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※悲恋です。苦手な方はご注意ください。
兄妹間、またオリキャラとの恋愛表現があります。
お読みになった後の苦情は、一切受け付けません。
大丈夫という方、作品は以下からどうぞ。
昇華
「お兄ちゃん、結婚おめでとう。」
あの時の、千鶴の顔が頭から離れない。
自分が結婚することを、妹が一番喜んでくれると思っていた。
しかし、祝福の言葉を口に乗せながら、彼女が浮かべた表情はどこか悲しそうでもあり、何かをあきらめた様でもあった。
自分は、あの表情をどこかで見たことがあるのだ。何故か、それだけを頭が勝手に理解していた。
頭にかかった靄が拭い去れないまま、結婚式当日を迎えた。
つい1週間前、千鶴から式には参列できないと断りの電話が来た。
あいつは、この春から入学する大学の近くで、すでに1人暮らしを始めている。何でも大切な手続きがあるから、泊りがけでこちらに来るのは難しいらしい。
律儀にも電報が届いていて、千鶴の事をいたく気に入っている妻が会えないことを残念そうにしていた。
結婚して3年が経った。
千鶴はますます実家に寄り付かなくなり、帰ってきても正月と盆くらいである。
会うたび美しくなっていく千鶴に、親父は毎回のように恋人ができたのかと聞くが、そんな人は居ないといつも苦笑いを浮かべていた。
千鶴が帰って来たときは、いつも彼女が夕食を作る。口には出さないが、正直妻が作る料理よりも美味い。同じ家で育ったので当然だが秘かな楽しみになっている。
しかし、いつからだろうか。妹が自分の目を見なくなったのは。
千鶴が大学を卒業した後、あちらで就職を決めたので相変わらず会える機会は少なかった。
最近はたまに帰省してきても、子供達に相手をさせられる為あまり話す機会もない。
ある日、千鶴が久しぶりに2人で散歩に行こうと誘ってきた。
一緒に行きたいと騒ぐ子供達を何とかなだめ、昔よく遊んだ公園に2人で足を向けた。調度良く桜が満開で、そういえばこいつも桜が好きだった事を思い出す。
その時、ふいに横目で見た千鶴があまりにも美しかった。自分が知っている妹ではないように見えた。
――頭が、痛い。心臓の鼓動に合わせてガンガンと鳴り続ける。
ゆっくりとこちらに振り向いた千鶴の柔らかすぎる笑みに、何故か嫌な予感がした。
「私、結婚することになりました。」
嗚呼、また、その表情かと思った瞬間、頭に大量の記憶が流れ込んできた。
あれは、かつて千鶴が自分の最期を見送ったときと同じだったのだ。
言葉は何も口から出てこなかったし、体も思うように動かなかった。
そんな自分を、千鶴はさして気にしない様子で、ただ一言もう帰ろうと言った。
帰り道、並んで歩いた2人、もうかつての夫婦ではなかった。
千鶴は既に、全てを1人で乗り越えてしまったのだと、ただ漠然と理解した。
結婚式には、夫婦そろって参列した。
檀上からこちらに笑いかけてきた千鶴は、生まれた時からずっと俺が大切にしてきた、可愛い妹の顔をしていた。
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