乙女ゲーム中心の二次創作サイト/小説ONLY
ようこそ♪
最新記事
作品リスト
カテゴリー
メールフォーム
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
土千転生シリーズです。土方さんお誕生日なので番外編SS。
新選組の仲間たちとは再会した後の設定になります。
はじめての記念日
「私のものばかり買ってもらってしまいました……今日は歳三さんの誕生日なのに」
「俺は楽しいから良いんだよ」
愛車の助手席で頬を膨らます千鶴。
車に乗り込んですぐ詰め寄られたので、なかなかエンジンをかけることができていない。
ショッピングモール屋上の駐車場から見える空は綺麗な橙色に染まっている。もうすぐ日が落ちるだろう。
「夕食だって、今日は私が歳三さんの好きな料理をたくさん作りたかったんです」
「それはほとんど毎日やってくれてんだろ」
「……気持ちの問題です」
今朝、起きたばかりでぼんやりしていた自分に千鶴が言った「お誕生日おめでとうございます」の言葉で気付いた。
今日は俺の誕生日らしい。
祝日だから人に会うことも少なかったし、ここ数年特に意味が無かったので忘れていた。
ちなみに、千鶴はこっそりと斎藤に聞いていたらしい。
やっぱり今世でも誕生日は変わらないんですねと言っていたあたり、今日だと予想はしていたのだろうが。
記念日なのでどこか行きたいところはあるかと千鶴が聞くので、この大型ショッピングモールにしてみたが、千鶴の機嫌はいまいちだ。
後部座席には、服やら雑貨やらの紙袋が積まれている。
そのほんとんどは千鶴のもの。
彼女が可愛いと呟いた服とか、じっと眺めていた髪飾りとかを、半ば無理やり買っていたらこうなった。
そもそも、ここに来たいと言った目的は千鶴と買い物がしたかった故なのだが。
テレビや雑誌を見て目を輝かせる彼女に買ってやると言ったところで、その場で断られて終わりだ。
明治の時代、既に隠居した自分には、千鶴を満足に着飾らせてやる甲斐性がなかった。
そんなものは無くても幸せだと笑う、桜色の着物を纏った彼女は確かに美しかった。
しかし、今度こそと思うのは仕方ないだろう。
「俺の仕事が忙しくて、ほとんど出掛けたりできなかっただろ。家事もほとんどやらせちまったし、礼だと思って受け取れ」
「……寂しかったのは、本当ですけど……」
千鶴が目を伏せる。
再会しておよそ一か月。できる限り早く帰る努力はしていたものの、年度の初めはやはり忙しかった。
まわりには「必死すぎて滑稽ですよ」とか「代わりに千鶴の話相手になってやろうか?」とか散々からかわれる始末。
後者にはもちろん睨みを利かせると同時に釘を刺してきた。
それでも夜遅くに帰宅する歳三を迎える千鶴はいつも笑っていたけれど、やはり寂しかったのか。
「なら、今日は穴埋めだ」
さらりとした前髪を流してやって額に唇をあてた。
夕日で橙色に染まっている車内でも、千鶴が頬を染めたのが分かる。
「今日は、ずっと一緒にいてくれますか?」
うつむいて、歳三のシャツを摘まんだ千鶴が問う。
どくりと心臓が騒いで、血液が上昇したのが分かった。
「――当たり前だろ」
「今日は、歳三さんの誕生日なのに……私ばっかり」
耳まで赤くした千鶴が見上げてくる。
抱きしめたい。
しかし、連休で満車になっている駐車場は常に人や車が行き交っている。
自分は気にしなくても、恥ずかしがりやの千鶴は怒るかもしれない。
いま機嫌を損ねるのは、これからの予定を考えると得策ではなかった。
「そう思ってくれるなら、これからレストランでゆっくり祝ってくれよ。ほら、車出すからシートベルト付けろ」
「は、はい」
助手席のシートベルトがかちゃりと締まった音を聞いて車を出す。
行き先は、ちょっとしたコース料理が出てくるレストランだ。
千鶴に黙って予約したのだが、それを聞いた彼女は少し残念な顔をした。
はりきって料理を振る舞おう思っていたことは想像に容易い。
しかし、今日はずっと千鶴と一緒に過ごそうと決めたのだ。
家に居ては、暇を持て余した邪魔者たちがいつ来訪してもおかしくないし、千鶴は家事をやろうとする。
少しでも離れないようにしたかった。
「千鶴に祝ってもらう時間は、今日これからたくさんあるぞ」
「え? たくさん?」
食事の後、ホテルを予約していることは千鶴に伝えていない。
薄く笑う歳三に、千鶴は助手席でおろおろとするだけだ。
