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10/8ラヴコレにて無料配布したペーパーです。
発行した合同本に載せたお話の続きですが、これだけでも読めます。

SSLで千鶴ちゃんが卒業後設定。
カフェで初デート。

拍手[15回]







これからどこに行きたいかと聞けば、千鶴が目を輝かせて告げたのはどこにでもあるようなカフェだった。
 
 



千鶴ちゃんの薬指にリングが光るまでの小話(※タイトル)
 



 
対面のテーブルで、嬉しそうに目を細めながら熱いミルクティーに口をつける千鶴を見るとむず痒い気持ちになる。
店員に通されたのは窓際の席で、綺麗な夜景が見えるといった訳でもないが、千鶴はいま猫が通ったとか月がきれいだとか嬉しそうに伝えてくる。
自分はといえば、改めて目に入ってくる千鶴の下ろした髪とか見慣れない私服に慣れることができず、言葉少なくコーヒーをすすっていた。

「……本当に、こんなところで良かったのか?」

準備をすることができない展開だったにしても、初めて二人きりで外出しているのだ。まだ千鶴に我慢をさせている気がして無意識に眉間が寄る。

「わたし、土方先生とこうやって外でお茶するの、ずっとずっと夢だったんです…」

顔を赤くして、両手でつかんだティーカップを見つめながら話す千鶴。しかし、自分の言った言葉が徐々に恥ずかしくなってきたのか、どんどん下に俯いてしまい、髪に遮られて表情がよく分からなくなる。
この3年間、普通のカップルが当たり前にすることを、どれだけ千鶴は憧れていたのか。

「…悪かった。」
「そんな!先生は悪くないです!」
「…そうか。」
「わたしが、勝手に夢見てただけ…で、…」

不意にするりと頬を包むように撫でれば、あっという間に耳まで紅潮させた顔で固まってしまう。
先程は何度も口付けを交わしたというのにと思いながら落ち着くのを待つ。
 
「せ、せんせい?」
「…それでだ、いつになったらそれを俺に渡してくれるんだ?」

土方が千鶴の鞄と一緒に置いてあった小さな紙袋に目線をやれば、あわてて両腕で抱え込む。

「こ、これは…!」
「千鶴がペアリングが良いって言ったんじゃねえか。」
「そう…なんですけど…」

ずるいと思いながら迫ってみれば、千鶴は恥ずかしいのか泣きたいのか分からないといった複雑な表情で必死にペアリングの入った紙袋を抱きしめている。
 
 

――いざ店でリングを買うとなったとき、千鶴がペアリングは止めたいと言い出して土方を困惑させた。
結局、金を出す権利を使って土方が無理やり購入したが、千鶴はそれを受け取った後、ペアであるはずの土方のリングを渡そうとしない。
 
 

「なんで渡してくれねえんだ?」
「だって…!」

まず、未だ紙袋に入ったままというのも本意ではない。
自分は別に良いとして、千鶴がつけなくては意味が無い。彼女が自分のものである事実を周りに示すことができなくては。
指輪を贈ると伝えたときは嬉しそうにはにかんでいたのに、どういう心境の変化なのか。

「――だって、こんなに子供っぽいままの私が、彼女になったばかりの私が、先生に指輪をつけさせるなんて…それに、」
「…それに?」
「せ、先生は女性の目を引くから、私のものだってことが少しでも目に入れば…なんて……思っちゃいました…」

こんな気持ち知られたくなかったんです…と消え入りそうな声で言いきった千鶴の腕から、隙を見て紙袋を取る。

(まったく、こいつは…)

不安気な顔で何を言い出すのかと思えばこれである。
無意識に告げられた独占欲。たまにこうやって爆弾を落としてくるから気が抜けない。

「先生?」
「…いいじゃねえか、それで。」
「でも…」
「俺は、お前のものってことだろ?」
「えっ…!」
「何か違うのか?」
「――い、いいえ…先生は私のものだから…ペアリングが欲しいなって…思ったんです。」
「――…ほら、右手出せ。」

おずおずと出された手は、間接照明だけの店内でも白くて綺麗だった。ゆっくりをその手を取れば、思った通り暖かくて滑らかで、こんな場面だというのに思わず顔が緩みそうになる。
千鶴はといえば、初めてのことに不安と期待が入り混じった琥珀色の大きな瞳で土方を見上げている。

「千鶴、俺の顔じゃなくてこっち見てろ。」
「あっ…はい。」

苦笑いを浮かべつつ、薬指にそっとリングを嵌めてやれば、目を細めて嬉しそうに笑った。
ありがとうございますと言いながら、大切そうに右手を胸に抱いた。
ピンクゴールドの細いリングにして正解だった。彼女の白くて細い手によく似合っている。
 
「つ、次はわたしがやりますね…!」

そう言って、緊張からなのか震える手でシルバーのリングを土方の右手に嵌める。
色は違うが、真ん中に細いラインが入ったシンプルなデザインは同じだ。無事にお互いの薬指に収まったリングを見て満足感を覚えた。
手が離れてしまう前に千鶴の右手と自分の右手の指を絡ませれば、やわらかく笑いかけてくる。握り返される手は暖かくて、つけたばかりのリングだけがひんやりとした。

「…おそろい、ですね。」
「ああ、明日から大学でもつけてろよ?」
「わたし、嬉しくて講義中もずっと指輪を見てしまうかもしれません。」
「…それでいいぞ。」
「え?」
 
明日は、総司や平助だけでなく斎藤や南雲も押し寄せてきそうだなと思いながら、不思議そうに首をかしげる千鶴の頭を撫でた。
 
 
 

 
 
『……千鶴ちゃん、その指輪なに?』
『ち、ちづるっ!それ…!』
『雪村、嬉しいのは分かるが、講義に集中しないのは感心しない。』
『一ケ月で指輪なんてあの変態教師本当に許さない。』
 
 


 
Fin.
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