないかなあ」
「……そんなことは」

ある、かもしれない。
二人がかつて夫婦だったという話は、土方さんの口から聞いたことだ。
しかし、雪村が見つかっていないのは全員承知の事実で、それ以上は誰も聞くことができなかった。
「見つからねえもんは、どうしようもねえよ」と呟いた、土方さんの寂しそうな顔を今も覚えている。

かつての俺が、二人を知っているのは会津までだ。
あのとき、既に土方さんは雪村に気を許していたように思えるし、雪村に至っては副長しか見えていないのが明らかだった。
副長が、実は優しすぎる人間なのだと彼女は理解しすぎていたようにも思う。
そんな彼女も実に優しい人間で、裏表がなく正直で、しかし気が強かった。多感な少女時代を新選組の中で過ごしたから、いやに度胸が付いてしまったのは自分たちのせいかもしれないが。
後に、仙台に残された雪村は、半ば無理やり蝦夷に渡って来たと島田に聞いた。
あの副長が惚れた女性で、かつての伴侶。
羅刹になっていたはずの副長は、妻である雪村をおいて灰に消えたのだろうか。
――否。
そうでなくとも、想っているなら会いたいのは当然か。
現代でも鬼と呼ばれるあの人でさえ、独占欲を制御できないかもしれない。

「時が来れば、副長も俺たちに話してくれるだろう」
「一君、いまは『部長』か『鬼の営業部長』って呼んであげた方が良いよ」
「……すまん」

つい昔のことを考え過ぎていた。
しかし、後者の呼び名はいかがなものか。

「ということで」

よいしょ、と椅子から立ち上がった総司が晴れやかに笑った。

「これから、土方さんの家に行こうと思う」

――どうしてそうなる。
軽い足取りで帰り支度を始める総司を見て、ひたすら頭が痛い。
だがしかし。
聞いてしまったからには、土方さんの負担を減らすためについて行く義務があるだろう。

「手土産はケーキで良いだろうか」
「……千鶴ちゃんに会う気満々じゃない」

こんな総司でも、分かりにくいが悪戯をするときとは違った笑みを浮かべている。

「――…良かったですね、副長」

持ったままの花弁は、窓から外に帰してやった。桜色に塗り替えられていく地面のひとひらとなる。
また、皆で花見をできる日がやって来そうだ。

<続>
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