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人×吸血鬼の現代パロ。転生風味です。
前編と後編に分かれます。


拍手[22回]







上手に待つ方法をおしえて(前)





最近、すこし――いいえとっても、困ったことになっています。

「おい。いい加減、俺の血を飲め」

大学の夜間授業を終えた帰り道。
レンガ造りの校舎の壁を背にして、逃げ道を塞がれていた。
顔の左右には逞しい腕。目の前には端正な顔。鋭く光る紫色の瞳が、暗闇でもひどく綺麗だ。
吸血鬼らしくないと評される自分より、よっぽど彼の方がそれらしい。

「……わたし、血なんて吸いたくありませんから」
「おまえの都合を聞いてるんじゃなくて、俺が吸って欲しいんだよ」

近くに寄せられる首筋が視界に入りそうで顔を背ける。その薄い皮膚の下に新鮮な血が流れている事実は、吸血鬼である千鶴にとってひどく甘美な誘惑である。
しかも、それを差し出す土方という男は、息を飲むほどの美丈夫だった。
人間の血を啜ることに嫌悪感を抱く千鶴であっても、彼の血が美味しいのは本能で分かる。
しかし、だ。

「何度も言っていますが、あなたを吸血鬼にする訳にいきません!」

吸血鬼に血を吸われた人間は、同じものになる。
言伝えに都合よく色をつけたような設定だが、悲しいことに事実であった。
人間にあまり知られていない事といえば、血を吸われて吸血鬼になった者は、古来から吸血鬼である一族と待遇が違うことであろうか。
千鶴たちには地位があり、人間たちから身を守る術を所有しているが、他の者たちは違う。
突然変異した身体に対応できず、狂ったように人間を襲い討伐されるか、血に飢えて餓死するか、大体はどちらかである。
だから、人間から直接血を吸うことは滅多にない。少なくとも千鶴には経験がないし、したいとも思わない。
間接的に、体外に出された血を飲めば良いだけだ。もっとも、味は劣るのだが。

「俺がそれで良いって言ってるんだから、良いんだよ」
「……どうして」
「千鶴が好きだから」
「……そんなの、嘘です」
「おまえがそう思うなら、それで良いよ」
「私に好意を寄せてくれる、その理由が分かりません」
「分からないなら、それで良いんだ」

千鶴の目の前で、土方が曖昧な笑顔をつくる。
(また、その顔)
口元は笑っているのに、眉間には皺。悲しんでいるのか怒っているのか分からないが、不思議と千鶴の胸がつまる。気付かないうちに、ワンピースの胸元をぎゅっと握りしめていた。
彼のこの表情を初めて見たのは、一月ほど前だろうか。
そうだ。満月が、雲ひとつない夜空にぽっかりと浮かんでいた。人間が見たら綺麗と言うだろうが、吸血鬼にとっては毒である。
本能が刺激されて引っ張り出される。喉が渇き、無性に血を欲するのだ。
簡単にいえば、その日は油断していた。千鶴の家系は由緒正しいと言われるだけあって飢えに強かったが、完全ではない。
ひときわ強い月光にあたりすぎた。

「……千鶴?」

人気のない、広場を突きぬけるように続く歩道。行儀良く配置された樹木に、点々と光る街灯。
喉の渇きに耐えかねて、帰路を急いでいた千鶴にかけられた声は、知らない男性のものであるはずなのに不自然がなかった。
だから、思わず振り向いてしまったのだ。

「――…っ! おい!!」

千鶴が思うより、その男性は近くに寄ってきていた。視線が首筋に釘づけとなる。瞳が、月に同化したような金を示した。
背が高い彼の肩を鷲掴みにして、縋りつくように歯を立てる寸前。

「千鶴!」

相手のあげた声が頭に届き、間一髪で自我を取り戻す。
しかし、むき出しになった鋭い犬歯と、人間の女性と思えない腕力は、千鶴が人外であることをはっきりと示していた。

「……ご、ごめんなさい!!」

力強く呼ばれた名前。飢えに朦朧としていた思考が引っ張り上げられるような感覚だった。
そして、冴えた頭は、同時に千鶴を狼狽させる。
どうしたら良いのだろう。人を、人間を、襲ってしまった。

「ご、ごめんなさい」

口からは、ただ謝罪の言葉しか出てこない。
目の前の男性に興奮している様子はなかったが、こわくて顔を上げられなかった。化け物と罵られるかもしれなかったし、千鶴を恐れて逃げ出すかもしれなかった。
(どうして私は、吸血鬼なのだろう)
見た目は変わりないのに、家族は自分たちのことを吸血鬼と呼ぶ。討伐を恐れ、人間のふりをして暮らす。ずっと違和感を感じていた。
しかし、血への欲求に桁違いの体力、老いない身体は、千鶴へ事実を叩きつける。いま人を襲ったことで、あらためて知らされたのだ。自分は人外のもので、人間を害する存在なのだと。
半ば呆然とうつむく。視界の先にあった男物の革靴と、スーツのスラックスらしきものだけを、ひたすらに見つめていた。

「……気にするな」

向けられた言葉は、どうにも、人外のものに襲われた人間が発するものにふさわしくなかった。
しかし、脳内が混乱を極めている千鶴はその事実に気付けない。勝手に自分を追い詰めて、瞳にじわりと涙を溜める。ほとんどは自己嫌悪によるものであった。

「それより」
「え?」
「俺の顔、見ろ」

大きな手に頤を掴まれる。
無理やり視界に収まったのは、ひどく綺麗な男性の顔。紫色の瞳に満月が映ってくらりとした。
月光にあてられては、また襲いかかってしまうかもしれない。
しかし、視線を逸らしたいのにできなかった。月を映したその瞳は、何かを期待するように千鶴を見つめる。
先ほどまで焦りと嫌悪で下がっていた体温が、急速に熱を帯びて頬を染めた。これを、世間では一目惚れとも呼ぶのだが、疎い千鶴は自覚できない。

「あ、あの、とても整ったお顔、というのは分かったのですが……」

ようやく発した千鶴の言葉は、彼にとって期待外れであったらしい。眉間に皺を寄せて、あいまいに笑う。

「そうか。分からないか」
「えっと……すいません」

いったい何が分からないのか、彼は言葉にしてくれなかった。

「土方歳三」
「は、はい?」
「俺の名前だ。覚えといてくれ」

頤から手が離されて、目の前にあった彼の身体が離れる。すこしだけ、寂しいと思ってしまった理由は考えつかなかった。
もちろん、どうして土方が千鶴の名前を知っていたかなんて、考える余地もないことである。

<続>
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