まずは、家を出るときから大切そうに抱えているそのショルダーバッグ。その中身をレストランで受け取ろうか。
新選組の仲間たちとは再会した後の設定になります。
はじめての記念日
「私のものばかり買ってもらってしまいました……今日は歳三さんの誕生日なのに」
「俺は楽しいから良いんだよ」
愛車の助手席で頬を膨らます千鶴。
車に乗り込んですぐ詰め寄られたので、なかなかエンジンをかけることができていない。
ショッピングモール屋上の駐車場から見える空は綺麗な橙色に染まっている。もうすぐ日が落ちるだろう。
「夕食だって、今日は私が歳三さんの好きな料理をたくさん作りたかったんです」
「それはほとんど毎日やってくれてんだろ」
「……気持ちの問題です」
今朝、起きたばかりでぼんやりしていた自分に千鶴が言った「お誕生日おめでとうございます」の言葉で気付いた。
今日は俺の誕生日らしい。
祝日だから人に会うことも少なかったし、ここ数年特に意味が無かったので忘れていた。
ちなみに、千鶴はこっそりと斎藤に聞いていたらしい。
やっぱり今世でも誕生日は変わらないんですねと言っていたあたり、今日だと予想はしていたのだろうが。
記念日なのでどこか行きたいところはあるかと千鶴が聞くので、この大型ショッピングモールにしてみたが、千鶴の機嫌はいまいちだ。
後部座席には、服やら雑貨やらの紙袋が積まれている。
そのほんとんどは千鶴のもの。
彼女が可愛いと呟いた服とか、じっと眺めていた髪飾りとかを、半ば無理やり買っていたらこうなった。
そもそも、ここに来たいと言った目的は千鶴と買い物がしたかった故なのだが。
テレビや雑誌を見て目を輝かせる彼女に買ってやると言ったところで、その場で断られて終わりだ。
明治の時代、既に隠居した自分には、千鶴を満足に着飾らせてやる甲斐性がなかった。
そんなものは無くても幸せだと笑う、桜色の着物を纏った彼女は確かに美しかった。
しかし、今度こそと思うのは仕方ないだろう。
「俺の仕事が忙しくて、ほとんど出掛けたりできなかっただろ。家事もほとんどやらせちまったし、礼だと思って受け取れ」
「……寂しかったのは、本当ですけど……」
千鶴が目を伏せる。
再会しておよそ一か月。できる限り早く帰る努力はしていたものの、年度の初めはやはり忙しかった。
まわりには「必死すぎて滑稽ですよ」とか「代わりに千鶴の話相手になってやろうか?」とか散々からかわれる始末。
後者にはもちろん睨みを利かせると同時に釘を刺してきた。
それでも夜遅くに帰宅する歳三を迎える千鶴はいつも笑っていたけれど、やはり寂しかったのか。
「なら、今日は穴埋めだ」
さらりとした前髪を流してやって額に唇をあてた。
夕日で橙色に染まっている車内でも、千鶴が頬を染めたのが分かる。
「今日は、ずっと一緒にいてくれますか?」
うつむいて、歳三のシャツを摘まんだ千鶴が問う。
どくりと心臓が騒いで、血液が上昇したのが分かった。
「――当たり前だろ」
「今日は、歳三さんの誕生日なのに……私ばっかり」
耳まで赤くした千鶴が見上げてくる。
抱きしめたい。
しかし、連休で満車になっている駐車場は常に人や車が行き交っている。
自分は気にしなくても、恥ずかしがりやの千鶴は怒るかもしれない。
いま機嫌を損ねるのは、これからの予定を考えると得策ではなかった。
「そう思ってくれるなら、これからレストランでゆっくり祝ってくれよ。ほら、車出すからシートベルト付けろ」
「は、はい」
助手席のシートベルトがかちゃりと締まった音を聞いて車を出す。
行き先は、ちょっとしたコース料理が出てくるレストランだ。
千鶴に黙って予約したのだが、それを聞いた彼女は少し残念な顔をした。
はりきって料理を振る舞おう思っていたことは想像に容易い。
しかし、今日はずっと千鶴と一緒に過ごそうと決めたのだ。
家に居ては、暇を持て余した邪魔者たちがいつ来訪してもおかしくないし、千鶴は家事をやろうとする。
少しでも離れないようにしたかった。
「千鶴に祝ってもらう時間は、今日これからたくさんあるぞ」
「え? たくさん?」
食事の後、ホテルを予約していることは千鶴に伝えていない。
薄く笑う歳三に、千鶴は助手席でおろおろとするだけだ。
まずは、家を出るときから大切そうに抱えているそのショルダーバッグ。その中身をレストランで受け取ろうか。
PR
この記事にコメントする