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企画参加への提出作品です。
企画サイト様はこちら 「春恋し、君の唄」

テーマは ‘‘運命‘‘

・SSL
・土千←沖

拍手[13回]





もう、随分我慢したと思うんだ。





「そろそろ君に飢えました」





あの子が入学した当時から、かまってあげてたのは僕なのに、彼女の目に映っていたのはずっと土方さんだった。

あの鈍い一くんだって気付いてる位なのに、誰に相談するでもなく想いを温めているようでからかうこともできなくて。

それでもじっとしていられないのは昔のままで、誕生日とかバレンタインみたいなイベントが近くなると、毎回そわそわしてたっけ。

そんな彼女の気持ちを、立場上受け取れないと言って遠回しにする土方さんも、それでも良いと真っ直ぐな瞳をする千鶴ちゃんも、二人共気付かなければ良い。

土方さんが前世を想ってあの子を見るのも、千鶴ちゃんが前世を想って隠れて泣くのも、僕は見て見ないふりをする。




「沖田先輩、ご卒業おめでとうございます。」


涙を浮かべながら伝えられる言葉は、今の僕にとってはただ残酷。

2年も待ってあげたのに、結局2人の距離は教師と生徒のままだった。

土方さんは、千鶴ちゃんが卒業するのを待っているのだろうか。立場なんて気にする必要がない程、2人は想いあっているのに。

でも、その事実を知っているのは未だに僕だけだ。



少し遠くで、卒業式の興奮冷めやらぬ剣道部員達が騒いでいるのが聞こえる。

満開の桜の木の下で、春風に流された髪に手を当てながら無理に涙を止めようとして微笑む彼女は、ひどくあの人に似合う気がして胸がざわつく。

もはや、僕達3人にだけ記憶があるのは、運命だったのだろうか。

僕達の中で1人でも記憶が無かったとしたら、彼女は僕を見てくれたのだろうか。

考えない様にしていただけで、今世で出会ってからの2年間、出口が見えない思考をずっと巡らせていた。

踏み出すことも出来ないまま。


「…千鶴ちゃん。」


あの時、掴めなかった彼女の温かい手を。

今度こそ、僕のものにできれば良い。


「僕と、昔の話をしようか。」




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