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拍手[11回]







二人と二匹で、同居はじめました。(5)



「あの、どうでしょうか?」
「じゅうぶん過ぎるくらい美味いから、心配すんな」

作ったおかずひとつひとつに感想を聞いてしまう私に向かって、すこし困ったように微笑みながら土方先生が答えてくれる。
ダイニングテーブルについてふと気付けば、向かい合わせで食事をするのは初めてだ。
最初ここに来たときはとしぞーの看病に精一杯で、ゆっくり食事をしている場合ではなかった。――だから、席についてからずっと自分の心臓がうるさくて、それを隠すように質問ばかりしてしまう。
先に食事を終えた子猫たちは、わたしと先生の足元で丸くなって寝たり、うろちょろと走り回ったりしていた。

「お前にばっかり料理させんのも気が引けるんだが、俺が作っても食べられるもんにならねえからな」

焼き魚を箸でつつきながら先生がぼやく。
確かに、冷蔵庫にはミネラルウォーターとチーズ、あとは冷凍の枝豆といったお酒のつまみになるようなものしか無かった。他にはお米と最低限の調味料はあったものの、調理器具はほとんど新品のまま鎮座しているといった状況。
びっくりするのと同時に、これからは私がちゃんと食事を作ろうと、強い決心を抱かせるキッチンだった。
そんな理由で、近所のスーパーに連れて行ってもらったのだが、先生は調理するための食材はよく分からないようで、いつの間にかふらりと居なくなっては子猫用キャットフードを抱えて戻って来たりしていた。

「土方先生はとても器用だから、当然お料理もできると思っていました」
「手先が器用なのは、不思議と仕事関係だけなんだよな」

子供の頃から絵も工作もからっきしだ、と言って笑う。

「じゃあ、先生にとって獣医のお仕事は天職なんですね」
「まあ、俺が獣医だなんて、周りの奴らには柄じゃねえってよくからかわれるけどな」
「そんなことありません! だって、真剣にとしぞーを診てくれる姿は素敵ですし、お仕事されてる先生も、大好きです……から……」
「――そうか」

先生が目を細めた瞬間、自分の発した言葉が、脳内で何回も反復する。

「……あ、ああの」

とんでもなく恥ずかしいことを言ってしまった。
これではまるで告白したようなものだ――なんて後悔をするより先に、細められた目がこちらを真っ直ぐ見つめてくる。その瞳から目が離せない。
というか、手が。土方先生の、大きい手が。箸を持っていない方の私の手に重ねられてしまっていた。

「千鶴、ありがとな」
「……!」

どうしよう。
どうしようどうしよう、何か答えないと。
でも、頭は混乱して顔は熱いし、手が触れているところはもっと熱く感じる。いま冷静に考えることなんてできそうにない。それどころか、顔の熱は上がる一方で、勝手に涙がにじんでくる始末。
こんなときに限って、としぞーは食後の睡眠を満喫しているし、ちづは転がったおもちゃを追いかけて走り去って以来、見ていない。

「千鶴。前から言いたかったんだが」
「あのっ! ご飯が冷めてしまいますから、先生も早く食べましょう!」

重ねられた手を握られる予感がして、反射的に腕を引いてしまった。やっと空気に触れた手の甲がひんやりとする。
それでも、先生は私から視線を外してはくれない。私に聞く気がないのなら勝手にするとばかりに、言いかけて止めていた言葉を続けてしまう。

「何とも思ってない女と、一緒に暮らしたりしないからな」
「え、と。それは」
「男として、千鶴が好きだ」
「………」

先生が、私を好き?

「千鶴、おまえはどうなんだ?」

そんな夢みたいなことが、現実に起こるのだろうか。もしかして、からかわれている?
でも、真っ直ぐな先生の目は嘘をついているように見えなくて、ますます頭が混乱を極める。
だって、だって先生が好きだと気付いたときからずっと私が勝手に好きで、女性に困りそうもない先生が、私みたいな子供を好きになるはずがない。
それに、同居して一日も経っていないから、自分の良いところは全然見せることができていない。
いったい、私のどこが好きだというのか。

「新しいお茶、注ぎ足すので持ってきますね」

ぐちゃぐちゃな思考のなかで、自分でも驚くほど平坦な声が出た。
しかし、まったく返事になっていない。先生が困った顔をしている。当然だ。
その空気に耐え切れず、キッチンへ逃げようと思って椅子から立ち上がった瞬間、手に当たったグラスが床に落ちて勢いよく割れた。

「あっ……!」

足元で寝ていたとしぞーが、いつの間にか居なくなっていたことだけが救いだ。

「おい! 大丈夫か?」
「――ごめんなさい……!」

まともに会話ができないどころか粗相をするなんて。やっぱり、こんな自分を先生が好きになる訳がない。
そんな雑念に囚われていたら、拾ったガラスで指を切ってしまった。

「いたっ」

初めは一筋の線だった傷から鮮血があふれてくる。心臓の鼓動に合わせてじんじんと痛んだ。

「素手で拾うな! 血が出てんじゃねえか」

先生が私の腕を掴み、体ごと引っ張られる。水道で傷口を洗われて新しいタオルで押さえられたが、その間もずっと無言だった私をソファに座らせて、先生は黙々と破片を片づけ始めた。
(本当に、情けない)
片づけが全て終わると、呆然とする私の横に先生が腰を下ろした。きしりとたわむ感触がどこか遠くに感じる。

「片づけは終わったから、気にすんな」
「……わたし、手伝いもしないで」
「いや、俺が突然すぎたんだ。驚かせてケガまでさせて、悪かった」
「――先生のせいじゃありません! ……わたしが、子供だから。ぜんぶ私のせい」
「千鶴?」
「わたし、しばらく頭冷してきますね」
「おい、千鶴」
「ごめんなさい……迷惑、ばっかりかけて」

やっぱり冷静に言葉を返すことができないけれど、せめて謝罪だけは伝えることができて良かった。ここに居ては先生を困らせるばかりだと、回らない頭でかろうじて判断する。
決めたからには早く行動。
いま自分にできることは、先生をこれ以上困らせないように頭を冷やすこと。それしかない。
すくと立ち上がりするりと部屋に入った自分は、かつてなく無駄のない動きをしていた。
自室の鍵をかけてしまえば、そこには見慣れたいつもの家具。としぞーもいない、久しぶりに一人ぼっちの空間だった。
でも、頭を冷やすにはちょうど良い。まだ血の止まらない指の痛みが、少しばかり頭を冷静にしてくれる。
ふらふらとベッドに倒れこんで、毛布にくるまった。
(ここから出たとき、先生に、なんて言おう)
告白に聞く耳を持たず、ものを壊して勝手に傷を負い、挙句の果てに閉じこもっている。
がっかり、どころではない。――嫌われたかもしれない。
考えれば考えるほど、自虐と後悔ばかりが浮かんできてどうしようもない。
やわらかい毛布に顔を押し付けて、頬を流れず染みこんでいく涙に気付かないふりをした。

<続>
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