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海辺できゃっきゃする土千を書きたくて、こっそりツイッターにあげたSSを加筆しました。
現代設定。とても短いです。
もっとわがままに
車から降りて砂浜に着くなり、すぐさまパンプスを脱いで海へ向かう千鶴。
沈みかけた夕日は、水面と彼女の白いブラウスを橙色に変える。きらきらと光る海が眩しくてほんの一瞬目を細めた。
嬉しそうに小走りで波打ち際へ行く様子は、もとから顔立ちが幼い彼女をより子供っぽく思わせたが、夕日を背にしてこちらを振り向いた笑顔は息を飲むほど綺麗で思わず瞬きを忘れる。
俺を置いて行ってしまった彼女を目で追いかけながら、砂浜についた小さい足跡をゆっくりとたどった。
「はやく、一緒に行きましょう」
ゆっくり歩く俺を待ちきれなかったのか、不満気に一度引きかえしてきた千鶴が手を引いて波打ち際まで連れて行く。
冬に入りかけたこの季節、肌寒い潮風が吹く砂浜には2人しかいない。
千鶴の白い素足に冷えた波がゆっくりと乗る。
さすがに冷たくて驚いたのか、大きな目を余計まんまるにして足元を見つめたあと、すぐこちらに向き直り「冷たくて驚きました」と困ったような嬉しいような顔で笑った。
艶があって細い黒髪が潮風でやわらかく揺れている。
はしゃいで体温が上がったのか、寒いはずの波打ち際でも千鶴の頬は赤いまま。繋がれた手から感じる体温も暖かだ。
「…海、とっても綺麗ですね…!」
「…そうだな」
――お前の方が、よっぽど綺麗だよ。
実はそう言いたかったのに、恥ずかしさが勝って言葉にならない。
「どうかしましたか?」
すると知らずに苦い顔をしていたのか、千鶴が不思議そうに首をかしげた。
なんでもないと返してみたがじっと顔を見つめられる。不満があるというより、俺を観察しているといった風で居心地が悪い。
目をそらすこと数秒、繋がれていない空いた右手で、潮風に揺らされていた俺の前髪をさらりと耳にかけてきた。
「――…歳三さん、綺麗」
そう言い切ってにこりと微笑む千鶴。
突然顔に熱が集まって来るのが分かって、千鶴の頭を自分の胸に引き寄せた。
「…これじゃあ、お顔が見えません」
「お前がそんなこと言うから」
「わたし、思ったことを言っただけです」
本当は俺が言いたかっただなんて今さら言えなくて、それ以上の反論はできなかった。
黙り込んだ俺に千鶴がいたずらっぽく「わたしの勝ちですね」と言ってのけると手を離された。
背を向けて車の方へ歩くところを見ると、もう海には満足したらしい。
「わざわざ連れて来てやった礼は無しか?」
「わたしの勝ちだから良いんです」
「…言ってくれるじゃねえか」
最近は、俺の前ではずいぶん自由に振る舞うようになったと思う。
教育の成果かと自賛してみるが、押し負けることが多くなってきたのはいかがなものか。
しかし、千鶴になら振り回されるのも悪くないと思ってしまう自分に苦笑いを浮かべる。
早く車に戻らなければ、また遅いと言われてしまうだろうか。
小さくなっていく千鶴の背中を追った。
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